スーパー◇ボット少女「」 - 誰も知らない日常詩篇 -
ながやん
本編
Act.01 チャーミング・ウォー
第1話「メリッサちゃんと、ひょーちゃん」
その日、彼女には初めての友達ができそうだった。
だって、同じ境遇の仲間だから。
だから、とても夜が待ち遠しかった。
「あ、いたいた!
作業机の前の小柄な少女が、その声に振り向く。
名は
人の絆と信頼だけで、なんの利益にもならない戦いに身を投じている。
いわば、正義の味方……それがリジャスト・グリッターズだった。
「あ、エリーちゃん! もうそんな時間? ……ホントだ!」
「ふふ、都さんってばずっと作業に没頭してたから。それ、かわいいですね」
エリーが指差す先に、小さな人形が立っている。正確には、プラモデルだ。デフォルメを効かせつつ、二次元のアニメのようなスタイリングを重視した、新製品……の、試作品。それを褒められて、都はニコリと笑顔になる。
こういう時、彼女は思うのだ……都のこの、無邪気な童女の笑顔が、好きだと。
「へへー、よく出来てるでしょ。こっちがメリッサで……こっちが
「あ、そうなんだ……女の子みたいですけど」
「そそ。ほら、戦争もお金がかかるからさあ。なんか、
「……それ、売れるんですか?」
「売れるよぉ! 需要あるもん。あの超法規的独立部隊、リジャスト・グリッターズの名だたるエース級ロボが美少女化だよ? しかもこれ、
「ふっふっふ? え、それってまさか」
「そだよ、バトルができるのです! 今、とりあえず試作品であがってきてるのを組んでるんだ。ブレイライトとかEFY-Xのレイちゃんでしょ、あとはカクヨムコラボ品のフランベルジュの三姉妹でしょ、それと」
「あ、あのぉ……都さん、お風呂は」
ちょっと困り顔で苦笑しつつ、エリーがそっと呟く。それで都は「そうだったー!」と元気よく椅子を蹴った。そして、二人は連れ立って艦内に増設した共同浴場へと行ってしまう。
照明の消された都の自室は、小さな丸窓から入る星明かりだけが薄明るい。
「ん、んーっ! はあ。おーい、ひょーちゃん。もう動いていいと思うよー」
そう、彼女の名はメリッサ。同じ名前のレヴァンテインを擬人化した、美少女型プラモデルだ。特徴的なレッグスライダーは勿論、やや露出多めな肢体はしなやかさが実機を思わせる。
そして、彼女が呼びかける先に……マントを
巨大な剣を構える
「……もう、いい?」
「そそ、だいじょぶだよ」
「……そう。疲れた、この剣……重い」
「おつかれー」
ひょーちゃんと呼ばれた包帯少女は、一層派手な露出度を包帯とマントで隠していた。手にした巨大な剣をポイと放り投げると、メリッサのところにぽてぽてと駆けてくる。
彼女たちは、モデラーズ・プロジェクトで生まれたエンジェロイド・デバイスである。
そう、これを市販品として売って軍資金にする計画があるのだ。
「いやいや、それはない。ナシだよね、ナシ」
「ありえない……」
……当のエンジェロイド・デバイスに突っ込まれているが、本当である。各地を転戦するリジャスト・グリッターズには、仕様や規格の違う
魔法で動くものさえあって、そもそも統一性を完全に無視している。
今は多くの整備員の努力で稼働率こそ一定を保っているが……問題はメンテナンス用のパーツ調達や弾薬の補給だ。
「ぶっちゃけて言うと、お金がね……ないんだよねえ」
「メリッサ、ミもココロも、ない」
「ひょーちゃん、それを言うなら『身も蓋もない』だからね」
「フタ……」
そこで、一部の有志が考案した金策が、これである。ネット上でコアな人気を誇るリジャスト・グリッターズは、好意的な報道もあって各国に正義の味方として認知されている。
必要とあらば、国家を相手にしても民のために戦う。
そんな訳で、ティーンエイジャーには莫大な人気を誇っている。
そこに目をつけて商品化が検討されているのが、エンジェロイド・デバイスだ。プラモデルメーカーのスメラギに協力を仰ぎ、流通経路は
「あ、さて……ごめんねー、ひょーちゃん。まだ私とひょーちゃんしかいないんだ。残りはほら、あそこ」
「……積まれてる」
「ま、順次作ってくれると思うけど」
「期待、してる」
作業机の上で二人は、うず高く積まれた箱を見上げた。
それは、市販品とほぼ同じ仕様で持ち込まれた、最終チェック用のプラモデルである。第一弾のラインナップは、慎重に選び抜かれた十種類に
因みに、私のユースティアこそ真っ先に出すべきですわ! と言った人がいるとかいないとか……だが、先ずは様子見でという話と、なによりクオリティアップのために第二弾に回すということで落ち着いた。……スポンサーのご機嫌を取るのも大変である。
そんな訳で、取り急ぎ模型が趣味の都の部屋に運び込まれ、こうして最初の二体が作られたのだった。
「メリッサ、それ……なに?」
「ん? ああ、これ? いいでしょ、全てのエンジェロイド・デバイスにある3mm穴だよ? ここに武装や装甲を追加したりできちゃう。カスタマイズ要素が受けるかなーって」
「じゃあ、わたしのここ、も……?」
「わーっ! 駄目、ひょーちゃん駄目ぇ! それ、違う穴だから。はいそこ、包帯取らないで! マントで隠して」
「股間に……大砲……格好、いいかも」
「それは、あれだよぉ……その3mm穴は、フロントスカートアーマーをつける穴で……ひょーちゃんはそもそも装甲が少ないから」
メリッサはやれやれと肩を竦めつつ、ジト目の少女をチョップ。ぽふ、と頭を叩かれたひょーちゃんは、股間の3mm穴をまさぐるのをやめた。
そうして二人は、とりあえず暗黙の了解を確認し合う。
「とりあえず、まあ……多分これ、ICチップの初期バグだと思う。本当は専用のモデラーズ規格のコンソールで、買ってくれた人が動かすんだけどね」
「わたし……自我、ある。感情、豊か。とても、人間らしい」
「ツッコミ待ちかな? ひょーちゃん、そゆキャラでいくのかな? ……ま、そんな訳で、あんまし周囲を騒がせないよう、人の前ではおとなしくしてようね。この部隊の人たちはみんな、ほら……いい人だから」
「損得、無視して……地球のために、戦う。正義の味方、的な?」
「そそ。っと、都ちゃんが帰ってきた。ほら、これ持って! 剣、ほら!」
「……重い」
近付く足音にバタクタと、二体のプラモが定位置に戻る。
同時に、部屋の明かりがついてシャンプーの匂いがふんわりと広がった。濡れた髪にタオルを乗せて、都が戻ってくる。ほくほくと表情の緩んだ彼女は、洗濯物を専用のかごに仕分けして入れると……再び作業机の前に戻ってきた。
「ありゃ? ……こんなポーズで飾ってたかな? ま、いっか。ひょーちゃんはこれ、ホントにいいのかな。装甲スカスカだけど。
そうして都は、次に作るエンジェロイド・デバイスを選び始める。積まれたプラモの箱を吟味する彼女を、こっそり二人の視線が見守っていた。
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