436 グイン・サーガ・ワールド 1

2011.5/ハヤカワ文庫

<電子書籍> 無


【評】 ―


● 続編プロジェクトと客寄せ薫


 没後に刊行された、栗本薫の遺稿の発表と他作家による外伝・続編を掲載したシリーズ。全八巻。

 当ブログでは原則栗本薫に直接関わるものについてのみ言及する。


『ドールの花嫁』

 十六歳のナリスを描いた未完作品。

 巻末の解説では、死後に発見された原稿のため、なぜ未完に終わったのか、どのように展開していく物語の予定だったのかは不明だが、おそらく『ナリス十六歳 闇と炎の王子』(『外伝6 十六歳の肖像』収録)へとリライトされたのだろう、と推測されている。

 ストーリーの内容は、学問所に通いはじめたナリスが、ヤン・スーファンというキタイ出身の教師と出会い、いくばくかの会話をしたところで終わっている。長編の出だしだけである。こういう「書きはじめてみたけどなんか乗らなかった」みたいな未完作品はプロ・アマ問わずどんな作家にも山ほどあると思うので、そういうものの一作だっただけだろう。よって、面白いもつまらないも云いようがない。

 ただ、なんとなくだが『闇と炎の王子』にリライトされたというよりも、これナリスがこの教師に拉致られたり監禁されたり調教されたりするホモ小説の予定だったんじゃないかという気がする。まだグインでホモを本格的に書く覚悟ができていなかったから中絶したのでは……と思ってしまうのは晩年の薫に毒され過ぎであろうか。


『日記より』

 純代ちゃんが中学生より書き続けていたという日記から一部を抜粋したもの。中学生時代からデビュー前の時代までをピックアップしている。

 内容は本当に日記である。悲しかったポエムや「俺はやるぜ」宣言など、人に見られることをまったく想定していない文章が並んでおり、正直、いたたまれない。旦那としては「故人の意思に反するかもしれない」と覚悟したうえでの発表であることを表明しているし、実際にへらへらと読んだ自分が云うべきことではないが、やっぱりこれは一緒に燃やしてあげるべきだったのでは……と思ってしまう。

 ただ高校生時分に「ちかごろようやく、こう言う勇気が出た。私はソドミーとソドミアンが好きなのだ」と日記でわざわざ腐女子宣言をし、その後にやたら背伸びした文章で釈明と覚悟を述べている姿には、二十四年組すら不在の世界で腐女子であるということの重さと面倒臭さを感じ、現代の腐女子にもこういう恥ずかしい宣言を残してもらいたいと思った。

 でも明らかに黒歴史だからやっぱり焼いてあげようよ……。


『いちばん不幸で、そしていちばん幸福な少女 ―中島梓という奥さんとの日々―』(著:今岡清)

 旦那である今岡清が亡き中島梓について語った連載エッセイの一回目。

 生前は当人の目に止まるためか、やはり遠慮があったんだなということがわかる忌憚のないエッセイ。悪口というわけではないが、ずいぶんと精神が不安定で面倒くさい人であったことを赤裸々に語っている。

 亡き妻について語る夫に対して内容の良し悪しを求めるのもおかしな気がするので、自分の感想は割愛する。



 その他はグイン・サーガ外伝『星降る草原』(著:久美沙織)『リアード武侠傳奇・伝』(著:牧野修)『宿命の宝冠』(著:宵野ゆめ)の連載第一回目が掲載されている。これらはすべて連載完結後、外伝23.24.25として単行本出版されたため、感想は割愛。栗本薫作品のレビュー後に余裕があればそれぞれについて述べることにする。

 一冊の本としては栗本薫関連の部分は客寄せのおまけであり、本体は三つの外伝となるだろう。よって評はなしとした。


 なおグイン・サーガはハヤカワ文庫で出されたものはほとんど電子書籍化されているが、この『グイン・サーガ・ワールド』シリーズは、ハヤカワ文庫JAでありながらペーパーバック形式という特殊な存在のためか、あるいは単に後に外伝は外伝として単行本化しているためか、電子書籍化されていない。

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