バーテンダーさんは世界最強

@mobrann

第1話

ここは街の喧騒とは切り離された一種の別世界、そして俺が手間暇かけて作り上げたバー。


『子羊の集会所』


薄暗いどこか大人な雰囲気をしている部屋を淡いキャンドルの炎が適度に照らし出す。

シェーカーが小気味よいリズムで振られグラスとグラスがぶつかり合う。

そして俺が最後まで拘ったバックバーには世界中を巡り見つけたリキュール、バーボン、スコッチ等の歴史を感じさせるボトルが独特の存在感を示している。



本日のお客様は常連の冒険者さん。カウンターで一人黄昏ている。

体は光を反射する重厚な金属鎧に包まれ背中には自分の身長に匹敵するのではというほど巨大な大剣が収められている。バーには不釣り合いのようだが年季の入った人物が持つ独特の哀愁が漂い不思議なことに様になっている。


「マスターいつもの」


いつにも増して嗄れた声で冒険者さんは注文をする。


「どうかされましたかお客様」


「ああ……聞いてくれよマスター。俺が長期の依頼で街を一、二週間離れやっと帰ってきた時の話だ……」


しまった。この人の聞いてくれモードには時間が掛かる。つい先日も一つの愚痴にしかも奥さんに家を追い出された話で営業時間終了まで延々と喋り続けられた記憶がある。


「あの日俺は仲間の冒険者と依頼終了の祝いとして酒場で打ち上げをしていたんだ。そしたらつい飲みすぎちまってよ気づいたらもう夜明けの刻になっていた。で、これはまずい早く帰んねぇとって思って急いで家まで走ってったんだよ。そしたら家の玄関で女房がオーガも裸足で逃げ出すような顔で突っ立ってんだよ。でなんて言ったと思う?こんな朝方まで飲んでるなら帰ってこなくていいわ。だとよ!こちとら家族を食わせるために危険な仕事して精一杯頑張ってきたってのによ。あんまりだと思わねぇかマスター?」


ええ。あんまりだと思いますよ。俺が……

途中から気が付きましたがこの前と同じ話をされていますよね。同じ話を延々と聞かされる身にもなってください……とは流石に言えない。仕方ないのでこの言葉をお客様に贈ろうと思う。


「自分が正しい。相手が悪い。その考えが間違っているのです。奥様は貴方の事が心配だったから怒ったのです。そうでなければ夜明けまで玄関で待っていることなど出来ません。貴方も奥様や家族の為に頑張って仕事をした。2週間も危険な仕事をこなし続けた。これでいいのです。互いに感謝をし合える関係、謝罪が出来る関係を作っていって下さい」


「うん、そうだな……マスター。俺が間違っていた。ちょっと女房とこ行ってくるわ、またな」


カランカラン、そう言い残し冒険者の男は街に旅立っていった。


「これ前も言ったことなんだけどな……」


ここは迷える子羊が集うバー『子羊の集会所』。

マスターが、やってくるお客様の悩みを立ち所に解決する事で有名です。


しかし裏の稼業についてはまだ誰も知りませんーー

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