288 顔

00.08/ハルキ・ホラー文庫


【評】う


●この作品自体がのっぺらぼう


 なんかー、大学の教授がー、ふと気づいたら相手の顔がのっぺら坊だって気づいてひょえ~ってなってー、あとはその繰りかえしーみたいな~?


 ごめんなさい、もうこの内容がない本の感想を書くこと自体が苦難というか不可能に近いです。とにかく相手が「のっぺらぼうかもしれない(ガクガクブルブル)→やっぱりそうなんだ!」の繰り返し最初から最後までずっと続いているだけで、エスカレートすることも変化球を加えることもなく、オチも特にないため、一体なんでこんなものを読んでいるのだという虚無感に襲われる。インテリのつもりで書いている主人公の語りは失笑してしまうし、なんかもう、どうしようもないと思います。のっぺらぼうのっぺらぼうって、この作品の中身が一番のっぺらぼうですよ!


 特定のシチュエーションにおいてどんどん追い詰められていく人間の心理をじっくり書きたい、というのはわかる、というか『家』『町』とも同じだし、この後もホラー作品はそんなワンアイデアものばかりである。そうした作品自体を否定する気はない(なにせモダンホラーの大家であるスティーブン・キングもそんなワンアイデアやシチュエーションをひたすら書いた作品が多い)が、こうしたものは様々なディティールを積み重ねてこそ読者が共感し、恐怖を喚起できるというものだ。

 対して栗本薫はディティールに困ると中身のない内面語りと内容の薄い会話で埋めようとする癖があり、ホラー作品にはその悪い部分が顕著に出ている。中でもこの時期の作品はハッキリとページ稼ぎだらけの無内容さであり、ハッキリ云って読む必要をまるで感じない駄作である。アンソロジーに発表した『バックシート』のように短編におさめておけば良作になったかもしれない。


 ところでこの作品、長いこと『家』『町』に続く角川ホラー文庫の作品だと思っていたら、よく見るとハルキ・ホラー文庫の作品であった。春樹社長、古巣をそんなに露骨にパクらないでも……そりゃたしかにこの時期、Jホラーブームきてたけどさ……。

 この偽装っぷりこそがのっぺらぼうであり、真の恐怖であるのかもしれない。

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