第285話 どエルフさんと運命の悪戯

【前回のあらすじ】


 暗黒大陸を支配する魔神シリコーン。

 その影響が及ばないように、神々はかつて、大英雄シコティとその仲間たちに力を貸したと女エルフたちに語った。


 しかし、魔神は封印するだけにとどまり、ペペロペのみが倒された。

 残念そうに語る魔剣エロス。


 本来であれば魔剣の見てきたような言葉に食いつきそうな女エルフ。

 しかし、立ち上がり、幸福の神に詰め寄ってまでして彼女が食いついたのは、大英雄シコティと共に、暗黒神へと立ち向かった仲間たち。


 その一人、魔法使いのエルフについてだった。


「教えて!! セレヴィは――養母おかあさんは、いったいどこに居るの!!」


 その問いに対して、申し訳なさそうに顔を歪めて、幸福の神が答える。

 それは実に、そして、余りにも、女エルフに対してショッキングな答えであった。


「貴方が長らく探してきた、貴方の養母――伝説の魔法使いセレヴィは、今、暗黒大陸にて囚われているのです。第二のペペロペ、その器として」


◇ ◇ ◇ ◇


「第二のペペロペの器!?」


「はい。貴方はそれに覚えがあるはずですよ、モーラ氏。なにせ、彼女の失踪の場に立ち会ったのは、他ならない貴方なのですから」


 女エルフの顔が急激に青ざめる。

 その血の気の引いた表情が、幸福の神が語ったことが、消して嘘偽りなどではないと言う事を、はっきりと物語っていた。


 だが、それで大人しくなる女エルフではない。

 彼女は深呼吸をすると、もう一度、目の前の幸福の神に強い眼差しを向けた。


 そんな彼女を、隣に座る男戦士もまた、同じくらいに力強い目で見守る。


「……どうしてそのことこを」


「神はなんでも知っているのです。貴方の養母のことも、貴方が養母と出会ったときのことも、そして、どうして貴方の養母が、運命の悪戯により、倒したはずのペペロペの器になってしまったのかも」


「やっぱり、私が触れようとした、が、原因だったのね」


「……そうです。が原因で、スコティ氏が倒したはずのペペロペは復活した。いや、より正確には、ペペロペは復活するために、以外にも多くの遺物を残していた。それは私より、それを厳重に管理している教会の関係者であるコーネリア氏の方がお詳しいことでしょう」


 そう言って、女修道士シスターに幸福の神が視線を向ける。


 思い当たる節がない、と、一度は首を傾げた女修道士シスターであったが、すぐに、思い直したように彼女は眉を吊り上げた。


 そして、アレ、ですか、と、小さく呟く。

 どうやら彼女にも、それがなんであるか、理解ができたようだった。


 アレとは、そう――生前にペペロペが身に着けていた装備のことである。


 かつて、白百合女王国で、女王を混乱させ、パンツビームを放たせた魔性の下着。

 それ以外にも、ローブやブーツ、手袋からベルト、ボンテージスーツなど。彼女が身に着けていたものならばなんでも。


 ペペロペが身に着けていたものは、強力な魔性を帯びており、身に着けることで精神を混乱させてしまう。俗に、ペペロペの遺物と呼ばれ、教会が収集し封印している、おぞましい呪いの装備であった。


 その力については、それを装備した白百合女王国の女王と戦った、男戦士たちはよく知っている。

 そして、もとよりそれを管理する立場の女修道士シスターも理解していた。


 話の要領が掴めたのを確信して、幸福の神は話を続ける。


「ペペロペは、万が一にも自分が倒された時を考えて、世界中に自分の下着――いえ、遺物をばら撒いておいたのです。そして、自分が何者かにより倒され時には、その下着――いえ、遺物の力を使って、強大な魔力を持った人物を、第二のペペロペにしようと考えていた、とまぁ、そういう次第ですね」


「だからこそ、ペペロペ討伐を終えて教会に戻られた司祭クリネスさまは、すぐにペペロペの遺物を徹底的に管理すると宣言し、各国にかけあいました。当時の国々の協力もあって、それらはほぼほぼ回収したと思っていたのですが」


 どうしてそれを、女エルフの養母――セレヴィが持っていたのか。

 そして、それに触れてしまったのか。


 女エルフが幸福の神から手を離すとその場に膝をつく。

 うぅっ、と、すすり泣く様な声がしたかと思うと、彼女はその場に蹲った。


 すぐにその肩をそっと男戦士が抱く。声にこそ彼は出さなかったが、それは大丈夫だと、彼女を励ますような力強い抱擁であった。

 しかし、それに申し訳ないという感じで、彼女は顔を地面に向ける。


「知らなかったの。がそういうものだなんて、私、世間を知らないエルフだったから」


「モーラさん」


「仕方のないことですモーラ氏。まっとうに森で育ったエルフなら、それを見て、ペペロペの装備だと気が付くことなどできない。事故だと考えるのが普通でしょう」


「……テレス」


「しかし、ペペロペが常備していた装備だけに、彼の道具が持つ魔力は、他のペペロペの遺物のそれより遥かに大きかった」


 それが、教会ではなく、あえて女エルフの養母がそれを持っていた理由であった。

 すなわち、彼女が触れようとしてしまったそれとは――。


「養母のベッドの下にひっそりと置かれていた――【ピンクの暴れん棒】!! あれが装備するものだなんて、そんなの森育ちのエルフに分かる訳ないじゃない!!」


「そうか、【ピンクの暴れん坊】だったのか……」


「それなら仕方ないですね……」


「えぇ、仕方ないことです。そもそもとして、それを常備していたペペロペの方が、どうかしているのですから……」


【アイテム 暴れん棒:魔力を供給することにより激しく暴れるおもちゃ。身に着けると、集中力-1の代わりに高揚状態なる】


 まさかの常備アイテムに、一同、意気消沈する。

 流石にこの展開は重すぎて、幼い頃からどエルフだったんだな、流石だなどエルフさん、さすがだ、なんて軽口、男戦士もとてもじゃないが言えないのであった。


「普通に、魔法の杖か何かだと思ってたのよ!! けどまぁ、小さいし、太いし、曲がってるし!! なんか変だなとは思ってたのよ!! けど、けどぉ……」


「いいんだモーラさん、もういいんだ」


「そうです。仕方のないことですよ。幾らどエルフと言っても、人間の作り出した道具についてまでは、守備範囲外。無痴は恥ではありません」


「うっ、うわぁあああああん!!」


 女エルフの後悔の叫び声が辺りに響く。


「だぞ? いったい、何の話なんだぞ? よく分からないんだぞ?」


 大人たちのどうしようもないやり取りを、ピュアピュアなワンコ教授が、首を傾げて眺める。そう、仕方ない、子供だから知らないのは仕方ないのだ。


 そんなことは、もっと、大人になってから知ればいいだけのことであった。

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