310 月光座  ―金田一耕助へのオマージュ―(アンソロジー『金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲』収録

02.05/角川書店

12.11/角川文庫


【評】う


● レジェンドVS自キャラというドリーム小説


 老境を迎え、アメリカから帰ってきていた金田一耕助は、背の高い奇妙な男から歌舞伎の招待状をもらうのだが――


 伊集院meets金田一耕助。この恥ずかしい企画がやりたかっただけちゃうんかと。

 ストーリー自体は、金田一耕助シリーズの一作『幽霊座』に残る疑問に対するアンサーとなっており、趣向としては粋と云える。が、金田一シリーズの中でもさして有名でもない『幽霊座』の内容をよく理解していることを前提で書かれているので、読んでいなかったりうろ覚えだったりするとちんぷんかんぷんなのがどうかと思う。『犬神家の一族』とか『本陣殺人事件』ならまだしも『幽霊座』と云われてすぐ全貌を思い出せる人がどれほどいるのだろうか? ちなみに自分は『幽霊座』を読んだことがないのでそれ以前の問題でした。調べてみたら評判の良い短編なのね。じゃあ悪いのは読んでいない俺の方か……


 しかしかつての栗本薫なら、原作をうろ覚えだったり読んでいなくても、だいたいの筋は理解できるように書いてくれていたはずなので、いくら金田一ファン用のアンソロジーに収録された作品とはいえ、この独りよがりは辛い。

 また、2000年問題にぶちあたって以降の栗本先生にはいつものことだが、短編でも文章がぐたぐだ似たようなことの繰りかえしなのが辛い。なにが辛いって伊集院大介ならもう慣れているものの、金田一耕助までそんな調子なので「金田一先生……酸素欠乏症で……」という気持ちになるので悲しくなってしまった。


 大筋は嫌いじゃないので、全盛期の栗本先生にやって欲しかったな、こういうオマージュ企画は。

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