第八章 鬼の呪いと流浪の宿命(さだめ)

第181話 ど男戦士さんとラスボス

【前回のあらすじ】


 第一王女は正気に戻った。

 女エルフは安堵した。


 第一王女は男戦士を見て再度混乱した。

 女エルフは激怒した。


「その男を慕うというのなら、今日から貴方は私の敵よ、エリィ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 なんやかんやとありつつも、ようやく落ち着いた男戦士一行と第一王女。

 城の外の様子、そしてここに来るまでに見て来た中の様子について伝えると、第一王女は静かに涙を流した。


「なんということ、私がふがいないばっかりに」


「そんなことはないわ。これは、仕方のないことよ」


「しかし、もっと私がしっかりと、母上のことも国民のこともよく見ていれば、このような悲しい事態にはならなかった――」


「過ぎたことを言ったところで何も始まらない。今は、これ以上、状況を悪化させないために、やるべきことをやる、それしかないだろう」


 ティトさま、と、また、熱い視線が第一王女から男戦士へと飛ぶ。

 そんな二人の間にさりげなく入って、女エルフは第一王女に尋ねた。


「レジスタンスの狙いは武力革命よ。だから、狙うとすれば女王陛下の身だわ」


「分かりました――母上がおらっしゃるであろう玉座まで、私が案内いたします」


 そう言うや、第一王女は彼らを先導して歩き始めた。


◇ ◇ ◇ ◇


 玉座のある謁見の間を前にすると、むせかえるような瘴気に男戦士たちは戸惑った。


「この雰囲気はなんでしょうか」


「まるでラスボスがこの先に居るような」


「――というより、どこか懐かしいような、それでいてうっとうしいような、感じのする匂いなんだぞ」


 つまり加齢臭。

 扉の向こうからでも臭い立ってくるそれに、男戦士たちの背筋が凍る。


 居る、この向こうに間違いなく、オババ――ではなく、女王陛下が。


「確認しておきたいのですが、もし本当にぺぺロペの呪われた下着だったとして、それを解呪する方法はあるんですか?」


「――ないこともない」


 そう言ったのは女エルフだ。

 男戦士たちが混乱していた時には、手も足も出なかった彼女が、どうしてそう言い切れるのか。また、なぜ彼女が解呪魔法について知っているのか、疑問に思う所はいろいろとあった。


 だが、魔女ペペロペの名を聞いて、真剣な顔をした彼女を女修道士は見ている。

 そういうならば、と、彼女はおとなしく身を引いた。


「みなさん、気を引き締めてください。母がもし、本当にペペロペにより精神を支配されているのなら、この先に待っているのは地獄です」


「――任せてくれ、この程度の修羅場、慣れっこだ」


「その台詞はどうなのよ」


「だぞ。心配ないんだぞ。これでも、ティトもモーラも、コーネリアも、優秀な冒険者なんだぞ」


「ケティさんもですよ」


 みなさん、覚悟はいいですね、と、最後確認する第一王女。

 あぁ、と、全員が答えたのを確認すると、彼女はゆっくりと玉座へと続く扉を、奥へと押し込んだのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「よくもまぁ、ノコノコと戻って来たものだ。せっかく拾った命だというのに、惜しくはないのか、小僧よ」


 濃くなる瘴気と加齢臭。

 薄暗い謁見の間、その中央に鎮座して、女王陛下はこちらを睨み付けていた。


「このような稼業をしているのだ。もとより、命なぞ投げ捨てたも同然」


「くくっ、どうしてお前たちはそうも馬鹿なのだ。思えば、シャルルもそのような、馬鹿なことを言う男であった」


 ゆらりその場に立ち上がる女王陛下。

 すかさず、声を上げたのは彼女の娘――第一王女であった。


「母上!! 今回の一件といい、ここ最近の母上の治世は、あきらかに間違っております!! 男性とは憎むべきものではありません、手を取り合って、一緒に未来を築いていく存在です!!」


「――エリザベート。言うようになりましたね。まぁ、貴方も年頃、気になる男の一人くらいはできるものでしょう」


 それは、と、言いよどんで、ちらりと男戦士の方を見る第一王女。

 だからそれは勘違いよ、と、視線で女エルフが釘を刺した。


 しかし、そんな細かいやり取りは、女王陛下には関係ない。


「よい機会です、教えてあげましょうエリザベート。男という生き物が、どれほど浅ましく、どれほど薄汚く、そしてどれほど単純な生きものかを――」


 謁見の前の天井、ステンドグラスから光が玉座に降り注ぐ。

 姿を現したのは裸婦ラフな格好の女王陛下。


 そう、スケベ下着一つを身に着け、こちらを見つめるおばば――ラスボスの姿であった。


「――ぐはぁっ!!」


 ティトは即死攻撃を受けた。


「だぁもう!! いきなりババアの下着姿とか、反則でしょ!!」

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