第39話 どエルフさんと迷宮の主
「ねぇ、ティト。やっぱり今からでも引き返さない?」
「何を怖気づいているんですかモーラさん。私たちが見つけてしまったんですから、私たちがなんとかしなくては」
暗い抜け道を、男戦士に続いて奥へと進む女エルフと女修道士。
彼らは今、古代遺跡で見つけた、謎の地下通路を進んでいた。
ひょんなことから、この地下通路を見つけてしまった、男戦士一行。
通路の奥から聞こえてきた、人ならざる者の雄たけびに女エルフが怖気づく中、男戦士はあえてそこを進もうと言い出した。
「もしかすると、ここはよくないものを封印している部屋だったのかもしれない」
「だとしたらなおのこと逃げなくちゃ」
「ここにまた、誰かが訪れるとも分からない。そうなった時、モンスターの餌食になられては困る」
正義感だとか責任感だとかの塊である男戦士だ。
言い出したら聞かないのはいつものこと、しぶしぶと女エルフはそれを了承したのだった。
だが、それでも彼女の心を襲う、心細さはいかんともしがたい。
「ティトぉ。ちょっと、歩くのが早いわ。もうちょっとゆっくり進んでちょうだい」
「すまないモーラさん。つい、この先にモンスターがいるとなると、勇み足になって」
「興奮するのはよくないことですよ。落ち着いてください、ティトさん」
なだめる女エルフと女修道士。
これで歴戦の兵である男戦士は、おもいがけず訪れた戦闘の気配に、少々力んでいるらしかった。
彼女たちにたしなめられて、男戦士は深く息を吸い込んで呼吸を整えた。
「ふむ。すまない、少し落ち着いたよ」
「ならいいけれど」
「ケティ。どうだろう、俺たちはどれくらい進んだんだ?」
ランタンとマップ、そして口にペンをくわえて難しい顔をするワンコ教授。
研究家の彼女は、ダンジョンを進みながら、この未知の地下通路のマップを作成していたのだ。
みちりと書き込まれたそれ。
枝分かれした通路や、ところどころの目印がみっちりと描かれたそれ。
だが、まだ、半分も埋まっていないだろうかという塩梅に、未探索の経路がいくつか残っている。
「今まででわかっている範囲を見る限り、まだ、踏破率は半分も行っていないかんじだぞ」
「そうなのか」
「意外と広いのね、この地下通路」
「そうだぞ。正直、上にある宮殿を軽く超える規模だぞ」
すごい発見だとばかり、自分で描いた地図を見て眉をひそめるワンコ教授。
そんな彼を横目に、ため息を吐いたの女修道士だった。
「となると、やはり、抜け道という線はなさそうですね」
「さっきから移動している感じまるで出られないように入り組んでるし。ティトの言ったとおり、何かを封印してたのかも」
「まぁ、モンスターが出ないだけ、マシだがな――うん?」
立ち止まっていた男戦士が、ランタンを向けた先に何かを見つけた。
不思議そうに眼を細めた彼は、女エルフたちが止めるのも聞かず、その方向へと足を進める。
ちょっと待ってよと、追いついた女エルフたちが目にしたのは。
「ピギィ!! ピギィ!!」
退化した目の代わりに触角を伸ばし、緑色の尻尾を激しく振り、牙を剥いてこちらを威嚇する、モグラヤモリであった。
ダンジョンの比較的浅い階層に生息するこのモンスターは、劣悪な環境下でもたくましく生息することで知られる。
そして、見た目に反して攻撃能力が低く、また、可食部が多いことから、ダンジョン内に棲む他のモンスターの家畜として扱われることが多い。
現にこのモグラヤモリも、木で作られた柵の中に囲われていた。
傍には水を湛えた小さな池と、これらの食料だろうか、小型のデスワームの死骸が転がっている。
ごくり、と、息をのんだのは男戦士。
「誰かがここで、モグラヤモリを養殖していた、ということだな」
「みたいだぞ」
「誰かって。誰なんですか?」
冒険の知識があまりない女修道士が誰となく尋ねる。
答えたのは、彼女よりは少し冒険の知識がある女エルフであった。
「モグラヤモリを好んで飼うのは、オークやトロルたちだわ。けど、こんな風に柵を作って飼うようなのは、ちょっと」
「もっと知性のあるモンスターが、これをやった、ということですか?」
「そうなるぞ」
「見れば、随分と頑丈にこの柵も作られている。やみくもに杭を立てて作れるものじゃない」
「じゃぁ」
「ブモォオオオオ!!!!」
突然、耳をつんざくような雄たけびがあたりに響いた。
声の方向を振り向けば、柵がある場所の向こう側、闇の中に人影がうっすらと浮かんでいる。
しかし、その頭には、大きな二本の水牛の角。
いや、角だけではない。
二本足で立ち尽くしてこちらを睨む、牛の頭をしたモンスターが、そこには立っていたのだ。
「ミノタウロス!!」
「ちっ、やっかいなモンスターが出てきな。いくぞ、モーラさん、援護してくれ!!」
男戦士は剣でモグラヤモリの柵を破壊すると、向こう側にいるミノタウロスに向かって突進した。
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