292 ローデス・サーガ 2 ―風が丘恋唄 1― 眠り姫の夜(同人誌)

2000.12/天狼プロダクション

<電子書籍> 無


【評】う


● 獅子心皇帝のドキドキ睡眠姦~お前の味を添えて~


 美貌を誇る盲目の選帝侯ロベルト。彼の半年ぶりとなる黒曜宮への出仕に、獅子心皇帝アキレウスは心を波立たせていた。ロベルトを襲った奇禍を聞いてより、皇帝は己の欲望を抑えられなくなっていたのだ――

 グイン・サーガのケイロニアを舞台に、ローデス侯ロベルトを主役としたヤオイ小説第二弾。


 アキレウス陛下キモ~い。

 この一言に尽きる。

 本作は1P=40字×16行で180Pほどあるのだが、そのうちの八割ほどが獅子心皇帝様による「もうチンコーたまらんですばい」という独り言である。本当に気持ち悪い。そもそも政略結婚した妻と仲違いし、二十五年前に行方知れずとなった愛妾に操を捧げていた堅物の皇帝が、実は十六歳の少年を見初めて「早くあいつから抱いてくれって云わないかな~」と十年間待ち続けていたという時点で気持ち悪いしいろいろ台無しだ。

 この台無しが本当に問題ですよ。ローデス・サーガの一巻はグイン・サーガと世界も時代も同じであるとはいえ、登場人物はほとんど新キャラのみ。そこでどんな乱交パーティーやSMプレイが行われようと、本篇には関係ないし……と目をつぶることができた。だが今作は本筋にめっちゃ絡んでくるアキレウス皇帝ですからね……。ホモというかバイなのはいいとして、少年時代から目をつけてて、しかも告白待ちって、気持ち悪いですよ……十年前のアキレウス様四十代ですよ……男同士とかそういうこと抜きにして、ミドルティーンからの告白待ってる四十代って、完全に事案ですよ……。早くケイロニア警備隊とかに通報しなきゃ……あ、最高権力者だから捕まらないんですね……。ヤベえよこの国……。


 で、そんなキモい告白待ちおじさんが、意中のロベルトが田舎ヤンキーと黒んぼにハードレイプされたと聞いちゃったからさあ大変、というのが本作のはじまり。関係者をとっ捕まえてマンツーマンで何人とどのようなプレイしたのかを聞きほじくり出し、「く、クソー! 初めては俺が奪いたかったのに!」と思いながらチンコがギンギンになってしまうのである。そう、皇帝は寝取られ属性だったのだ。大丈夫かこの獅子心皇帝。まあ権力者が性的に倒錯しているとかよくあることだからいいのか(いくない)。


 もうチンコギンギンで眠れないよーと(いやチンコギンギンが理由だとは云ってないけどさ……)部下に漏らしたら不眠症対策で眠り薬くれたので、よし、これはもうやるしか! とロベルトを呼び出し「なんでレイプなんてされたの!バカバカバカバカ!もうこの毒飲んで死んでおしまい!」と理不尽極まりないことを云って薬を飲ませ、ぐっすりと寝入ったところでレッツプレイである。そう、獅子心皇帝、初めてのドキドキ睡眠姦である。エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!(あ、この本エロ同人そのものでしたね)

「大丈夫、入れないから、入れないから」とさきっぽだけだから的な言い訳をしながら眠る部下の服を剥ぎ、まさぐる皇帝。年齢差は二十五歳以上。ノリとしては部下のOLを無理やり飲みに誘って酔い潰してホテルに連れ込むワンマン社長である。セクハラ社長をぶっ飛ばせ!である。

 そうして若い肢体を撫でさすりながら「カッチカチやで?カッチカチやで?」と一人でつぶやき続ける獅子心皇帝。愛妾ユリアがいなくなってから二十五年、ずっとセックスをせずに手淫一筋であったことを自慢しだすオナニーマスター・アキレウス。仮にユリアが生きて戻ってきてもお前のほうがいいとか云い出す獅子心皇帝。まあ二十五年経って戻ってこられてもババアだからね。仕方ないね。

「入れないから。入れないから」と云いながら「ちょっとだけ、ちょっと口だけね」とお口にモノを突っ込むオナマス・ケイロニウス。ふさしぶりの感触にすぐにやばくなって「やべ、寝ているのに口の中に出しちゃう」とあわてて引き抜き、その後、相棒の手で一発目を終了。賢者タイムが訪れて「危うくお前を汚すところだった」と自制したような顔で云い出す。いや、全然欲望抑えてないからね?完全にソフト・オン・デマンドの企画モノのノリだからね?(黒曜宮はマジックミラー号だった?)


 その後、またぶつぶつ気持ち悪い独り言を云っているうちに高まってしまい、尻に顔をうずめ、ゲート・オブ・バビロンに指を突っ込みながらギンギンになったブツにオナニーマスターの力を見せつけて二発目もフィニッシュ。ふたたび賢者タイムがきたので「まあ、入れてはいないからセーフだな」と判定し、ゲート・オブ・バビロンから引き抜いた指をペロペロしながら「お前の味がするぞ」とつぶやきながら、「風々丘の夜は、あやしく淫靡に、しかし奇妙に清らかにふけていった――」(原文ママ)

 ……清らか? 入れてなければすべてOKのようである。しかし「お前の味」は苦そうだ。


 そして翌朝、目覚めたロベルトに「実は毒ではなくて眠り薬でしたー!いろいろ悪戯したからたまらなくなった!俺の女になりな!」とセクハラ・ケイロニウスが全開で迫り「最高権力者に迫られた上に、なぜか同僚みんなが結婚式の「てんとう虫のサンバ」的なノリで俺がハメられるの待ってるし、断れるわけないじゃん(あ、はい)」というわけで、二人は幸せなキスをしてレッツプレイツー!――というところで空気の読めないじいさんが朝早く仕事をもちこんできてぎゃふん。今度はゆっくり調教してやるからな宣言をして終わるのでありました。

 今作についている『風が丘恋唄1』というナンバリングと『通信教育講座』シリーズの展開を見るに、この後、入れそうで入れない展開が続く予定だったものと思われるが、結局続きは出ていない。書かれていたかどうかは不明である。


 あとがきでは薫が「同人誌なんだからヤオイの嫌いな人が読んで文句を云わないで」とか「最近のBLはただのハーレクインロマンスで男同士の必然がない」とか「このシリーズや『マルガ・サーガ』に一部から反発があるからやっぱりヤオイは少数派なのだ」と言い訳をし、マイノリティ万歳!という小説道場最終巻のようなよくわからん宣言をして締めております。


 いやあ、あの、まあ、ホモ全部ダメっていう人もそりゃあいるだろうけど、薫の場合は、単純に昔の作品よりクオリティが下がっているからね……そして攻め様がキモすぎて客層が狭すぎるからね……。ぼくはキモい人は好きだし、だから初期のキモい人を描いた短編とかアリストートスとか好きなんだけど、あれらはキモさゆえに破滅してたからね……この時期の薫のホモ小説はキモい攻めがなぜか賞賛されるからね……そこは大きな違いだよね……。

 男同士のハーレクイン、というのも、薫そのものだしね……このお話にしてからがまず男同士の必然なんてほとんど感じないセクハラ社長の睡眠姦だしね……完全に男女で成立するよね……。


 そしてまあ、薫もあとがきで書いていたけど、やっぱり本篇の設定をおかしくさせてしまうホモ番外篇はねえ……。お遊びでなかったことにして過ごせるならいいけど、たいてい本篇に悪影響及ぼすんだもの……。後期のグイン・サーガのさすがにそれはいかがなものかという展開に、ケイロニア皇家の血を守ってきていたアキレウスが、グインと愛妾ヴァルーサの子というケイロニア家の血を一滴も継がない子を跡継ぎにしたがるとかあったけど、あれやっぱりオナマスさんがホモ堕ちしたから自分の血を残すとかどうでもよくなったんですよね……。

 いや、しかしグインも驚いたろうね……。今作の執筆時期は九八年一月と巻末に記されている。これは外伝12~13の間で、つまりグインがシルヴィアを助けに旅に出ている真っ最中である。愚かな娘を頼むと見送った皇帝が、帰ってきたらホモ堕ちして血筋とかどうでもよくなってんだもんなあ。厳しい。厳しいですぞ。


 同人誌だし、作品としての出来はあまりとやかく云いたくないが、『マルガ・サーガ』も『通信教育講座』もこれも本篇おかしくしなければなあ、作者の趣味だからしょうがないって思えたんだけどなあ。

 まあ、ぐだぐだとあらすじ垂れ流してしまいましたけど、冒頭に書いた通り、感想自体は「オナマスさんキモ~い」の一言で終わりです。 薫の趣味がなあ、もっと需要のありそうなプレイだったらなあ……。まあでも入れない入れない云いながらチンコに負けてる感じは、非モテ男のリアリティがあったような……?

 いずれにせよ、いまさらこの作品に関してぶつぶつ云ってても本当にどうしようもないですよね……。

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