第270話 どエルフさんと謁見の札

【前回のあらすじ】


 テテテーン♪


 男戦士は【プレイエルフ】創刊号を手にいれた!!


【アイテム プレイエルフ : エルフ愛好家のために創刊された総天然色書籍。全国の書店で流通できるように、直接的な表現は抑えつつ、それでいてエルフマニアの心のツボを押さえた、メニアックなグラビアを多数掲載している。現在は出版社が潰れたため廃刊しており、全108巻はエルフ愛好家の間で高値で取引されている。ちなみに、創刊号に掲載されたエルフの美女レナは、写真加工魔法研究の素材として広く知られており、えぇ、これってプレイエルフのエロ画像だったの、と、驚かれることが多い。エロと魔法研究は切っても切れない関係にあるのだ】


「って、なんじゃその妙に凝った説明は!! さっさと本編に行きなさいよ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 プレイエルフの件はともかくとして。

 もう一度、魔剣エロスが操っていた死体を漁る男戦士。


 彼の表情が神妙に変わる。何か、手ごたえを感じたのだろう。

 ゆっくりと中からそれを引っ張り出すと、彼はじっと手の中を見つめる。


「……モーラさん」


「どうしたのティト?」


「あったぞ、割符だ。しかも、これは……」


 そう言って、男戦士は彼を見守るパーティたちに、手の中のアイテムを見せた。

 なるほど確かにそれは木で出来た割符。


 そして、白百合女王国の騒乱のさなか、ドエルフスキーから男戦士たちが預かったそれの片割れに間違いなかった。


 すぐに男戦士が背嚢の中からもう一つの割符を取り出す。のこぎりの刃のようにギザギザに割られたそれは、ぴったりと、嵌りあって一つの札となった。


 途端、そこに妙な紋章が浮かび上がる。

 白い布を頭から被ったお化けのような容貌。

 そして、頭に毛が三本。


 不思議な緑色の光を発して輝くそれを見た瞬間、男戦士たちは、ついに自分たちが目的のモノを手に入れたのだと確信した。


「……やった!!」


「これで北の大エルフの試練は達成したということだな」


「だぞ!! しかし、妙な模様なんだぞ。ちょと、持ち帰って紋章について研究したいところなんだぞ」


「ケティさん。ここは依頼達成を素直に喜ぶところですよ」


 やんややんやと喜ぶ男戦士たち。

 エロ魔剣曰く、神々との謁見の割符とは、間違いなく彼らが捜している割符と同じものだった。


「なんだよ、もう割符の片方をもう持ってたのか。どうやって手に入れたかは知らんが、お前ら、なんだかんだで結構な冒険家なのな。俺様ちょっと意外だぜ」


「ちょっとって何よ。というか、この階層まで登ってきている時点で、そこらへんは察してちょうだいよね」


「……それもそうか。しかし、その割符を教えてやったんだ」


 仲間にしてくれていいだろう。

 目はないが、魔剣の声色から言外に、約束は守れよというニュアンスがひしひと感じられる。


 エロ魔剣は仲間にしてほしそうに、こちらをうかがっている。

 という奴である。


 そのなんとも断りがたい空気に、魔剣に背中を向けて男戦士たちが集まる。

 どうしようか、と、女エルフは深刻そうに顔を歪めた。


「正直、これ以上、セクハラ要員が増えるのに私は反対なんだけれど」


「そうだなぁ。言われてみれば、俺も、モーラさんというバケモノみたいなどエルフを相手に手一杯な状況だからな。この状態で、更にこの上、エロスを仲間に加えるのは、ちょっと危険かもしれない」


「誰がバケモノみたいなどエルフか。というか、私はセクハラ要員じゃないから」


「逆に考えるんです。セクハラを持ってセクハラを制す。モーラさんが魔剣エロスを持つことで、セクハラ成分は中和されるのではないですか?」


「それだシコりん!!」


「それだじゃないわよ!! どうしてそうなるの!! ていうか、セクハラ要員はお前らだ!! この色ボケ男戦士と、どピンク女修道士シスター!!」


 まぁ失礼な、と、女修道士シスター

 女エルフの怒りの視線に彼女は心外ですとはっきりとした抗議の声を上げた。


「だいたいモーラさんが、意味深な発言を毎回するのがいけないんじゃないですか!!」


「意味深な発言なんてした覚えはないわい!! ほとんどお前らが強引に聞き間違えてるだけだろ!! とばっちりを受けるこっちの身にもなってみろ!!」


「ほらまた!! 、なんて!! 子供が居るんですよ、発言には気を付けてください!!」


「言うとらんがな!!」


「真面目な話し合いの場だというのに、セクハラ発言を止めない、どころか、あえてぶち込んでくる。流石だなどエルフさん、さすがだ」


「だからそういうのをやめいと言うておるのだ!!」


 肩を吊り上げて怒る女エルフ。


 無自覚なセクハラほどこの世において性質の悪いものはない。

 一方は、あきらかに楽しんでやっている節があるが――。


 とにかく。


「私は断固として、あのエロ剣を仲間にするのは反対よ」


「男根として!? どうしたんですか、モーラさん、今日は絶好調じゃないですか!!」


「確かに野太い剣だけれど、男根として見てしまうなんて、なんという妄想力。俺も、妄想にはそこそこに自信があるが、やはりモーラさんの方が一枚も二枚も上手」


「だぁーかぁーらぁー!!」 


「おぉい、やめたげろよ。お前ら、その女エルフのねーちゃんが可哀想じゃねえか」


 と、そんな女エルフに救いの手を差し伸べたのは――。

 他ならない魔剣エロスであった。


 相変わらず、顔がないので表情はうかがい知れないが、その声色は、先ほどまでのどこかとぼけた感じとは違って、緊張感のあるものに変わっていた。


 割と怒っている感じだ。


 これに驚いたのはもちろんエルフ。

 そして、彼女にセクハラをかましていた男戦士たちである。


 視線をエロ魔剣の方に向ける男戦士たち。

 すぐに、なんでそんなことを言うのか、という感じの表情が、エロ魔剣の瑪瑙色をした刀身へと向けられた。


「嬢ちゃんが紛らわしい言葉を言ったのは間違いないが、ちとおちょくりすぎなんじゃねえの。というか、エロネタ弄りにも節度ってもんがあるだろう」


「……エロ魔剣が」


「……まともなことを言っている」


「……エロス!!」


「俺はこれでもエルフメイトとして、エルフに対しては紳士なつもりなんよ。お嬢ちゃんが嫌がってるんだから、ほどほどにしといてやれよ。ティトも、女修道士シスターの姉ちゃんも」


 エロ魔剣の説教に、しゅん、と男戦士たちが肩をすくめた。

 そして――。


「……ようやく、ようやく私の辛さを分かってくれる人(?)が現れた!!」


 女エルフが感涙に頬を濡らす。

 ここのところ、ずっと男戦士と女修道士シスターにいじられ続けた日々を思い起こせば、その涙の熱さは推して図るべきだろう。


 女エルフは魔剣に駆け寄ると、ひしりとその刀身に抱き着いた。


「いいわ!! 他の誰が何と言おうと、私が貴方を守ってあげる!!」


「おほほっ、ちょっとよせやいお嬢ちゃん、俺はそんなつもりじゃぁ」


「魔剣エロス!! 今日から貴方は私たちの仲間よ!!」


 かくして、魔剣エロスが男戦士パーティたちの仲間に加わった。


「……あー、これがチョロインって奴か。なるほど、悪いもんじゃねえな」


「……まさかエロス!?」


 ぼそりと呟いたエロ魔剣の言葉に男戦士が戦慄の顔をする。


 ひゅっひゅーと口笛を吹いてエロ魔剣は誤魔化した。


 だが、どうやらこの魔剣、一筋縄ではいかぬ相手のようである。


「ふひひっ!! まぁ、これでしばらくは退屈しなくって済みそうだぜ!!」

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