437 グイン・サーガ・ワールド 2
2011.08/ハヤカワ文庫
<電子書籍> 無
【評】 ―
● 夫婦の特殊プレイ公開しすぎぃ!
没後に刊行された、栗本薫の遺稿の発表と他作家による外伝・続編を掲載したシリーズ。全八巻の二巻目。
当ブログでは原則栗本薫に直接関わるものについてのみ言及する。
『氷惑星再び』
『グイン・サーガ外伝22』に収録された中編『氷惑星の戦士』の続編。
前作から三年後、主人公ノーマンが氷惑星アスガルンに戻ってきて、かつて彼を殺そうとした行政長官シグルドの依頼によって、アスガルンの各地で起きる洪水の原因を究明することになり、新たな仲間を加えていざ旅立ち、というところで中絶。
たびたび語られているように、本来はこのノーマンを主役としたシリーズが大長編ヒロイック・ファンタジーシリーズになる予定だったが、高千穂遙『美獣』を読んで力不足を感じ、今作を中絶。改めて書きはじめたのが『グイン・サーガ』である。
特筆すべきはその切替の早さ。本作を中絶した一週間後にはグイン・サーガ創作ノートが書きはじめられ、その四日後には執筆を開始しているとのこと。早すぎる……。
本作自体は冒頭で終わっている未完作品だし、作者自身が見切っただけあって、あまり先々が読みたくなるような話でもない。この辺りのアイデアの見切り方というのが、若い頃の栗本薫の一番凄いところかもしれない。
『日記より』
中島梓がずっと書き続けていた日記から随時抜粋したもの。73~86年までのあいだの、もっぱら創作に関することばかりが抜粋されている。
若いころ、特にデビュー前は自分の才能に懐疑的で、うまくいっているときは調子に乗る一方で、ひどく自分に対してシビアな目線を向けているのが印象的だ。
特に後に出版された大学時代の習作『トワイライト・サーガ』シリーズを書き続け、このままエンタテイメントに進んでいくことを「若いうちから世界を狭めてしまう」「できないことをやらないという云い訳を得るようになる」と記しているところなど、なんとまともで野心的な若者だろうと感じ入ってしまう。
しかも執筆中の一作『カナンの試練』に対してひどく文章が荒れているとし
私は書き直しということをしないからよほど狂わないかぎり適当にでっちあげてごまかしてしまう上、このところ万年筆ではなくペンなので、つるつるすべって軽々しいので、万年筆のワンテンポなしでホイホイ行きあたりばったりに文をはじめてしまうからである。
と完璧な自己分析をしている。やっぱりワープロになったせいで文がより荒れたんだ……若い頃の当人がそういっているんだから間違いない……。しかし書き直ししないのが原因だとわかっているのに、なぜ終生書き直しをしようとしなかったのか……。そしてわざわざこの部分を抜粋していることからして、旦那もこの部分がいけないことに気づいていたんだ……そりゃ気づくよな……。
あとは86年の部分に「自分の中にはもう一人の面倒くさい人格がいてそれは本来の人格ではない」という自己分析をしているが、どう見てもそちらが本来の純代ちゃんです。というか二重人格というほどのこともなく、調子に乗りやすい人間がふとしたときに我に返って自分が恥ずかしくなるアレでしかない気がするんですが。
わかるよ、全能感の抜けきっていない幼稚な人格だと、うまくバランスが取れないから、調子に乗るととことん感じ悪くなるし、その時期が終わるとすごい卑屈になるんだよね……わいもそういう人間だからわかるで……あと執拗に敬語で話してくるくせに仲良くなると失礼なこと言い出すメンヘラ腐女子も多いからわかるで……純代はやっぱり元祖コミュ障オタやね……。
85年時点での今年の執筆予定の中にいくつか刊行されていないものが散見されるが、それはよくあることとして、特筆すべきは『怒りをこめてふりかえれ』の名があること。96年にもなってなぜ『猫目石』の続きを……と思っていたが、直後に構想はしてたんだね。この時期ならマスコミへの恨み節を書きたかった気持ちもわかる。
セレクションされているだけあって、なかなか興味深いところの多い日記である。
『いちばん不幸で、そしていちばん幸福な少女 ―中島梓という奥さんとの日々―第二回』(著:今岡清)
旦那による中島梓との思い出話第二回目。
前回は「寝る前にオリジナル童話的なものを読み聞かせしてた」という薫の童女プレイの話が書かれ「ええ……そりゃ夫婦でどんなプレイしようと自由だけど死んでからそれ公表する必要あるの……? 生きてるうちに云い出したら笑って聞けるけど、死んだ後に公開されても云わないどいてあげなよ……」という気持ちでいっぱいになったわけだが、その点について本書では「そういう意見も届いているが稀有な表現者がどうあったのかを伝えたいので敢えて書いている」と念を押している。いや、だから生きているうちに公表してよ……。
そんな今回は、旦那が梓をマッサージするときに、揉み手の移動になぞらえて架空の東横線を走らせながら、幼稚園児レベルの下ネタ混じりなオリジナル童話的なものを語るという、やはり夫婦の特殊プレイを紹介。ツッコミづれえ……生きているときなら「童女プレイまじきんも~☆」とか「七十八十のおばあちゃんならボケて幼児退行してるんだなって思えるけど五十代前半でそれはないわ……」とか云えるけど、当人が亡くなったあとで、旦那に一方的に云われちゃってるからツッコミづれえ……。生きているときに云ってくれたら梓も「おま、なに世間にバラしてんだよ!」ってなって公開プロレスとして楽しめたのに、死んでからやられちゃったらいたたまれない気分しか残らないよ……。
その他は前巻に続きグイン・サーガ外伝『星降る草原』(著:久美沙織)『リアード武侠傳奇・伝』(著:牧野修)『宿命の宝冠』(著:宵野ゆめ)の連載第二回目が掲載されている。これらはすべて連載完結後、外伝23.24.25として単行本出版されたため、感想は割愛。栗本薫作品のレビュー後に余裕があればそれぞれについて述べることにする。
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