第264話 ど男戦士さんとレベル10
【前回のあらすじ】
首を跳ね飛ばされてもピンピンとしている死人の騎士。
あの当代随一まであと一歩という男戦士をして、強敵と言わしめるその剣閃は、首を落とされても鈍ることはなかった。
そんな中、魔性少年が衝撃の事実を口にする。
「……あの騎士は、戦士技能レベル10です」
男戦士を凌駕する剣の使い手の登場。
女エルフは思わず彼に、戦ってはいけないと叫ぶのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
技能レベル。
この世界で様々な職業の現在の能力値を表す指標である。
前にも何度か説明していると思うがここで一度整理しておくとしよう。
レベル1……初心者に毛の生えた程度のレベル
レベル2……そこそこ使いこなせるようになってきたレベル
レベル3……ほぼほぼ状況に応じて技能を使いこなせるレベル
レベル4……自然に場や状況に応じて技能を使いこなせるレベル
レベル5……冒険者として重宝されるレベル
レベル6……技能で仕官できるレベル
レベル7……世に名の知られた名人のレベル
レベル8……当世随一の達人レベル
とまぁ、最大で8までが現実人間や亜人種が到達することができる、一般的なレベルの認知である。
だが、実はこれより先にも段階が設定されている。
レベル9……当世随一かつ世界の危難を救うレベル
レベル10……伝説に名を遺すレベル 救世主・あるいは大英雄
これらは俗に隠しレベルと言われている。
というのも、先に言った通り、現実的に到達することがほぼ困難であるからだ。
この作品の登場人物では、雷魔法限定ではあるがヨシヲが最もレベル9に近い立ち位置(南の国の解放に携わっているため)にいるが、それでもその域に到達するかはまだ分からない。
そんな現実的にあり得ない、到達困難なレベル。
しかし、目の前の死人の騎士は、どうして戦士技能レベル10であると、魔性少年は言う。
「どうして!? なんで!? どうやったらそんなレベルになれるのよ!? おかしいじゃないの!?」
「おそらく、コウメイが何かしらの魔法をかけたのか、それとも……」
「それとも!?」
「彼が本当に、生前からレベル10だったか」
伝説級の戦士の亡骸を9階に配置し、グールとして復活させた。
ここまでのコウメイが仕掛けてきたエグい罠を考えれば、それはあり得ない話ではなさそうに女エルフには思えた。
しかし……。
「この塔が出来たのは、それこそ千年とかそれくらい前の話なのよね?」
「はい? えぇ、確かそのはずですが……」
「だったらコウメイの罠とは考えにくいわ。だってさっき、あいつは百年もグールをやっていると言っていたわ」
「確かに」
「それに、小凄い戦士が上の階に向かったとリリィも言っていたじゃない。たぶん、そいつに違いないわ」
「……だとすると、百年前の大英雄」
はっとその時、女エルフたちの頭の中に浮かび上がったのは一つの名前。
それは暗黒大陸から押し寄せてきた、魔神の軍団と魔女ペペロペを相手に、五人の仲間と共に戦ったという大英雄。
その剣閃は悪鬼の群れを切り裂き、人々が進む道を開く。
大陸の希望にして切り札。
「まったく証拠はないし、できれば信じたくないのだけれど、あれはもしかすると【大英雄スコティ】なんじゃないの?」
「……確かに。スコティ氏は、死後、その動向が不明な大英雄です。ですが」
「この塔に挑むだけの理由がないわよね」
忘れてちょうだい、と、女エルフが呟いた。
しかし、そうは言ったが、彼女はその抱いた疑念を払拭できていないようだった。
まるで、その挑む理由に心当たりがあるという感じに、眉をひそめて。
そんなことをしている間も、男戦士と死人の騎士の睨み合いは続いていた。
首を失っても、余裕の態度で構える死人の騎士。
対して男戦士はと言えば、脂汗を額から零しながら構えを維持するだけでいっぱいいっぱいという塩梅であった。
どうする、と、逡巡すれば、そこに付け込まれて一撃を入れられるだろう。
一瞬として気を緩めることのできない、その状況はしばらく続いた。
「……んだよ。男だったらそっちからかかって来いよ。つまらねえ奴だな」
先に口火を切ったのは死人の騎士の方であった。
まるで男戦士の戦い方がつまらないとでも言いたげに、彼はがっかりとした声色をどこからともなく出すと、構えを少し変えた。
正眼の構え。
瑪瑙色の両手剣を突き出して、男戦士に向けると一歩後ろに退いた。
そこから、いきなり踏み込んでの上段袈裟斬り。
もはや神速、技を繰り出す瞬間すら気が付かない、そんな所作であった。
ノーモーションから繰り出された不意打ちの斬撃。
並みの戦士であったなら、まずかわせない一撃だっただろう。
しかし……。
「マジかよ!? ははっ、お前、俺の剣を受けれるのかよ!!」
男戦士は咄嗟に左手に剣を持つと、逆手に返し、腕に添わせる形にする。そして、そのまま剣の腹で、死人の騎士の斬撃を受け止めて見せたのだった。
男戦士の剣が折れる。
しかし、男戦士の剣を砕いたことで勢いを削がれた瑪瑙色の剣。
それは男戦士の鎧の前でぴたりと止まった。
その間に、死人の騎士の体に接近した男戦士は、サブウェポンの斧を取り出して、今度は胴体――腰のあたりに向かってそれを激しく打ち付ける。
ガン、と、鈍い音が響いて、鎧の継ぎ目――チェインメイルが仕込まれている部分に切れ目が出来上がった。
「痛っでぇっ!!」
「常に、次の一手を考えておくのが戦士だろう!! グール相手の単調な戦闘で、腕が鈍ったようだな!!」
「……言うじゃねえかよ、現代の戦士!!」
「無駄口を叩く暇もないぞ!! さぁ、これでとどめだ!!」
瑪瑙の剣を左腕ではじき飛ばすと、男戦士は両手で手斧を持つ。
はっ、と、息を吐き出すと、彼は死人の騎士の腹に向かってもう一度、思い切り斧を打ち込んだのだった。
まさしく、男戦士が言った通り。
死人の騎士にとって、無駄口は命取りの時間であった。
渾身の力がこもった男戦士の一振りは、鎖帷子をぶつりぶつりと断ち切る。
そして、左から右へと死人の騎士の胴を切り裂いた。
上下二つに両断された、戦士技能レベル10のバケモノ。
それは――あっけなくその場に崩れ落ちた。
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