ここにはない明日。
桜月雛
プロローグ
お祖母ちゃんのうちは森の中にある。
本当の森じゃないのは知っている。ただ、私からすると森にしか見えないというだけで、他の人からすると“裏の山”なのだそうだ。
昔は林業で盛んだった……らしいけど、今は盛んどころか、その町にはおばあちゃんの家と、郵便局兼雑貨屋のおばさんのうち、それから通う子供もいなくなった小学校を利用して、牛を飼っているおじさんおばさんの家だけ。
お祖母ちゃんの家の目の前には二車線の道路。北海道の道だからそれは道道と呼ぶんだけど、それを渡ると向かいに雑貨屋さん、その数メートル先に牛がモーモー鳴いている廃校利用の畜産農家。それを囲むようにして裏の山が広がっている。
これを“町”と言っていいのかわからないけど、一度町になると“村”という呼び名には戻らないらしい。
それでも村にしか見えないこの町は、昔は“国鉄”も通っていたらしい。
国鉄は今のJR。林業が廃れると同時に人が減り、廃駅になったのはかなり昔の話らしい。
今は駅舎の陰すら見えない。森に乗っ取られてしまったようだ。
「
お祖母ちゃんにそう言われて、サンルームから振り返った。
中学校1年生の夏休み。その初めての中学校の夏休みに入るとすぐ、母親に連れられてここに来た。
最近、お父さんとお母さんの仲が悪いとは気づいてた。ううん。きっと気が付いたのは最近の事じゃない。
見てみないフリをしていたのはずっとだ。
小学校も高学年になる頃には、お父さんとお母さんは会話をする事も無くなっていたし、目も合わせるようなことも無くなっていた。
そして私が寝ていると思う時間帯には、ふたりはリビングでボソボソと言い争っていたのを知っている。
何か物が飛ぶような派手な喧嘩はないけど、それでもふたりで仲良くしているわけじゃないのはわかっていた。
たぶん、離婚は秒読みなんだろうな。だから、私はお祖母ちゃんの家に預けられた。
ふたりがいつもする話……それは“私をどちらが引き取るか”それが一番多いんだから。
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