第67話 どエルフさんと言い間違え
二回戦。
男戦士と女エルフは、女騎士とその従者とぶつかることになった。
闘技場のステージの上、向かい合って並ぶ両雄。
「ふっ、どうやら相手にとって不足はないようだな、トットよ」
「アレインさま、できるだけ後ろに下がっていてくださいね。今回は僕も、余力なさそうなので」
あ、はい、と、すごすごと従者の後ろに下がる女騎士。
そんな二人のやりとりをじとりと眺めながら、男戦士と女エルフは作戦の最終確認をした。
「従士はああ言っているが、あの女騎士に邪魔されては困る。モーラさん、あの少年従士と俺が戦っている間に、なんとか仕留めてくれ」
「分かったわ。まぁ、氷結魔法なんかで、軽く動きを封じちゃいましょうかね」
それより問題は少年従士だけれど、と、女エルフ。
先ほどの戦いぶりから、男戦士でも苦戦するのではないかと、彼女は心配しているのだ。
しかし、そこは歴戦の兵の男戦士。
「確かに才能は認めるが、まだまだ粗削りだ。俺が遅れをとることはないだろう」
「流石の余裕ね、ティト」
「せいぜい、稽古をつけてあげるとしよう」
などと言っているうちに、キンキンと、試合開始を告げる鐘が鳴る。
いざ、尋常に勝負、と、少年従士は男戦士に向かって木製の槍を突き出してきたのだった。
ひらり、ひらりと、半身でそれを軽くよける男戦士。
見た目には少年従士が押しているように見えるが、実際には男戦士が繰り出す攻撃をよけつつ、彼に近づいている。
そうこうしているうちに、少年従士はステージの端へと追いつめられる。
「さぁ、追い込んだぞ。良い突きだが、まだまだ筋が素直だ。もう少し修業――いや、実戦が足りないな」
「――っ、なんの!! これならどうです!!」
突きの姿勢から深く腰を落とすと、今度は槍を持つ手の間隔を大きくとった。
振り下ろし、頭上からの攻撃だ。
それを受けようと上段に剣を構えた男戦士。
しかし。
槍は彼の見上げる先で素直じゃない動きを見せた。
ぐねりと、うねりを上げて曲がったそれは、頭上からずれ――袈裟に男戦士に切りかかったのだ。
強引に、腕の力で槍の動きを従士が変えたのだ。
これは不覚と男戦士がバックステップでかわす。
間一髪、なんとかそれを避けた男戦士だったが、少年従士が穿ったステージのタイルは、粉々に砕けていたのだった。
「――やるな!!」
「そちらこそ。お見事です」
お互いの実力を認め合う二人。試合中でなかったら、握手でもしにいきそうな、そんな様子である。
しかし、そんな二人をよそにその後ろでは。
「ちょっと、ちょこまかと動かないでよ!! 魔法が当たらないじゃない!!」
「知らないのか貴様!! 逃げるは一時の恥!! 負けるはクッコロの恥!!」
「聞いたことないわよそんな言葉!!」
ぐるりぐるりと、ステージの淵に沿って追いかけあい。
女騎士を女エルフが追走して、魔法を打つというやり取りが繰り広げられていたのだった。
悲しいかな、力自慢の女騎士だというのに、女エルフから逃げきれない足の遅さが悩ましい。
しかしながらそんなポンコツ女騎士を、追いつめられない女エルフの貧弱さよ。
「ちょっと、いい加減止まりなさいよ!!」
「嫌だぁっ!! この大会で優勝して、賞金でトットと北の港でカニ三昧、お腹いっぱいカニを食べるんだ!!」
「なにそのしょうもない理由!! なめてんの!!」
やいのやいのと言いあって、駆けまわる二人。
しかし既にこの時点で体力のない二人。
「トット、すまない、ちょっと助けてくれぇっ!!」
すぐに、辛抱たまらなくなった、女騎士が助けを求めた。
「ちょっと、ティト!! こいつ思った以上にすばしっこいの、助けてくれる!!」
負けじと、女エルフも助けを求める。
「トット!!」 → 女騎士
「ティト!!」 → 女エルフ (以下交互に繰り返し)
「トット!?」
「ティト!!」
「――トィト!!」
「――テット!?」
「ティト!!」
「トット!!」
「なにやってるんだティト!! はやく私を助けてくれぇ!! このままではクッコロしてしまう!!」
「お願いだからはやくしてちょうだい、トット!! もう、足が限界――」
すっかりと名前が入れ替わってしまった、ポンコツ女騎士と、女エルフ。
パートナーの混乱を前にして、男二人。
いったん、お互いの得物を収めると、彼らはそんなそれぞれのパートナーを止めに入ったのだった。
「ちょっと、何してるのよ、トット!! 止めるのはあっちの女騎士でしょう!!」
「なんで私を止めるんだティト!! 私は騎士として、あんなどエルフに負けるわけにはいかないんだ!!」
「いや、モーラさん、俺はティトだ」
「アレイン様、いくらなんでも、従者の名前を間違えないでくださいよ」
冷ややかな目で、パートナーを見る男戦士たち。
ふと、お互いの顔を見合わせて、ううん、と、頭を捻る女たち。
そうして彼女たちは、そっと、目を伏せると、こう、つぶやいた。
「「くっ、殺せ!!」」
ポンコツ女二人。それでもなぜだか、ハモるのだけは上手くできたのであった。
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