ロータリーより愛を込めて
sakurazaki
リュウノスケと仲間たち
第1話
駅前ロータリーは急ぎ足
ドラムの音が止まった。聞こえなくなった。
「わわわ」
今までいい感じで叩いてリズムを刻んでいたドラムのツバサの声が聞こえた。
なんだ?どうしたんだ?俺は振り向いてツバサを見た。
夕暮れになりつつある中で北風がさらりとツバサの髪を通り過ぎてゆく。やさしい表情とびっくりしたかたまった表情がかさなって奇妙な顔、っていうか間抜けな顔になってるぞ、ツバサ。
「なんだよ、なんだよ!なにやめてんだよぉ~おめぇ、まじめにやれよぉ~」
ベースギターのナオトがかっこつけた顔から力が抜けた感じで吠えた。ちょっと負け犬みたいに吠えた。
ツバサの目線の先、正面の大通りにかかる歩道橋に俺の目が釘付けになった。
そこに中学生くらいの女の子が何かに引っ張られてるみたいに、歩道橋の柵に身体半分乗り出して揺れている。風に吹かれる木の葉のようだ。
鉄棒している訳でもないだろうし、なにやってんの?あぶねぇじゃんか。
揺れているのが自然なことのように北風が吹きぬけてゆく。
(おい!ナオト正面!)
俺はベースに目で合図を送った。俺の目線にナオトが歩道橋を見て、驚いた顔。せっかく俺が黙って合図を出したのに、ナオトはやっぱり口を開いた。
「まずいよ!やばいよ!自殺だったら、どうするんだよ!俺、人が落ちるとこなんて見たくねぇよぉ~」
こいつはやっぱりおしゃべりだった。ナオト、うるせぇよ!
さっきまでのかっこいいベースギターは、おろおろしてる。気が小さいって、ばればれだぜ、ナオト!
「な、な、なんとか、ししたほうがいいよね」
ツバサはどもって、かたまったままピクリともしないしドラムのスティックも落としちまいそうだ。
その女の子はゆらりゆらりと風に吹かれるように身体を宙にゆらして、あとちょっと重心が前にかかったら下の通りに頭から落ちてゆきそうだ。
すると片足を歩道橋の手すりにかけると、ひょいと身体を持ち上げて手すりに腰掛けた。
飛び降りる?
それとも、この北風にのって空を飛ぶのかな。長い髪を風にゆらして空を見上げて胸をはるその姿は、今まさに飛び立つ雛鳥みたいにも見える。
「ど、ど、どうするの?なな、何かし、したほうがいいよね?」
ドラムを叩いていたツバサの色白でやわらかい表情がますます緊張して聞いた。
まったくこいつはあがり症で、ちょっとの事ですぐ緊張しまくる。そして、どもっちまうんだ。まあ今の状況はちょっとの事って訳にはいかないけど。
「どうするんだよ、リュウノスケ!止めんのかよ!」
今にもベースギターを置きかけて走り出しそうなナオトは、思いつくとすぐつっぱしっちまうから始末が悪い。正直に言おうナオト、お前が言っても無駄だと思うぜ。
その時、少女はからだをゆっくりそらした。そして、両手を空に向けた。
あぶない。
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