第59話 どエルフさんと試着

【前回のあらすじ】


 行きつけの道具屋へとやってきた男戦士たち。

 エルフ専用装備なるものを勧めてくる店主であったが、それらはいずれも店主脂ぎった裸の中年男性が一度着用したリユース品であった。


 つまるところ店主は変態であった。


====


「ちなみに、エルフじゃなくても、それを試着させてもらうことはできるか?」

「あぁ、構わないぞ。そちらの女修道士シスターさんと獣人の娘さんもどうだい?」

「うんと、今回はちょっと遠慮しておきますね」

「ぼ、僕もそうするんだぞ。というか、きっとサイズが合わないんだぞ」


 目を泳がせて店主の提案を拒否する二人。

 なんだい、と、少ししょんぼりとした顔をする店主だったが、まぁ、それは自業自得というものだろう。


 なんてことを冷ややかな顔をしながら思っている女エルフの前で。

 突如男戦士が手を挙げた。


「では、俺が着ても構わないかな」

「ティト、お前――」

「店主さん。あんたの心意気、俺にはよく伝わったよ。だから、その心意気がこのまま誰の肌にも触れないまま、終わってしまうのはどうかと思ったんだ」


 どうか俺に着させておくれよ、そのローブを。

 男戦士はいつになく男前な顔つきでそう言った。


「ったく、お前って奴は」

「お互いエルフを思うもの同士じゃないか。水臭いことはなしだぜ」

「ふっ、そのローブは俺の腋臭ワキガ臭いがな!!」

「ちがいない!!」


 わっはっは、と、意気投合して笑いあう店主と男戦士。

 そんな二人をバカなんじゃないのと、冷ややかでもなく、怒りでもなく、呆れ果ててパースが崩れたような顔で、エルフ娘は眺めるのだった。


 数分後。


「ふぉおおおっ!! 見てくれモーラさん!! すごい、これはすごいぞ!! まるで服を着ているのに着ていないような軽やかさ!! それこそ全裸で街を歩いているような解放感だ!!」

「違う、解放感とか、そんなの求めてないから――」


「そしてこの綿毛鳥の冬気が醸し出す絶妙な肌触り。まるでそう、綿毛だらけの草原に裸で寝転がっているような心地よさ」

「裸で寝転がらないでくれる、迷惑だから――」


 店の床に転がって、あはんうふんとポーズを決める男戦士。

 その微妙に開けた布の間から、ちらりちらりと見える肌色に、女エルフは顔を紅潮させ、女修道士はあらあらうふふと微笑し、ワンコ教授はその目を女修道士に覆われていたのだった。


「いいぞ、ティト!! そうだその表情だ!! 今、お前はエルフと一体化している――もはやお前がエルフだ、この大地に舞い降りた可憐なる精霊なんだ!!」

「俺が――エルフ!!」

「エルフのイメージを著しく損なうからやめて!!」

「モーラさん、これ、いいよ、最高だよ。買おうよ、ねぇ、買っちゃおうよ。買わないと損だよモーラさん」

「だぁもう、やめなさい気色の悪い!!」


 上目使いに、女エルフの足元からすりよる男戦士。

 そのなんとも言えない気色悪さに、女エルフはただただ激昂したのだった。


「見てぇ、ほら、見てぇ!! こんなに、こんなに気持ちいいのぉ!!」

「触ってあげてモーラさん!! ほら、ローブの中に手を!!」

「やめろこら変態どもぉ!! もう、ヤダ、ほんとこいつら――」


 結局、男戦士が無理を言って、ローブは買うことになったのであった。


【魔法アイテム「翼のローブ」:着ることで回避判定+2になる魔法のローブ。ついでに解放感も上がる。さぁ、ローブの翼を広げよう、ユーキャンフライ!!】

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