第12話
だけど次の日、由梨花はみんなの前に立って、
「みんなと別れるのは、本当に寂しいです。私のこと忘れないでくださいね」
そう言って、クラスメートに囲まれていたの。その人ごみの中の由梨花を、あたしは黙って見ているだけだった。ようやく廊下に出て帰る由梨花に声をかけたけど、何て言っていいかわかんなかった。そしたら、由梨花は
「怒ってるの?そう、更沙とは喧嘩したまま別れようよ。あたしは、それでいいから!」
「喧嘩って、なんで?怒るも何も、全然わかんないよ。由梨花」
『ごめんね、こんな事になっちゃって』
そのまま。そのままあたし達は、別れた。
立ち退いた由梨花の家は、家族中で付き合っていたわりにはパパもママも知らないと口を閉ざした。
君のそばに吹く風に気づいてよ
誰かがささやいたように聞こえた。耳元でやわらかくやさしく、あったかかった。
あれれ、なんだろう。目から雫が落ちてきた。
なんで、泣いてんのよ。
春の風に気がついてよ
まだ、春は遠いよ。なんでそんなにやさしく歌うのよ、また涙が出てくるじゃんか。
嵐の中で笑って
一緒にいるよ、微笑んで
なんで、こんなへたくそな歌であたし泣いてんだろう。
ばっかみたい。
あたしは、上を向いた。月が手の届きそうなところに見えた。
見上げるときは楽しいときばかりだったこの月を、つかまえたいなと思って手を伸ばした。
風はまた冷たい北風に変わったけど、不思議と嫌じゃなかった。
耳元に心地よい音がゆれて通り過ぎて行った。あたしの目から涙は流れていたけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます