第289話 どエルフさんと帰還
【前回のあらすじ】
アフター・エルフ・喫茶1092年。
宇宙に進出したエルフたちは、森で成長した為に比較的小さい胸のサイズに落ち着いた
1092年3月。
後に、エルフ貧乳戦争と呼ばれるこの――。
「そういう話じゃないから!!」
◇ ◇ ◇ ◇
「まぁ、エルフ喫茶が上手く行くことは分かった。これで、店主から受けた依頼は無事に完遂という訳だな」
「その代わりに厄介な仕事を引き受けちゃったけれどね」
厄介な、とは、間違いなく、暗黒大陸との対決についてのことである。
女エルフの辛辣な口ぶりに、うぅむ、と、唸る男戦士。
しかし、すぐにそれを女エルフがフォローした。
「大丈夫。私も望んでのことよ。ティト。貴方の判断に着いて行くわ」
「私もです。ティトさん、一緒に中央大陸の――ひいては、魔神を倒すために頑張りましょう」
「だぞ!!」
力強いパーティの返答に、男戦士が少し瞳を潤める。
いい仲間を持ったなという感じに、手の甲でその涙を拭った彼は、あぁ、と、頷いて彼女たちを見渡したのだった。
さて――。
「それでは、話も無事に終わったことだし。せっかくだから、また、【ドーン!!】で、君たちの本拠地としている街まで送ってさしあげよう」
「お、本当か?」
「珍しく気が利くじゃないのよ。神様」
幸運の神の申し出に男戦士たちが喜色ばんだのは仕方がない。
なんと言っても、ここまで来るのに相当な苦労をした彼らである。
それを一瞬で、目的地まで戻れると聞けば、言葉尻が弾むのは仕方なかった。
だが、申し出に反して、幸運の神の表情は硬い。
「というより、一刻も早く中央大陸に戻った方が良いでしょう。既に、暗黒大陸は動き出しているのですから」
彼なりに危機感があってそれは申し出ている、ということらしかった。
改めて、神から引き受けてしまったミッションの重大さに、男戦士パーティが沈黙する。
それを察して、幸運の神が場を和ますように笑った。
「大丈夫です。私は、ティト氏たちを信頼していますから。きっと、暗黒大陸に渦巻く野望を打ち砕いてくれるでしょう」
「……任せてください」
「それが成った暁には、そうですね――エルフ喫茶でひとつ、打ち上げにティーパーティでもしようではありませんか」
ホーッホッホッホ、と、笑う幸運の神。
妙に信頼されてしまったものだな、と、いう感じ。
面映ゆそうに男戦士が鼻頭を指先で擦り上げた。
ふと、その視線が男戦士の腰に結わえられている魔剣に注がれる。
「エロスも、よろしく彼らを導いてあげてくださいね」
「……ったく、しょうがねえ。死んでもこんな目に会うとは、ほんとツイてねえぜ」
やはり二人の間にしか、通じない何かを感じさせて喋る魔剣と幸運の神。
結局、その違和感について聞き出す間もないまま、幸運の神がその指先を、女エルフの方に向けたのだった。
「では、皆さんに神の祝福があらんことを。おっと、しまった、私が神でしたね」
ドーン!!
その掛け声が、再び、北限の谷へと響き渡ったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「あ、いたたた……」
「まさか、道具屋の中に直接転送されるとは……」
「皆さん、大丈夫ですか? 特にケティさん?」
「大丈夫なんだぞぉ」
四人――そこに加えて、大剣使いと金髪少女は、久しぶりに行きつけの道具屋の中に居た。海も、山も、森も、そして壁も飛び越えて、一気に店の中へと転移した彼らは、僅かに開けているカウンターの前のスペースに、折り重なって転移した。
ワンコ教授と金髪少女が最後になるようになったのは、幸運の神なりに配慮してくれたということだろうか。
なんにしても、男戦士たちは全員無事に、道具屋へと帰還を果たしたのだった。
しかし――。
「妙だな、店主の姿が見えない」
「ほんとね。いつもだったら、カウンターで、意味もなく突っ立っているのに」
もしや、何かあったのだろうか、と、心配して辺りを見渡す男戦士と女エルフ。
そんな彼らの耳に、どたどたと、慌ただしい足音が届いた。
すぐに道具屋の扉を開いて入って来たのは店主。
だが――。
「なんですのぉ!? いったい、
その姿は、緑色のドレス姿に、金色の長髪のカツラ、そして、張りぼてにより伸ばされた長い耳という、異様な姿であった。
エルフ、に、見えなくもない。
見えなくもないが。
「「――お前がどうしたぁっ!!」」
思わず、男戦士と女エルフがツッコんでしまう。
それも仕方のない姿であった。
一部を挟んで、久しぶりの登場だというのに、このはっちゃけぶり。
流石だな店主、さすがだ、で、ある。
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