第四部 決戦!! 〇んこく大陸!!

第一章 世界最後の神 アリスト・Ⓐ・テレス

第282話 どエルフさんと神

【前回のあらすじ】


 英雄コウメイの自決。

 その死によりバビブの塔に仕掛けられていた、最後のトラップが発動した。


 崩れ行くバビブの塔。

 最上階からの脱出はまず間に合わない。

 あわや死を覚悟した男戦士たちであったが――。


「ホーッホッホッホ」


 そんな軽快な笑い声と共に、彼らを瞬間転移の魔法で助けたのは、他ならない北の大エルフであった。


 と、助けられたというのに、どこか憮然とした顔をする女エルフ。

 彼女は命の恩人――北の大エルフを睨みつけると、こう言い放った。


「北の大エルフですって――とんだ大ペテンを仕掛けてくれたものね!!」


「大ペテンとは?」


「貴方はエルフなんかじゃない!! この世界の支配者――神の一人!! アリスト・Ⓐ・テレス、なんでしょう!?」


 そんな女エルフの指摘に、微笑み余裕の表情で応える北の大エルフ。


 はたして、北の大エルフとは何者なのか。


 エロスが言った神との謁見の札の伏線が、こんな所で思いがけず火を噴く。

 そして、この物語はこれからいったい、どこへ行こうとしているのか。


 という所で。

 ついに、どエルフさん第四部。はじまります。

 つってもいつもと変わらないんだけれどね。


◇ ◇ ◇ ◇


 再び、北の大エルフの謁見の前に通された男戦士一行+大剣使い+金髪少女。

 彼女たちがソファーに座るのを確認すると、ふぅ、と、深い息を吐き出して、北の大エルフはソファーに沈み込むようにして尻を預けた。


 そんな彼を気遣うように、グルグルほっぺのお付きの青い影が姿を現す。

 彼と、男戦士たちの前に紅茶を差し出したそれは、大エルフが礼を言うと、すぐに蜃気楼のように掻き消えた。


 湯気立つ紅茶を、一口。

 唇を湿らせてふぅと息を吐き出すと、穏やかな目をして


「はてさて、何から話をしましょうか」


「まずは貴方の正体からよ、北の大エルフ。私が言った通りなんでしょう、貴方は、決してエルフなんかじゃない。エルフの姿を借りた何かよ」


「ほう、その根拠は?」


「ハイエルフには寿命がない。けれども、決して死なない訳ではないわ。コウメイのように自ら死を選ぶ者だっている。こんな不便な僻地に暮らしていながら、ぴんぴんしているのはあきらかに異常よ」


「ふぅむ。推理としてはちょっと弱いですね」


 そう言って、ぐぃと、また紅茶に口をつける北の大エルフ。


「なんて、ね」


 と、なんだかその反応を見越していたように、女エルフが不敵に笑った。


 その表情を見て、ふむ、と、北の大エルフが首を傾げる。


「一番の理由はそこじゃないわ。ティトが持ってる、魔剣エロスの話からよ」


「ほう?」


「彼は、呪いの魔装によって精神を犯された人間の救い方を調べていた元戦士よ。そして、貴方と謁見するだけの力――この割符を持っていた。なのに、何故、貴方ではなく、コウメイにその知恵を借りようとしたのか」


「ここまで来るのが面倒だった、とか?」


「ショーク国もここも、僻地という意味ではそれほど変わりないわ。問題は、彼が発言した言葉よ」


 人間の手で人間の問題は解決したいとエロスは確かに言った。


 事実、こうして男戦士たちが助言を求めて来た通り、コウメイよりも、北の大エルフに相談した方が、おそらく彼の求める答えは返って来たことだろう。

 そもそも、コウメイは軍略の天才でこそあれ、魔法・魔道に通じている訳ではないのだ。


 魔剣エロスの言葉を信じるならば。


 北の大エルフは力を借りてはいけない相手という話になる。

 そして、なにより。


「彼はこの札をして、神々との謁見の札と言ったわ」


「おぉ、そこまで話してしまったのですか、エロス氏」


 親し気に、まるで旧知の仲とばかりの声色で魔剣に語り掛ける北の大エルフ。

 北の大エルフの視線が魔剣エロスに注がれると、いやぁ、その、と、インテリジェンスソードは申し訳なさげな声をあげたのだった。


「悪い、テレス。つい口が滑った」


「しっかりしてくださいよ、エロス」


「いいじゃんよぉ、どうせ隠した所ですぐにばれちまう所なんだし。というか、この試験が終わったら、自分から説明するつもりだったんだろう、どうせ」


「だったら貴方も、ちゃんと名乗った方がいいんじゃないですか」


 いやそれは、と、なんだか口ごもるエロス。


 どうやらこの魔剣、何かを男戦士たちに隠しているらしい。

 しかし今は、北の大エルフの素性の方が大切である。


 そんな彼の横で、今はその持ち主となった男戦士が引き締まった顔をして言った。


「北の大エルフよ。俺たちは、貴方の出した難題に対して、こうして応えてみせたのだ。ならば、質問への答えもそうだが、偽りのない誠実な対応をして欲しい」


「ふむ、確かに。難攻不落のバビブの塔を攻略し、見事に割符を回収するだけにとどまらず、くろがねの巨人さえも倒して見せた。その手腕を、私はもう少し評価するべきかもしれませんね」


「であれば、一つ、貴方に問いたいことがある」


 男戦士のいつになく真剣な表情に、女エルフが息を呑む。

 女修道士シスター、そしてワンコ教授も、同じくであった。


 はたして彼は何を問うのか。

 そんな視線の中、彼はゆっくりと口を開くと――。


「俺の鎧はどこだろうか。せめて、前を隠すものがないと、ちょっと、そろそろ内股がきつくなってきたのだが」


 ずるり、と、パーティメンバー全員が、ソファーの上で腰を滑らせた。


 そう、鬼から元の姿に戻ってよりこっち、男戦士はずっと全裸だったのだ。


 服を着ていない状態から鬼になったのだ。

 であるから、鬼から元に戻れば、服を着ていない状態になるのは道理である。

 まったくもって、それは理にかなった話であった。


 彼はずっと内股に大切なものを挟んでじっと耐えていたのだ。


 寒さに。

 そして恥辱に。


「寒くなって来ると、ただでさえ血の巡りが活発になるんだ。それに伴って、海綿体が肥大化するんだぞ!! 俺の股間の魔剣が活性化しているんだ!!」


「いや、アンタがほいほい全裸化したのが悪いんでしょうが!!」


「こんなのってないぜ、あんまりだぜ!!」


「だぁもう、せっかくのシリアスモードかと思ったら、結局こんなオチかい!!」


 しょっぱなからオチてどうするというのか。


 はやく、着るものをプリーズと、涙目で懇願する男戦士。

 はぁ、と、女エルフは溜息を吐き出したのだった。


「ははは、まったく、ティトさんらしいですねぇ……」

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