第269話 魔剣と割符の謎
【前回のあらすじ】
すっかりと、魔剣エロスと仲良くなってしまった男戦士。
「……どうだろう、俺も、お前たちの旅の仲間に加えてもらうことはできないか?」
「この魔剣話せば話すほど良い剣なんだ。是非、俺たちの旅の仲間に迎え入れてやりたいと思うんだが? どうだろうか、モーラさん!!」
「……駄目に決まってんだろ!! このすっとこどっこい!!」
それは、女エルフでなくっても、至極まっとうな応答であった。
しかし、それはそれとして。
「待って待って、ちょっと待って!! 俺様を仲間にしてくれるなら、神様への謁見の割符をあげちゃうから!!」
と、魔剣は何やら意味深なことを言い始めた。
割符を探しに九階へとやってきた男戦士たち。
はたして、魔剣の言うそれは、彼らが捜しているモノと同じなのだろうか……。
◇ ◇ ◇ ◇
「いや、モーラさん。ちょっと冷静になろう。割符の話については、もう少し、ちゃんと話を聞いてやってもいいんじゃないか?」
「そうですよモーラさん。割符なんて、そうそうあるものじゃありません。もしかしなくても、私たちが捜しているモノなのでは?」
「だぞ!! インテリジェンスソードなんて、個人的にはとても興味があるんだぞ!! 連れてってやってもいいんじゃないか、モーラ!!」
仲間たちから待ったをかけられた女エルフが足を止める。
確かに、ワンコ教授の話は別として、彼らの言う通り無視して進むには重要な情報のように思える。
ただ。
後ろから、うっしっしっしと、聞こえてくる声が気になって仕方がない。
立ち止まり、振り返るとその笑い声は止まる。
じろりと女エルフが睨みつける。すると、なんだよ、おっかないエルフだなぁと、おどけた調子で魔剣エロスは非難の声をあげたのだった。
「その割符が私たちの捜しているものと一緒だったら考えてあげるわ」
「お、マジで!? やった!! けど、神様に会える割符だよ? 欲しくないの?」
「エルフ族はもともと神への信仰心が薄い一族ですから」
と、フォローしたのは
彼女の言う通り、自然信仰を信条とするエルフ族は、あまり、というか積極的に神に恭順するようなことはしない。
もちろん、彼らの中にも神を信じている者が居ない訳ではないのだが。
まぁ、それはさておいて。
「神への謁見の割符っていう時点で、私たちが捜しているのとちょっと違うのよね」
「マジかよ。いやけど、便利ものだぜ。それがあれば、オッサム、マーチ、ゲルシー、ミッテル、アリストの奴らに会いたい放題なんだぜ?」
耳に覚えのある単語に、流石に女エルフの耳もひくついた。
すべて、この世界で信仰されている有名な神々である。
人造神――人間たちを想像した――オッサム。
海母神――海を司る海運と幸運の女神――マーチ。
冥府神――死者と妖魔を使役する地獄の番人――ゲルシー。
軍神――祈る者に力を与え戦を勝利に導く――ミッテル。
ただ、最後のアリストというのに、今一つピンとこない。
そんな神は知らない。信奉されていないはずだ。
いや――と、神をあまり信じないエルフ族の女エルフが首を傾げた。
「もしかして、アリストっていうのは、アリスト・Ⓐ・テレス、アリスト・F・テレスのこと?」
「モーラさん、それは神ではなくて哲学者だろう?」
「そうですモーラさん。神と人を混同してはいけません。不敬ですよ」
いつもは軽い感じの
しかし、そんなことを気にせず、女エルフは魔剣に向かって視線を向けた。
はたして、魔剣が返した言葉は――。
「そうだぜ。アリスト・ⒶとF、二人のテレスだよ。あいつら、下界じゃ哲学者ってことになってるが、幸運と知恵の神だからな」
「……えっ!?」
この回答に一番驚いてみせたのは女修道士だ。
彼女が所属する教会の会派はもちろん、世間一般的に、アリスト・Ⓐ・テレスと、アリスト・F・テレスは、ただの哲学者だと認知されていた。
それを、神であると、この魔剣は言い切ったのだ。
女修道士の顔が更におっかないことになる。
眉を吊り上げると、でたらめを言うのはよしてくださいとばかり、女エルフを差し置いて魔剣に向かって詰め寄ろうとした。
そんな彼女に。
「おっほ!! ダイナミックおっぱいぷるんぷるん!! 絶景ですなぁ!! 壮観でございますなぁ!! 俺様、生きててよかった!! いや、魔剣だから、生きてないんだけどね!?」
まったく緊張感もない声を発する魔剣エロス。
その言葉の真意はどういうことか。
問い正そうと杖を向けた
しかし、それは後ろから女エルフに肩を掴まれて止められることになった。
「やめてコーネリア。たぶんだけれど、そのエロ魔剣の話、本当よ」
「モーラさん!?」
「だぞ、どういうことなんだぞ!! モーラ、説明して欲しいんだぞ!!」
「……憶測でモノを言っても仕方ないわ。それは、後でゆっくり本人に問いただすことにしましょう」
それより、割符はどこにあるの、と、女エルフが魔剣に問う。
するとすんなりと、魔剣は俺様の死体の胸当ての中さと、それを白状した。
さきほどまで勿体つけていたのはなんだったのか。
いや、もう、勿体つける必要がなくなったということだろう。
男戦士も、魔剣のその素振りに、何かを感じているようだった。
「ティト。探すのお願いしてもいい?」
「……分かった」
屍を女性に触らせる訳にもいくまい。
男戦士は物分かり良く、女エルフの要求を受け入れると、自分が倒した魔剣――が操っていた死体へと歩み寄った。
すでに、フルプレートアーマーの中の死体は、干からびてミイラになっている。
生前、彼がどんな姿をしていたのかすら分からない、そんな状態だ。
そんな死骸と鎧の隙間に手を入れてまさぐると、男戦士は――。
「こっ、これは!!」
「見つかったティト!?」
声を上げて、鎧の中からそれを引っ張り出した。
天高く掲げた総天然色の読み物には――いやらしい格好をしたエルフが、スケベな顔つきでこちらをのぞき込んでいた。
「幻の【プレイエルフ】創刊号ではないか!!」
「ぬぉーっ!! それは俺の秘蔵の一品!! たとえ、心のちんち○兄弟と言っても、やる訳にはいかない!!」
「……って、そんなことやってる場合じゃないでしょうが!!」
どんな時でも、エロ心を忘れない。
流石であるど戦士さん、さすがである。
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