第366話 どオカマ僧侶さんとなんですってぇ!!

【前回のあらすじ】


「これぞ奥義――魔剣パイ取り!!」


「……完敗、いや、完パイだぁ」


 魔女ペペロペにより、魔剣エロスを封じられてしまった男戦士たち。

 完全にペペロペ――のおっぱいの虜となってしまった彼。得意の精神操作もすっかりと封じられ、男戦士たちの貴重な戦力魔剣エロスは暗黒大陸の手に落ちた。


 そんな中、暗黒大陸の外交ゴブリン僧、ちゃっかりゴブリンティウスが宣告する。


「ここに宣戦布告をしよう!! 我ら暗黒大陸の兵は、これより三日後、ここ中央大陸連邦首都リィンカーンに攻め込もう!! それまでにその腹を決めておけ!! 降伏か!! それとも滅亡か!!」


 はたして、男戦士たちはどうするのか。


 エロスなしで戦うのか。


 それとも暗黒大陸に無様降伏してしまうのか。


 という所で、今週もどエルフさん始まります。


「――どうでもええわ。あんなエロ魔剣」


 まぁまぁ、そう言わないでよ、モーラさん。


◇ ◇ ◇ ◇


「なんですってぇっ!! 魔剣エロスを奪われたですってぇっ!!」


 暗黒大陸の刺客が襲来してから一日後。

 連邦大陸円卓の間に二人の来訪者がやって来ていた。


 一人は、教会の代表者にして女修道士シスターの妹。

 法王ポープリーケット。


 そしてもう一人は、絶叫してせっかく施して来た日除け装備厚化粧が剥がれ落ちる――教会の闇ことオカマ僧侶であった。


 叫ぶオカマ僧侶を前にして、男戦士たちが申し訳なさそうに頭を下げる。


「すまない、一瞬の隙を突かれてしまった」


「まさか暗黒大陸の狙いが魔剣エロスだとは思いもよりませんでした」


「だぞ。こちらは貴重な戦力を失ってしまったんだぞ」


「――どうでもええわ。あんなエロ魔剣」


「どうでもよくないわよぉっ!! どうしてくれるのよぉ!! エロスも今回の暗黒大陸の戦いに欠かすことのできない大切な鍵なのよぉ!! それをみすみす奪われるなんて――大失態じゃない!!」


「すまない、本当にすまない」


 この通りだとオカマ僧侶に頭を下げる男戦士。

 なまじエロスの知り合いだからだろうか、オカマ僧侶の怒りは大きかった。


 それでなくても異形のモノ――吸血鬼ヴァンパイアである。


 厚化粧がボロボロと零れ落ちる。

 血の色をした目が怪しく輝く。

 瘴気を頭の先から放ってその顔をひきつらせる彼女に、その場に居た者たちの多くが、男戦士を庇うどころか恐怖に身を竦めた。


「――どうでもええわ。あんなエロ魔剣」


 去り際のエロスの台詞で、心ここにあらずの女エルフ。

 そして――。


「落ち着いてくださいクリりんさま。魔剣エロスは奪われましたが、儀式魔法【漢祭】に必要なティトさんは無事です。ここは冷静に今後の作戦を練りましょう」


 満を持して中央大陸連邦に姿を現した法王ポープだけが、唯一冷静であった。


 自らの部下に窘められて、オカマ僧侶が少しだけ冷静さを取り戻す。

 すぅはぁと、何度か息を繰り返して昂った気持ちを抑えると、彼女は男戦士にもう一度視線を向けた。


 頭を下げたままの彼。

 変わらないその謝罪の姿勢に、どこか納得したようにオカマ僧侶が頷いた。


「……やっちゃったものは仕方ないわね。エロスが居なくなるのは中央大陸側にとって手痛い損失だけれども、リーケットの言う通り【漢祭】に必要な、貴方が無事だったのが唯一の救いよ」


「そう言って貰えると助かる」


「けど、絶対にエロスは助け出すわよ。なんと言っても、あの剣は――暗黒大陸の魔女ペペロペに対抗するための切り札」


「そのペペロペにあっさり篭絡されてたがな」


 女エルフの辛辣なツッコミをオカマ僧侶はあえて無視した。


 本当にあんなあっさりと色仕掛けで篭絡する魔剣が、母を救う切り札になりうるのか。女エルフの懐疑の視線はもっともであった。

 しかし、その視線を受け流してオカマ僧侶は続ける。


 どうやら以前に語った【漢祭】とは別の、彼女が吸血鬼化してまで今まで生きながらえて来たに、エロスは必要な存在であるらしい。


「とにかく、セレヴィを正気に戻すことができるのはエロスだけよ。儀式魔法【漢祭】で暗黒大陸と戦っている中、なんとしても奪還するの!! わかった!!」


 オカマ僧侶が握りこぶしを作って言った。

 男戦士パーティ一同は、その並々ならない気迫に顔を見合わせた。


「……暗黒大陸との戦いに加えてエロス奪還作戦か」


「大変なんだぞ」


「相手のちゃっかりゴブリンティウスも厄介そうですね」


「――どうでもええわ。あんなエロ魔剣」


 相変わらずの女エルフを他所に男戦士たちが溜息を吐き出す。

 そんな彼らに咳ばらいをして、話に一区切りをつけたのは、円卓の間に集まった騎士の一人――男戦士の弟子である女軍師だった。


 彼女は白い礼服で現れた法王ポープを見ていた。

 その視線に応えるように、法王ポープもまたオカマ僧侶に肩を並べながら彼女の方を見た。


法王ポープリーケットさま。拝謁できて光栄です。私はリーナス自由騎士団所属の騎士、【軍師】カツラギです」


「リーナス自由騎士団のカツラギですね。峠の山賊退治で功があったと聞いています。この大陸に住まう人々を代表して感謝いたします」


「いえ、それはリーナス自由騎士団として当然の責務を果たしたまでです」


 頭を下げた法王ポープ

 しかし、そんな彼女に対して、女軍師は厳しい視線を緩めない。

 それよりと女軍師は更に視線を鋭くして彼女に迫った。


 魔剣エロスを奪われた男戦士たちと違って、彼女は一歩引いた所で彼らのやり取りを見ていた。そして当然、この話――というより、法王ポープが連邦共和国首都リィンカーンを来訪した意味をしっかりと理解していた。


 そう、今彼らがやるべきことは、奪われてしまった人類の切り札を奪還する方法を考えることではない。

 儀式魔法【漢祭】を成功させることだ。


「ティト指導者マスターから聞きました。教会は、儀式魔法【漢祭】を執り行うのですね」


「はい」


「ここにこうして訪れて来たのは、儀式のために必要な益荒男――ビクター、ヨシヲ、ハンスの居場所について、分かったと考えて差支えないでしょうか?」


「その通りです」


 話が早くて助かると、法王ポープが穏やかな顔をして頷く。

 その横で、男戦士たちがなんだってと驚いた。


 そしてさらにその横で、女エルフが死んだ魚の目をしていた。


「――どうでもええわ。あんな変態ども」


 モーラさんしっかりしてください。

 魔剣パイ取りがショックだからって――エルフとしてボインの差を見せつけられたからって、幾らなんでもしょ気すぎでしょう。


 大陸の危機だというのに、胸のことばっかり考えるだなんて。

 流石だなどエルフさん、さすがだ――。


「――どうでもええわ。こんなアホアホファンタジー」


 そんなこと言わないで!!

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