第321話 ど戦士さんと懐かしい再会

【前回のあらすじ】


 連邦騎士団円卓の間。

 そこに遅れて現れた、現騎士団の団長たち。


 その中に、男戦士もよく見知った顔が紛れ込んでいた。


 そう、みなさんも、もうお分かりですね。


「なぜだ!? 旅の恥はかき捨てって言うじゃないか!! 軽いつもりで出た武闘大会で負けた相手と、どうして再会しなくてはならないんだ!!」


「アレイン様、言わなければ分からないことですよ、それ」


「しまった、つい口が――くっ、殺せ!!」


 そうです。

 もう、私のファンタジー作品なら、しれっと紛れ込んでくるアレイン様。

 ここにて再登場でございます。


 いい加減、どれだけこのキャラ使いまわすんだよ、しつこいぞ、って気がしますが、もう既に本作には出ていますのでご容赦ください。というか使いやすいんですよこの女騎士。


「いい加減にしろ――くっ、殺せ!!」


「出番あるだけマシでしょ。というか、タイトルなのに、まったく前話で触れられることのなかった、私の立場はどうなるのよ」


 主人公のモーラさんを置いてきぼりに、はてさて、話は進みます。


◇ ◇ ◇ ◇


「連邦騎士団第七部隊団長、アレインだ!! まさか伝説の千鬼殺しのティトがお前だったとはな!! ふふっ、だが、私が誉ある連邦騎士団の団長であることも――」


「ふむ、修練を怠っていないようだな。あれから戦士技能は上がったか」


「いえ。それよりティトさん、戦士技能レベル8への到達、おめでとうございます」


「まだ正式な鑑定を受けた訳ではないからなんとも」


「いえ、ティトさんなら間違いないですよ。そうだ、もしよければ連邦騎士団のスキル鑑定師に鑑定を依頼するのはどうでしょう。すぐに融通してくれると思いますよ」


「無視しないでぇっ!!」


 女騎士をそっちのけにして、有能な従士と懐かしそうに話し込む男戦士。

 かつて武闘大会で戦った従士について、その才能を高く評価していた彼は、顔を合わすなり自然と声をかけた。また、従士にしても、はじめて自分を負かした武術の達人である男戦士に、ごくごく自然に挨拶をした。


 女騎士のことなど眼中になしである。

 というかそもそもとして――。


「騎士団長は私だ!! こっちを見て話をしてくれ、お願いだから!!」


「……えっ、あぁ、すまない」


「よし!! それじゃ、気を取り直して!!」


「……その前に一ついいか?」


「なんだ!!」


「……どなたでしたかな? 前に、お会いしましたっけ?」


 ずるり、と、足を滑らせてその場にこける女騎士。

 真顔でそう言った男戦士。冗談でもなんでもなく、至極真面目に、心の底から分からずに、彼がそう言っているのは間違いなかった。


 それもそうだろう。

 だって彼女は、彼と戦っている間、女エルフとずっと追いかけっこをしていたのだから。

 顔を覚えているはずがない。彼と刃を交えた従士ならいざ知らずである。


 運命の再会から一転しての、誰だお前状態に、意気消沈する女騎士。

 もういいと背中を向けていじけだした彼女に、あわてて従士がフォローに向かったのだった。本当にこの女騎士にはもったいないよくできた従士である。


 さて。


「ほう。うちの騎士団の有望株、未来の騎士団長とも言われているトットをして、そこまで言わしめるとは」


「実力は証明されたようなものですな」


 と、勝手に盛り上がる円卓についている他の団長たち。

 女騎士はともかくとして、彼女の従士はそこそこ信頼されているらしかった。


 人生、何があるか分からないものだな、と、しみじみと思う男戦士。

 と、そんな彼に、おほんと咳払いする者があった。


 そう。

 思いがけない女騎士――の従士の登場により、出鼻をくじかれた老騎士だ。


「おぉっ!! おぉっ!! 貴方がエルフ・パイ・メチャデッカー!!」


 仕切り直しとばかりに同じセリフをもう一度言う老騎士。

 展開が展開だけに仕方がない。だが、老人にはいささか可哀想な仕打ちだった。


 ふむと、今度はそれにちゃんと応えた男戦士。

 向けられた視線に臆することなく、彼は老騎士へと歩み寄った。


「どうして俺の魂の名を?」


「知らぬ者などおらぬ。白百合女王国でのエルフ垣退助の口上。その壮挙について知らぬ、エルフ好きはこの大陸には居らんよ」


「なに? するともしや貴殿も?」


「エルフ・サコツ・ウッスラー!! ワシのエルフ名じゃ!! そして何を隠そうワシこそ、連邦騎士団第一部隊団長バルサ・ミッコスである!!」


 バルサ・ミッコス。

 その名を聞いて男戦士が戦慄した。


 エルフ名ではなく、その名の方に驚いたのは他でもない。

 彼がその昔、大陸の南北大戦争において名を馳せた英雄だったからだ。


 かつて、南の王国が中央連邦共和国に対して仕掛けた戦争。彼は、その戦いで連邦騎士団を率いて戦った勇将である。


 彼が率いる一軍が動くだけで、戦況は大きく覆り、戦線は自在に捻じ曲がる。

 彼自身の戦闘能力は大したことない。だが、その戦略眼はすさまじく、敵の弱点を瞬時に見抜き、致命的な損害を与える。

 十年に渡って続いた南の国との大戦のことごとくに参加し、あまつさえ「バルサ・ミッコスのためだけに、我が国は降伏を申し入れる」と、南の国の王に言わしめた傑物だ。


 北のバルサ・ミッコスに、南のバルトロメオ。

 時代は違うが、英雄として広く名前の知られた人物。

 まさしく、男戦士などよりも、遥かに英雄と呼ぶにふさわしい男だったのだ。


 これには流石に男戦士も、あわてて手を拭い、握手を求めた。


「バルサ・ミッコス殿!! まさか、まだ、現役で騎士団を率いていらっしゃったとは……拝謁できて光栄です!!」


「ワシもお主のような、気骨のあるエルフメイトと会えたことが嬉しい!!」


「そんな、俺など……。というか、バルサ殿も、エルフメイトだったとは」


「まぁ、南北大戦争の折りの話ばかりが有名じゃからのう。ちなみに、お主がエルフ喫茶なるものをはじめるために、北の大賢者に会いに行ったことも耳にしておる」


 おぉと、思わず男戦士から喜色ばんだ声が漏れた。


 古の英雄が自分の事を知っていてくれる。

 気にかけてくれている。


 それは、男戦士でなくても、喜びもひとしおというものだろう。


 老騎士は、男戦士の手を握りしめる。見かけからは想像できない、老人離れした力強い握手をしてみせると、来てくれて嬉しいぞと豪放に彼は笑い飛ばした。

 思わず、その様子に男戦士の顔に似合わない笑顔が浮かぶ。


「嬉しそうだな、ティト」


「英雄に認められて嬉しくない人間などいないだろう」


「つっても、戦士技能レベルはそこそこのおっさんだぞ。頭はキレるようだが」


「それでも英雄は英雄だ。救国の英雄スコティと比べれば見劣りするかもしれないが――俺は嬉しい」


「……そうかよ」


 ミーハーだなと少し拗ねた調子で言う魔剣エロス。

 何がそんなに気に入らないのかと、男戦士はその魔剣の様子を少しばかり怪訝に思うのだった。


「あぁ、うん、ちょっとよろしいかな、バルサ老。僕にも、ティト殿に挨拶をさせてほしい」


「おぉ、これは済まなかった。お主も会いたがって居ったのう。戦士技能レベル8の達人とはどのようなものかと」


 老騎士と男戦士を引き離したのは、栗毛色マッシュルームヘアーの男。

 その騎士は――実に毒々しい、ピンク色をした鎧を着ていた。


 男なのに、どピンク。

 きっと戦場だったら凄く目立つだろう。

 そして胸にはハートのエンブレム。

 いったい何を考えているのか――。


 ちょっと目を疑うようなそのセンスに、男戦士が驚いていると、彼もまた手を差し出してきた。その手は、ピンク色の柔和な鎧には似つかわしくないほどに節くれだっている。まさしく、剣や斧、槍を握りしめて来た、戦士の手だ。


「はじめまして、僕は連邦騎士団第二部隊を率いている団長カーネギッシュだ」


「……まさか、【凶戦士カーネギッシュ】!?」


「はっはっは、よしてよ恥ずかしいじゃないか。まぁけど、巷じゃそんな風に僕の事を呼んでるよね。本当勘弁して欲しいよ。僕はただ、愛と平和と自由のために、剣を取っているだけなのにさ……」


 そう言って遠い目をするマッシュルームヘアーの騎士。

 男戦士の背筋にひやりとしたものが走った。というのも、彼もまた、バルサ・ミッコスと共に、その名を大陸で知られた戦士だったからだ。


 もっともその名は、どちらかと言えば、畏怖を籠めてだが――。


「ほら、みんなが僕のことを語るときに出て来る、【皇帝の土曜日】だけど。あれは実のところ不幸な事故だったんだよ」


 にこやかに語るカーネギッシュ。

 しかし、そんなフレンドリーな態度にも関わらず、男戦士の手は震えていた。


 おい、どうしたんだよと、これには魔剣もおもわず心配の言葉を投げかける。

 すると彼は、少し間を置いて心の声さえ震えさせて魔剣に語った――。


「彼は、スコティの永遠のライバルとされた男。連邦騎士団の【黒い死神ヨハネ・クレンザー】――その息子だ!!」


「なんだって!?」


 これに、思わず狼狽えたのは、魔剣エロスの方であった。


 震えた。

 エロスは激しく狼狽えたバイブした

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