343 聖者の行進 ―伊集院大介のクリスマス―
04.12/講談社
07.11/講談社文庫
【評】うな
● クリスマスだし物理法則くらい乱れるさ
レズバーのマスターである藤島樹がぼんくらしてたら、昔世話になったレズママのジョーママ(体重100㎏・アラウンド還暦)がやってきて「最近経営難だし困ったことが続くわあ」とぼやき、数日後に自殺した姿が発見された。果たして本当に自殺なのか――
前置きなげええぇぇぇぇなああぁぁぁもうぅぅぅぅぅぅ。
なんで二六〇ページの話なのに、事件が起きるのが一八〇ページ目なんだよ。三分の二以上消化してるよ。つめろよ、その一八〇ページを二〇ページくらいに。そんで後半の八〇ページも半分の八〇ページにして計六〇ページの短編にしたら、文章の乱れはやや気になるものの、テーマ的には気の利いた短編になっていたと思うよ。実際、中期の伊集院シリーズ短編にはこういう話が多かった。『獅子は死んだ』は似たような形式でも白眉だと思う。
えー、まず根本的なところをネタばればれで叩くと、100㎏を越す巨体を女の細腕でもちあげるため、天井のパイプに縄を通して、滑車の原理で吊り上げた、と。
無理だよ。
この場合の滑車は、径の同じ定滑車。力の機械的倍率は1。つまり摩擦やなんやらを無視したとしても、100㎏を持ち上げるには100㎏の力が絶対的に必要。多分薫は滑車の原理というよか、その前のてこの原理のつもりだったんだろうけれども、物理を根本的にわかってないだろ。力点から支点の距離と作用点から支点の距離が同じ場合、力点に加える力と作用点が得られる力は同じ。これ、小学校高学年の理科で習うレベルだからな。
で、自殺に見せかけることによって店のリニューアルをなかったことにさせ、その間に店内に隠した麻薬等のヤバイ物を持ち出そう、と。
無理だろ。自殺現場に隠してある麻薬なんて警察が調べて持ってくだろ、そんなもの。どこまで警察をボンクラだと思ってんだよ。ツッコめよ、編集も。どんだけミステリーとして治外法権なんだよ伊集院大介シリーズは。
とはいえ。この小説、嫌いではない。
主人公の藤島樹は、五十代にしてもてもてのレズビアンという、なんか晩年の栗本先生のご自分の理想像の一つですかそうですかという感じで、その気だるさもモテっぷりも、カッコいいというよりダサい喋りも、かなりげんなり気味であったのだが、しかしジョーママの強烈なキャラクターがそれを救っていた。
だってこれ、どう見ても栗本薫じゃん。
痩せてまともなメイクをすればそこそこまともな顔なのに、厚化粧にケバイ衣装ですべてを台無しにし、いつもハイテンションにおしゃべりして二人きりになることを敬遠されつつ、不思議とみなに好かれるところがあって、物静かな老人がパトロンについており、面倒見もよかったので店を大繁盛させていた。しかし、いまではすっかり落ちぶれて愚痴っぽくなって、妙に見栄っ張りで、店が生き甲斐だから手放すこともできずにしがみついているが、続ければ続けるだけ赤字が増えていく一方。周りの人間には「あの店はもうダメだ」と言われ、昔しか知らない人間は目を細め「あの店は素敵な場所だった」と懐かしがる。
どう考えても栗本薫そのものです。
これ、意識的に書いてるの? それとも無意識?
ちょっと抜粋すると。
ママのことばは、同じことを何回も繰り返していう、というのもあるけれども、また、自分のなかだけではすごくきちんとした論理が成立しているけれど、それが実は他の人間にはまったく通用しない論理だ、というようなことがものすごく多いのだ。
……しかし書き写して改めて実感するが、すごい悪文だな。一文で「けれど」「けれども」使うか? 普通。「また」とか「それが実は」とかいらん言葉も多いし……
「ママは同じ事を繰り返して何度も云ううえに、他人には通用しない自分だけの論理をふりかざすことが多かったのだ」ではいかんのかいな。
つうか「云う」を漢字で書かなくなってるな、よく見たら。おれ、栗本先生の真似して「云う」と書くようになったのに……ぶつぶつ。
ま、ともあれこんな感じで、ジョーママの描写はどこを切り取っても晩年の栗本先生本人なんです。しかし、意識的にやっていたのだとしたら栗本先生はもっと湿っぽく同情的に書くはずなんだけどな……
無意識なのか? やはり。うーむ。怖い。栗本先生の無意識が怖いよー。認めてしまえば楽になれるのに、な~~ぜ~~。
栗本先生から見た栗本先生の惨めさがけっこう泣けるよ、という作品
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