第302話 ど男戦士さんと暗黒大陸の魔手

【前回のあらすじ】


 冒険者ギルドでくつろいでいた男戦士。

 そんな彼の元を訪れたのは、中央大陸連邦騎士団の若い騎士であった。


 なんと彼が言うには、男戦士はかつてリーナス自由騎士団と呼ばれる戦闘集団に所属し、大陸の危機を救った英雄なのだという。

 そんな男戦士を、青年騎士は連邦騎士団の団長に迎えたいと言い出すのだった。


 過去の事については言葉を濁しながらも、青年騎士の話を聞くことにする男戦士。

 はたして、青年騎士の言葉は本当なのか。

 そして男戦士はどうするつもりなのか。


 そして――やっぱり今週もシリアスモードで始まるどエルフさん。

 ギャグを期待してついて来てくれている読者たちに申し訳ないと思わないのかどエルフさん。その長い耳は飾りなのかどエルフさん。


「いや、あたしに文句を言われても。というか、蚊帳の外の話な訳だし」


 そんなこんなで、今週も、どエルフさん始まります。


◇ ◇ ◇ ◇


 連邦騎士団に所属している青年騎士。

 彼は前のめりになってソファーに腰かけると、すぐに自分たち連邦騎士団が置かれている状況と、暗黒大陸の動向について語り始めた。


「連邦騎士団は、暗黒大陸に対して何人かの諜報員を派遣しています。彼らが集めた情報によれば、今、暗黒大陸では、あろうことか統一王国ができあがり、中央大陸への侵略を画策しているというのです」


「……なに?」


 それは北限の谷にて、男戦士が幸福の神アリスト・Ⓐ・テレスより聞かされた情報と、まったく同じ内容であった。


 にわかに信じがたい内容。

 しかしながら、全てを見通す神であるアリスト・Ⓐ・テレスの言葉を、男戦士はこの時まで実感なくぼんやりと信じていた――。


 だが、それは、目の前の剣士の言葉によって、事実なのだと証明された。

 実際に、戦乱巻き起こる暗黒大陸に、統一王国は出来上っていたのだ。


 立ち向かわなければいけない脅威は、もう、目の前まで迫っている。


「暗黒大陸をまとめ上げた首魁は?」


「――魔女ペペロペの再来。女魔法使いと呼ばれています」


 これも、アリスト・Ⓐ・テレスから聞かされていた情報と同じだ。

 男戦士が思わず腕を組んで唸り声を上げる。


 しかし――。


「それと」


「それと?」


 予想していなかった言葉が、青年騎士から飛び出してくる。

 魔女ペペロペが率いているのではなかったのか。思わず男戦士が目を瞬かせた。


 組んでいた腕はいつの間にか解かれて、手は彼の膝の上に移動している。


 食い入るような男戦士の視線に、一瞬だが青年騎士が躊躇した。

 しかし、そこは彼も使命を帯びてやって来ている身。

 咳払いの後、彼は話を続けた。


 そう、彼が語ったのは――。


「魔女ペペロペの再来と呼ばれる者の横には、漆黒の鎧に身を固め、黒い長髪をした暗黒騎士の姿が常にあるそうです」


 暗黒騎士についてのことだった。


 思わず、その特徴を聞いて、男戦士の頭の中を過るのは――。


 過日、この街で友誼を交えた騎士。

 共にエルフ奪還のために戦った同志。

 シュラトこと――ツルペタ・エルフ・オニーチャンスキスキーのことであった。


 まさか、とは思うが、彼ではあるまいな。


 そうやって一度勘ぐってしまえば、男戦士の心はにわかにざわついた。

 そんな彼の心情など知る由もなく青年騎士が話を続ける。


「魔女ペペロペの再来と暗黒騎士は、それはもう強力な軍団を率いているとか。彼らが率いる兵たちは精強無比にして、死を恐れぬバケモノたち。そんな奴らが、暗黒大陸から中央大陸へ、進出しようと目論んでいるのです」


「……証拠はあるのか」


「南の王国、そして白百合女王国の動乱がその端緒」


「それはまぁ、そうなのかもとは思っていたことだが。しかし、直接的に暗黒大陸が、兵力を動かしたという証拠はどこにもないのだろう?」


「……暗黒大陸は、まず、もっとも近い、西の王国への侵略を考えていると我々は見ています。実際、西の王国の海路には、最近になって私掠船の出没が多く、その取締りに彼の国の海軍は躍起になっているそうです」


 私掠船に見せかけた、暗黒大陸側の斥候だろうか。

 西の王国に対してちょっかいをかけ、彼らの海戦能力がどれくらいのものか、見極めようとしている――と考えれば色々と腑に落ちる。


 流石に、連邦騎士団の情報だけあって、真実味があった。

 なるほどと、男戦士は納得した様子で首肯すると、ゆっくりと瞼を閉じた。


「それで、どうして俺に助勢して欲しいという話になるんだ。俺はもはや、騎士団からは遠のいた身だ。今更、大多数の兵を率いて戦うなど、できはしないぞ」


「そんなことはありません。我々には、先陣を切って暗黒大陸の兵と戦う、強きリーダーが必要なのです」


「それは連邦騎士団の今の団長たちでは務まらないのか?」


 連邦騎士団は、全部で七つの団からなるという。

 その団長たちはそれぞれ、大陸でも勇猛果敢で知られた一騎当千の強者だ。


 わざわざ、男戦士が出しゃばらなくても、彼らが率いればなんの問題もないように感じる。


 幸福の神より、暗黒大陸と戦えとその運命を聞かされた男戦士。

 だが、連邦騎士団の団長として戦うことが、その運命なのか。

 そうだとは、どうしても彼には、思うことができなかったのだ。


 もちろん、それに対しては青年騎士も、もっともだという風に頷いて返す。

 いきなり団長になれといわれて、受け入れられる方がおかしいだろう。


「ティト殿の言う通りです。今の団長たち――今の私たちだけで、この脅威に立ち向かうのが、本来であれば筋なのでしょう」


「で、あれば、俺に声をかけるのは筋違いというものだろう」


 他を当たってくれ。


 自分以外に、暗黒大陸の脅威と真正面から対峙するのにふさわしい人物が、この世の中にはきっといるのだ。

 そんな感じに冷淡に吐き捨て、男戦士はソファーから立ち上がろうとした。


 そんな彼に。


「待ってください!! でも、それではダメなのです!!」


 青年騎士は声を張り上げた。

 待つ理由などこれっぽっちもないのだが――それでも、男戦士はつい、その裂帛の気迫に後ろ髪を引かれて、その場に足を止めた。


 何故、ダメなのか。

 青年騎士から語られたその答えは、実に男戦士にとって意外なものだった。


「……啓示が、あったんです」


「啓示?」


「えぇ、教会から騎士団に啓示が。従来の騎士団ではない新たな騎士団を造れ、と」


 教会。

 新たな騎士団。


 男戦士はすぐさまソファーに腰かけると、また青年騎士の顔を覗き込んだ。

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