終章 大決着!! 賢者エルフの第四章にレディーゴー!!
第281話 どエルフさんと崩れる塔
【前回のあらすじ】
死を覚悟したコウメイ。それを介錯しようとする男戦士。
すると、そこに突然魔剣エロスが待ったをかけた。
どうしても、コウメイに聞きたいことがある、と、切り出した魔剣。
果たして彼は、自分の知人が強力な精神乗っ取りの魔法にかかっていること、それを助ける方法がないのかということを彼に問いただす。
結果、魔剣が想定した以上の言葉は、コウメイからは返ってこなかったが――。
「我が知啓を求めたのだ、ならば、我が望みも叶えて貰おう」
コウメイは自らの舌を噛み切ってみせると、潔く果てて見せた。
彼もまた、戦国の世に生まれ落ちた、まごうことなき猛将の一人であった。
◇ ◇ ◇ ◇
青くなり横たわったコウメイを囲んで、男戦士たちが唸る。
伝説の謀略家にして策士。
そのあっけない死を受け止められない、という感じであった。
特にそれが顕著なのが、歴史の研究について生業とするワンコ教授である。
「だぞ!! なんで死んでしまったんだぞ!! いろいろと、当時のショーク国と中央大陸の状況について、聞きたいことがあったんだぞ!! 歴史の生き証人が、みすみす死んでしまうなんて……あんまりなんだぞ!!」
「ケティさん、まぁまぁ、落ち着いて」
「ケティ。彼もまた戦士であったのだ。戦士の矜持を汲んでやってくれ」
だぞぉ、と、押し黙ったワンコ教授。
そう男戦士に言われてしまうと、返す言葉がないという感じである。
青くなったコウメイの瞳をそっと閉じたのは大剣使い。
彼はまた、彼の相棒であった魔性少年に向けた弔いと同じ、手を合わせて目を閉じるという彼の故郷の所作をコウメイにも向けるのだった。
その死に、最大限の敬意を払おう。
そういう心意気が彼の寂しい背中からは伝わって来た。
と、そんな大剣使いの背中と、そこに担いでいた剣がにわかに揺れる。
何がどうした、どうなった。
突然、塔が激しく揺れ始めたのだ。
「こ、これは!!」
「どういうことなんだぞ!!」
「コウイチさんが揺らした時とは比較にならない、とんでもない揺れです!!」
その時だ。
姐さーん、と、割れた天井から声が木霊する。
箒にまたがって、割れた天井から滑り込んできたのは――死んだコウメイに造られたホムンクルス。
リリィであった。
姐さん、と、彼女は女エルフの前に降り立つと、頭を下げる。
「我が主、コウメイ様を倒されるとは、流石は姉さんです」
「あ、いや。私は特に何もしてないって言うか……それより、これはなに? この塔の揺れはいったいなんなの!?」
「自壊機能です!! コウメイ様は、万が一にも、自分が死んだときには、このバビブの塔を粉みじんに破壊するようにと、最後の罠を仕込んでいたんですよ!!」
コウメイ、と、男戦士パーティが一斉に叫んだ。
まんまとハメられた。
潔く、死んだと思わせて、コウメイは最後の罠に男戦士たちを嵌めたのだ。
死なばもろともという奴だろう。男戦士たちを道連れにする魂胆だったのだ。
こうしてはいられない、すぐに脱出しなくては。
そう気持ちは逸るのだが――。
「ここまでのフロアを、崩壊するまでに走り切って脱出するなんて、不可能なんじゃないの!?」
「だぞ!! ここまで来るのに二日がかりだったんだぞ!! そんなのどう考えても、絶対に無茶なんだぞ!!」
「万事、窮すという奴か」
「祈りましょう、皆さん!! こういう時こそ、神に祈るのです!!」
「……コウイチ。安心しろ、すぐに俺も後を追う」
「なんじゃ、なんじゃとぉ!? そんなのありなのじゃぁ!? 勘弁して欲しいのじゃ!! せっかくバビブの塔を攻略したというのに――
思い思いに錯乱する男戦士パーティたち。
これはもう、収拾がつかないのではないだろうか。
そうこうしているうちに、バビブの塔の天井が、ばらりばらりと落ち始めた。
床も崩れ、塔の端から徐々に無くなっていく。
「くそっ!! こんな所でゲームオーバーとは!!」
男戦士がそう言った時だ。
「んー、まぁ、そろそろいいんじゃねえの、アリストよぉ」
突然、魔剣が、なんでもない感じに言った。
いきなり何を言い出すのか。
というか、なんでそんなにも余裕なのだ、と、男戦士たちが、魔剣に対して視線を向けたその瞬間――。
一瞬にして、視界が切り替わったかと思うと、男戦士たちパーティはいつか見た、荒涼とした大地の上に立っていた。
そう、そこは、ショーク国へと飛ばされる前。
凍てつく雪の大地をソリで駆け抜けて、氷穴を抜けてたどり着けた極北の地。
北限の谷。
そして、北の大エルフが住むという、元、逆さの塔の前だった。
男戦士、女エルフ、
そして、大剣使いに、金髪少女。
六人が、ぱちくりと目を瞬かせて、自分たちの身に起こったことを受け入れられずに居る。そんな中――ホーッホッホッホ、と、軽快な笑い声と共に、その背中に近づく影があった。
「いやはや見事でした。これにて、証は建てられました。貴方たちは、まさしく、私が力を貸すのに相応しい者たちです」
「……その声は!!」
振り返ると、そこに立っていたのは、北の大エルフ。
彼はそうして、視線をちらり――ほんの一瞬だけ魔剣エロスの方へと向けると、すぐに女エルフの方へと戻した。
女エルフが、ただならない剣幕で彼を睨みつける。
よくもこんな目に合わせてくれたわね、という、恨み節が籠った視線。
だが、それだけという訳でもない。
その瞳にはまた、違う怒りが潜んでいた。
「おぉ、怖い怖い。モーラ氏、そんなに睨まなくっていいではないですか。こうして無事に貴方たちの実力は示され、私は貴方たちに、力を貸す決意をしたのですから」
「勝手言わないでよ!! よくもこんな面倒なことに巻き込んでくれたわね!! しかも、北の大エルフですって――とんだ大ペテンを仕掛けてくれたものね!!」
「大ペテンとは?」
「貴方の正体については、もうとっくに、こっちはお見通しなのよ」
から寒い風が彼女たちに吹き付ける。
南国の地から、極北の地への転移である。
装備の違いにその身が震えてもいいものだ。
しかし、そんなことなど気にならないという感じに、女エルフは北の大エルフを鋭い目つきで睨むのを止めない。
そうして彼女は、その指先を彼へと向けると、大きくその正体を宣言した。
「貴方はエルフなんかじゃない!! この世界の支配者――神の一人!! アリスト・Ⓐ・テレス、なんでしょう!?」
「……ホーッホッホッホ!! モーラ氏、それはなかなか、ユニークな推理じゃないですか。けれどもまぁ、それの正解について話す前に」
まずは塔に入りましょう。
「ここは酷く寒いですからね」
北の大エルフは人のいい笑顔でそう言った。
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