第242話 どエルフさんと再同盟

【前回のあらすじ】


 エンカウントするだけで、塔の外へと冒険者を強制転移させる、最強の自律人形オートマタカンウ。

 しかし、そのカンウの効果を受けない【ソソの血族】なるものが存在した。


 大法力のヤミこと金髪少女。

 彼女は、その血族の分家筋にあたり、そのおかげで、カンウとエンカウントしても塔の外に出されることがないのだという。


 塔の攻略には、カンウの攻略は避けては通れない課題。

 しかし――と思いあぐねいていた男戦士たちに、思いがけず金髪少女が提案した。


「どうじゃお主ら、わらわと組む気はないかえ?」


◇ ◇ ◇ ◇


「いや、わらわも方々に手をまわして、使える人材を探してみたのじゃがのう。塔の頂上を目指すというものは、なかなか見つからなくてな」


「は、はぁ」


「そこにお主らが、塔の頂上を攻略しようとしている――と耳にしてな。ならば、共闘するのはどうかと考えた訳じゃ」


 どうじゃ、と、ドヤ顔で男戦士たちの方を見るヤミ。


 思ってもみない申出ではあった。

 だが、男戦士たちは流石に困惑した。


 この使えない――もとい、カンウ攻略にしか使い道のない少女、そしてその信者たちを、自分たちの仲間に加えてしまっていいものかと。


 本人曰く大法力。

 しかしながらそれが、なんのことはないチープなトリックであることは、男戦士はもちろん魔性少年たちも先刻承知の事実である。


 そして、見た感じ、魔法が使えるわけでも、剣技が使える訳でもない。


 加えて――。


「ヤミさん。僕とティトさんたちは利害の一致により、たまたまこうして一緒にパーティを組んでいます」


「ほほう、そうなのかえ」


「確かに、貴方を仲間に加えることで、カンウを攻略できるようになるかもしれない。けれども、僕と貴方の目的――利害が一致しない限り、同盟というものは軽々しく組めるものではないと思います」


「にょほほほ、そんなこと、先刻承知よ」


「では問います。貴方はバビブの塔を踏破し、いったいどうするつもりなんです?」


 魔性少年が毅然とした態度で、金髪少女に問うた。


 そう、この金髪少女の目的が分からない。

 それが問題なのである。


 魔性少年の目的は、あくまで頂上に眠る最後のくろがねの巨人、その破壊だ。

 対して、もし、金髪少女がその力を欲しているのだとすれば――。


「同盟が上手くいくと思う?」


「無理だろうな」


「だぞ、絶対なる力がどうとか、言ってたのはあのヤミなんだぞ。それがくろがねの巨人なのだとすれば――」


「コウイチさんはそれを破壊するつもり。とても相容れない状況になるでしょうね」


 おおむね、男戦士パーティの意見は、その同盟締結に否定的なものでまとまった。

 それはこれまでの経緯を考えれば仕方のないことだろう。


 しかし――。

 不敵に金髪少女は微笑むと、また、にょほほほと甲高い声をあげた。


「知っておる、知っておるぞ。頂上に眠るくろがねの巨人を破壊したいのであろう?」


「……なぜそれを?」


「にょほほほ!! わらわの大法力が、スプーン曲げだけかと思ったか!! お主らの考えていることなど、ずばりまるっとお見通しという奴なのじゃ!!」


 彼女はあえて魔性少年の目的を口にして、機先を制してみせた。


 実際には大法力もなにもない。

 たまたま、彼らの会話を盗み聞きしていただけである。


 そして、それにすり合わせて、彼女は自分の目的を下方修正した。


「にょほほほ。ならばわらわは、わらわでそれでも構わぬのじゃ」


「どういうことです? 貴方は、塔の頂上に眠っている、絶対成る力を求めていたのではないのですか?」


「塔を踏破したということは、その力を手に入れたも同義であろう。大切なのは、実際の兵器ではなく実績じゃ。わらわは、バビブの塔を大法力により攻略してみせたという、実績さえ手に入れることができれば、くろがねの巨人なんてどうでもよいのじゃ」


 金髪少女の思いがけない言葉に男戦士達が唸った。


 流石に、スプーン曲げを大法力と称し、聖者を自称する女子だけはある。

 考え方が実に理に適っていた。


 その力の実態を、誰も知らない――少なくとも、男戦士たち以外は――状況で、塔を踏破したということは、そのが意味を持つ。


 なるほどしたたか。

 それでいて、なかなか末恐ろしい少女である。


くろがねの巨人を破壊するのが、お主ら一族の悲願なのであろう」


「――はい。これはどうあっても、譲ることのできない僕の目的です」


「では、そうするがよい。わらわは塔を攻略したという実績だけを貰う。これで、お互いにWIN-WINの関係なのじゃ」


 そうは言うけれど、ねぇ、と、女エルフが顔をしかめる。


 はたしてどこまで金髪少女の言葉を信じていいのか。

 その表情にはそんな憂いが満ちていた。


 塔の頂上に到達した途端、金髪少女は約束を反故にするとも考えられない。

 また、魔性少年にしても同様だ。


 くろがねの巨人の破壊が目的と言ってはいるが、本当に彼がそうするのかは、塔の頂上についてみないと分からない。


 そしてなにより――。

 やはりこの娘を連れて行くとなると、戦闘面での不安が大きくなる。


 どこからどう見たって何もできない小娘なのだから。


「やめときなさいよ、コーイチ。他にも、【ソソの血脈】の人間がいるかもしれない。その人たちをあたりましょうよ」


「にょほほほ!! わらわ以外で【ソソの血脈】の者が、わざわざこんな辺境の地に来ると思うてか!!」


「そうですモーラさん。それを探すのは、あまりに非効率です」


 ここは南海の果てにある島。

 【ソソの血族】により、大陸を追い出された者たちが、最後の最後にたどり着いた安息の地である。


 そこにわざわざ、そのソソの血族の者が現れるかと言われると――。


 たしかに、そうは思えない。


 それこそ目の前の金髪少女のように、なにかしらの目的を持っていない限りは。


「煮えきらんのう。もう、そうするより外に、手はないことは、お主も重々分かっておるのではないのか?」


「――コウイチ」


「どうするコウイチ!!」


「十階のことは管轄外だし、貴方の判断に任せるわ、コウイチ」


 大剣使い。

 男戦士。

 女エルフ。


 それぞれが、判断を魔性少年にゆだねると明言した。


 任されてしまったからには、決めなくてはいけない。


 顎に手を当てて、深く考え込んだ魔性少年。

 しばらくそうして深く沈黙していた彼は、ようやく顔を上げたかと思うと、ヤミに向かってその紅顔の正面を見せた。


「分かりました。組みましょう、ヤミさん」


「にょほほ!! そう言ってくれると信じておったぞ!! よきかなよきかな!!」


「しかし、もし十階で貴方がくろがねの巨人に悪さをしようとしたその時には――僕は全力で、貴方の暴挙を止めます。どんな手を使ってでも」


 そう言った魔性少年の表情には、いつもの穏やかな笑顔はなかった。

 かつて、そのくろがねの巨人の力を与えられ、そして、今に至るまでその呪いに苦しめられている。一族の代表として、彼はそうはっきりと断言してみせたのだ。


 そんな表情を見て、ヤミがうっと、しり込みする。


「ふむ、なかなか、やはり、骨のある少年だな、彼は」


「そうね。一族のために、あそこまで体を張れるなんて――なかなかのものよ」


「あら、それだったら、モーラさんも張ってるじゃないですか」


「へ?」


 思いがけない女修道士の言葉。

 それに、素っ頓狂に声を上げた女エルフ。


「貢献してますよね。どエルフ族のエロさのイメージアップに。モーラさんみたいにに活動しているどエルフ族、見たことありません」


 しかし――。

 待っていたのはいつものであった。


「どエルフ族なぞおらんわーい!! エルフじゃ、わしゃ、エルフじゃーい!!」


◇ ◇ ◇ ◇


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