第172話 ど戦士さんと大将の器

【前回のあらすじ】


 ドエルフスキーの戦斧が女王の街の広場を舞う。

 同じエルフを愛するエルフメイトとして、義により男戦士を助けた男ドワーフ。


 はたして、あわやという所で、男戦士はその命を拾ったのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


「紹介しよう。ここが我が革命軍ホモホモヘブンのアジト――ジューンヤマだ!!」


【キーワード ジューンヤマ: かつて伝説の画家ジューンが降臨し、うーっ、トイレトイレと駆けこんだという伝説のある山。それ以外は特にこれと言った逸話もない。近年は立派なきのこがとれます。ウホ、いいきのこ】


 そう言って山の中の砦に案内したヨシヲであったが、さもありなん、彼からの離反を表明した革命軍は本拠地を変えたのだろう、そこには人っ子一人として見当たらなかった。


 寂しい風が吹きすさぶ中、男戦士とドワーフが顔を見合わせる。


「革命軍の大将が、まさか逆に革命されるとはな」


「ある意味ではその人物眼は確かだったということか」


「しかし大将としての器は別だったってことだな。だいたい見ていて痛々しいんだよなこいつ。どこかひとりよがりっていうか」


「うむ、どっしりとした、大将としての風格みたいなものを、ブルー・ディスティニー・ヨシヲは身に着けた方がいいのかもしれない」


「――くっ、言わないでくれ。これでも気にしてるんだから!!」


 誰もいない山のアジトに、元頭領の嘆きの声がこだまする。

 なんとか女王国の兵たちの追跡を逃げ切った彼らは、裏切られたのを承知で、その元本拠地へとやって来たのであった。


 まだその場に仲間が居るなら説得したい、そういうヨシヲの希望もあってのことだ。

 実際のところは女王の都には潜伏できるような場所はなく、また、土地勘のない男戦士にもアテなどなかった。


 ドワーフについては、なにやら過去に女王と彼の夫である王と、因縁があるような口ぶりだったが、隠れるところに当てがないのは一緒だった。


「なんにせよ、ここからなら街から兵がやって来ればすぐにわかる。いいアジトじゃねえか」


「だろう。ふふっ、もっと褒めてくれてもいいんだぞ。俺のこの、青い偉業を」


「仲間には裏切られたみたいだがな」


「ぐわーっ!!」


 頭を抱えてその場にうずくまるヨシヲ。

 いろんな意味で青いそんな彼の反応を楽しむように笑い飛ばすドワーフ男。彼の部下も一緒になって笑う中、一人、男戦士だけが熱い視線を彼に向けていた。


 その視線に気づかないドワーフ男ではない。


「ふふっ、どうしたティト。俺様の顔をそんなにまじまじと見やがって。まさかてめぇ、ドワーフもいける口とか言うんじゃねえだろうな」


「いや、そんなことは。ただ、お前が助けてくれたのが意外だったのでな」


「だにぃ。親分は、風の噂で、お前さん方がエルフ喫茶を造るために旅立ったと聞いたんだにぃ」


「んがぁ。それで、それなら力を貸してやろうって、急いで追いかけたんだなぁ」


 おいやめろ、と、ドワーフ男が子分たちをしかりつける。

 本当のことじゃないか、と、子分たちがけたけたと今度は彼のことを笑う。自分たちの頭に向かって、そんな笑顔を向けられるのは、よっぽど人格的に信頼していないとできないことだ。


 なるほど、これこそ大将の器だなと、男戦士は納得した。

 敵ながら見どころのあるドワーフだとは思っていたが、思いがけずそれを再確認した形である。


 あんまりに笑いやまない部下たちに拳骨を見舞ったドワーフ。

 深くてとげとげしい咳ばらいをすると、彼は男戦士に向き直った。


「しかしまぁ、厄介なことになっちまったなぁ。まさか、この国がここまでこじれちまっているとは、俺も予想外だったぜ」


「そういえば、なにか女王と話していたが。ドエルフスキー、お前は先王と知り合いなのか」


「――そうさな。まぁ、隠すことでもないからいいんだが」


 ふっとドワーフ男がその団子鼻をこすりあげる。

 どこか男戦士に懐かしい目を向けて、彼は昔話を語り始めた。


「いまでこそエルフさらいなんて因果な稼業をやってるがよぉ、俺はこれでも昔、冒険者だったんだよ」


「冒険者。なるほど、それで、盗賊の類にしては異様に戦士技能が高いと」


「シャルルはその時の相棒さ。つっても、アイツは人間だったからな、十年くらいしか一緒に旅はしていなかったが」


 十年となるとそこそこの付き合いである。

 普通、冒険者のパーティは、そのハードな内容もありなかなか長続きしないのが常だ。死別、価値観の違いによる喧嘩別れ、技能の衰えによる引退。そんな中で、十年も背中を預けてともに戦える相手など、そうそう巡りあえるものではない。


 男戦士でさえ、なにかと息の合う女エルフとの出会いを、どこか奇跡のように思っているのだ。それを十年。


 彼がどうして、あの地に現れたのか。

 また、自分のことは抜きにして、革命軍の戦士であるヨシヲを助けたのか。

 その理由が、男戦士には分かったような気がした。

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