第二章 えぇっ!? どうして男戦士(アホ)が騎士団長に!?

第293話 どエルフさんと久しぶりのどエルフ専用装備

「はい、という訳でね。中央大陸こっちに戻って来たということで、さっそく装備を整えようって話になった訳ですけどね」


 と、馴染みの道具屋にやって来た女エルフが言う。


 なんで説明口調なんだよ、と、珍しく店主が戸惑った。


 はたして、街への帰還より一夜が明けた。


 男戦士ご一行揃い踏み。


 バビブの塔攻略に際して、装備一式を塔攻略へと特化した物に変更していた彼らは、改めて冒険装備を整えることにしたのだ。


 今後、暗黒大陸からやって来る多くの脅威。

 それらとの戦いを考えると、もう少し適した装備があるだろう。


 なにより。


「北の大エルフの依頼の件もあるから、まけてくれるんでしょ、ギルドマスター?」


「うぉっ、なんだ、足元見て来たぞこのエルフ。いつになく強気だ」


「この店で一番いい装備を出せ――とは言わないけれど、そこそこの物を用意して貰おうじゃないのよ」


 なんと言っても、大陸を越え、氷の大地を渡り、北限の地に至って――なおかつ南洋の塔を攻略するという、大冒険を果たしたのだ。

 報酬は報酬として、強気に出る所は強気に出る。


 そこは冒険者稼業で揉まれてきた女エルフ。

 ちゃっかりとしていた。


 参ったな、と、頭を掻いた店主であったが――。


「まぁ、そう言うだろうと思ってね、用意しておきましたよ。とっておきの、エルフ専用装備アイテムを!!」


 こちらもまた、引けを取らないエルフマニアということを忘れていた。

 思いがけない切り返しに、おぅ、と、女エルフが、ちょっと身構える。


 藪蛇だったかな。


 自分で言っておきながらそんなことを思って冷や汗を流す女エルフ。

 その前で、ごそりごそりと道具屋の店主がカウンターの下を漁る。


「はい、では、今日ご紹介する装備品はこちら!!」


 そう言って、店主が取り出したのは、木を編み込んで作り上げた、小ぶりのリストバンドであった。


 職人芸。

 規則正しく幾何学模様を描くように編み込まれたそれは、左右対称に鳥の羽の意匠が施されている。材料費はそれほど高くなさそうだが、それなりに手間のかかる品物であることは一目にして分かった。


「エルフ専用装備エントリーナンバー十四番。【軽身の腕輪】。これを身に着けたエルフはあら不思議。ただでさえ早い敏捷度が二倍にアップ。戦闘において、イニシアチブを取れる確率がグンバツに高まります」


「……って、これ、狩人タイプのエルフ向け装備じゃない」


「魔法使いタイプのモーラさんには、あまり向いてない装備かもしれませんね」


 冷徹にツッコミを入れる女エルフ。


 エルフと言っても、冒険者としての戦闘スタイルはそれぞれだ。

 弓矢を手に取りスカウトとして戦う者もいれば、女エルフのように魔法を使うエルフもいる。中には、あえてステゴロで戦う格闘タイプのエルフもいる。


 魔法使いは、呪文を唱えたり精神を研ぎ澄ます必要性から、どうしても素早さを犠牲にしてしまう。しかしながら、この腕輪をつけた所で、別に早口言葉ができるようになる訳でもなし、魔力を練り上げるのが早くなる訳でもない。


 はっきり言って無用の長物である。


「こんなんより、もっと使えるモノ出してよ」


 使えない道具屋だなぁ、と、侮蔑の視線を向ける女エルフ。

 そんな彼女に、ふふっ、と、店主は何故か余裕の笑顔で応えた。


 なんだその反応はと、女エルフが眉間に皺を寄せた。


「確かに魔法使いのモーラさんには無用の長物かもしれない」


「分かってるならなんですすめた」


「しかし――彼女ならどうかな?」


「彼女?」


 そう言って、店主がそっと指をさすとそこには。


「私が、男も熊も抱き〇して四百年!! 熟れ熟れの美熟女セクシー・コマンダー・エルフ!! エルフィンガー・ティト子よぉ!!」


 真っ赤なドレスにエルフ耳、そして、頬にうっすらと紅をさした男戦士。

 いや、エルフィンガー・ティト子が立っていた。


 二部ぶりの登場である。

 当然、男戦士パーティは、彼を除いて全員がその場にずっこけた。


「さぁ、エルフィンガー・ティト子よ、さっそくこれを装備するんだ!!」


「任せなさぁい!! ふぬぁあああああああっ!! こっ、これはっ!?」


 しゅん、しゅしゅん。

 空を切って、拳と蹴りを繰り出すエルフィンガー・ティト子。

 一ミリも嬉しくない盛大かつ豪快なパンチラとブラチラ(中身はブルースライムの水風船)をかました彼女は、ふぅ、と、息を吐き出して静止した。


 それから、やりきったという感じの、いい笑顔が店主へと向けられる。


「カタログスペックは二倍とあるが、実際には通常の三倍の素早さに感じる。素晴らしいエルフ専用装備だ」


「今ならこれに、ななな、なんと、エルフのリーダーになれる、エルフアンテナ(装備部位は頭)をつけて、お値段なんと298ゴールド


「安い!! 濡れたわ!!」


「更に、即決ならもう一つ、【身軽の腕輪】がついて来ます!!」


「連絡先は!?」


「エルフ・ゼロ・ゼロ・ゼロ・ナイ・ナイ・ムネ・ナイ・モーラー・サーン♪」


「エルフ専門道具屋♪」


 歌い終わった所に、女エルフが容赦のない雷撃を二人に浴びせかけた。

 流石に、ここまで盛大な茶番を見せられ、さらに弄られたとあっては、女修道士シスターも雷撃を放とうとする彼女を止めるのを諦めた。


 仕方のないことであった。


「勝手に妙な連絡先を作るな!! そして私の名前を入れるな!!」


「……怒るところがそことは」


「……流石だなどエルフさん、さすがだ。ぐふ」


「怒るわ!! むしろ、そこ以外のどこで怒れというのか!!」

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