第290話 どエルフさんと俺がママだ
【前回のあらすじ】
幸福の神の強制転移魔法により中央大陸へと戻った男戦士たち。
そんな彼らを待ち受けていたのは――エルフに女装した道具屋の店主であった。
「なんですのぉ!? いったい、
「「――お前がどうしたぁっ!!」」
男戦士も思わずツッコむはっちゃけぶり。
とまぁ、そんなこんなありつつも、今週もどエルフさんはじまりはじまり。
◇ ◇ ◇ ◇
「いやぁ、あれだよ。やっぱりさ、小さい少女エルフたちに親としての愛情を注いでやりたいと考えるのが、人情――いや、エルフ情って奴だと思うんだよ」
「……で、それがその奇妙な格好とどう繋がるのか?」
「彼女たちは母親の愛に飢えている。そう、思ってさ」
「あんた男なんだから父親の愛を与えてやればいいだけでしょ!! なんでそこで女装する必要があるのよ!!」
女装する理由が分からない。
怒りを籠めた視線が店主に突き刺さる。
その場に正座して、しゅんと頭を垂れている彼に、女エルフは容赦なく額に青筋を立てて迫るのであった。
まぁまぁ、モーラさん、と、止めたのは男戦士。
「店主も、大勢のエルフ少女を預かる責任感からやったことじゃないか。その気持ちを汲み取って、許してやったらどうだろうか」
「……ティト」
「それにこうして改めて見てみればなかなか……。うん、悪くないエルフっぷりだと、俺は思うんだが。どうだろう?」
「いやどうだろうって」
顎先をなぞりながら、店主の方を見てキリっとした顔をする男戦士。
その視線に、やだ、そんな照れるじゃないのよ、と、店主が戸惑った顔を見せた。
エルフメイトだからか。
それとも、自身も度々女装――エルフィンガー・ティト子――になるからか。
彼は店主のその格好に、素直に感心している様子だった。
バカばかり、と、頭を抑えて女エルフが溜息を吐き出した。
すると、そんな彼女の心境を憐れむように、今度は
そんな苦悩するエルフはそっちのけにして。
男戦士と店主は、久しぶりの再会もそこそこに、エルフメイトとしての厚い友誼を確認しあう。
「おぉ、ティト。分かってくれるか、この俺のエルフへの熱き思いを!!」
「分からいでか。同じエルフメイトではないか!!」
「ティト!!」
「店主!!」
がっしりと、抱き合う男戦士と店主。
なんだこの光景、と、男戦士のパーティはもちろん、一緒に飛ばされた大剣使い、金髪少女までもが、どうしていいのか分からないという表情でそれを見ていた。
と、そんな所に、店主の預かっている少女エルフたちがやって来る。
「店主さん、どうしたんですかぁ。何か、おっきな音がしましたけど」
「あれ、その人たちは確か……」
こんな気がどうかしたような格好をしている店主。
だが、どうやら少女エルフたちには慕われているようである。
彼女たちは女エルフと違って、店主の女装姿に特段驚いた様子もなく、そして自然に声をかけるのだった。
その光景に、また、頭を抱える女エルフ。
膝を折ってその場に蹲った彼女は、あぁあぁあぁ、と、低く呻いた。
そんな彼女の頭に、そっとワンコ教授が手を添える。
今日はもう慰められぱなっしの女エルフであった。
そしてまた、そんな彼女を置いてきぼりにして、話はエルフ愛好家たちだけでずいずいと進んでいく。
「確か、北の大エルフさまの所に、私たちのことを聞きに行ってくれた冒険者の皆さんですよね?」
「帰ってこられたんですか?」
「エルフ喫茶、どうなるんでしょうか?」
次々に男戦士と店主を取り囲む少女エルフたち。
エルフメイト――エルフをこよなく愛する者からすれば、夢のような光景だ。
うほほ、と、少し男戦士が鼻の下を伸ばす。
すかさず、先ほど、店主に向けられたのと同じ、女エルフの侮蔑の視線が彼に突き刺さる。すると、彼はすぐにいつもの戦士の顔つきに戻った。
落ち着きのない様子の少女エルフたち。
彼女たちに向かい、おほん、と、店主が咳ばらいをする。
男戦士たちが冒険している間に、彼によってよく躾けられたのだろう。その咳払いにすぐに少女エルフたちは落ち着きを取り戻した。
「皆、まぁ、落ち着け。それについては、
「はい、お
いよいよ、ここに女エルフの頭痛が極まれり。
あんまりにも自然に出てきた店主の呼び方に、もう、どうしていいか分からず、彼女は発狂したように奇声を上げた。そして、すぐさまその場に立ち上がると、自慢の魔法の杖を取り出して、店主の方へと向けたのだった。
ダメです、と、咄嗟に
「離してコーネリア!! 私にはあの男を、放っておくことなどできない!!」
「親代わりになろうと、店主さんなりに頑張った結果じゃないですか!! 寛大な心で許してあげましょうよ!!」
「にしても、限度ってものがあるわよ!! お
離せ、離せともがぐ女エルフ。
それをなんとか抑え込む
まぁ、常識的な家庭事情でないのは間違いないが
女エルフと男戦士たちの間で、絶妙な温度差が発生する中、ポン、と、店主が男戦士の肩を叩いた。
「まずはこいつについて、改めて紹介しよう。北の大エルフへの謁見を頼んでいたティトだ。冒険者をしている」
「よろしく」
「そして――お前たちのお父さんだ」
お父さん、と、少女エルフたちの間で疑問の声が上がる。
血走っていた女エルフの瞳もさっと白ける。
そんな中、一人、納得したような顔をして、店主が男戦士を見て言った。
「これで安心して、母親役に徹することが出来る。よく帰ってきてくれた、ティト」
「店主――いや、お前」
「――貴方!!」
じっと見つめったかと思うと抱き合う二人。
キスこそしなかったが、まさしく理想の夫婦の姿がそこにはあった。
そんな二人に向かって――よく分からない少女エルフたちの拍手が飛び交う。
そして、それに少し遅れて。
火炎魔法がエルフアホ二人に向かって飛んだのだった。
もちろん、飛ばしたのは他でもない。
肩を怒らせ般若の顔をした女エルフである。
「これ以上、少女エルフたちにトラウマを植え付けるな!!」
ごもっともである。
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