247 真・天狼星 ゾディアック2

1998.02/講談社

2001.03/講談社文庫

<電子書籍> 有

【評】 うな(゚◎゚)


● いよいよ動き出す物語


 失踪していた竜崎晶のガールフレンドが、トーキョー・ヴァンパイアの新たな被害者として発見される。大介は事件の被害者の中で異彩を放つ、中年サラリーマン男性の調査に乗り出し、カラオケ狂いだった彼の行きつけのカラオケで、ZODIACという無名のバンドの存在を知り、その怪しげな楽曲を聞くが――




 再読して、ちょっと戸惑っている。

 面白いのだ。

 前巻はいままでのおさらい的な部分が強かったが、今巻では『新・天狼星』と同じ時間軸で、大介側ではなにが起こっていたのかを描いており、話がちゃんと進んでいる。


 最初の章では、若い子だらけの被害者の中で唯一の例外である中年男性サラリーマンの調査に乗り出す大介。

 そのサラリーマンの家族が語る、カラオケ狂いの様子が悲しい。いたって平凡で善良で、ただちょっとカラオケが好き過ぎるところがはた迷惑なおっさんの姿が浮かび上がり、切なくなるのだ。決してただの良い人ではなく、ことカラオケに関してはかなり自己中心的で迷惑がられているところが、一人の人間の生をリアルに伝えてくる。


 次の章は、そのサラリーマンが行きつけにしていたカラオケボックスの調査がメイン。そのカラオケボックスが、願いが叶うというゾディアック・カードの取引をしている場所でもあり、謎のバンドZODIACの曲が入っているというのも面白い。他のカラオケボックスには存在しない曲があり、かけてみるとお経のような怪しげな音楽が流れるというのは、九十年代末、人々がカラオケに熱狂していた時代を思い出すとともに、あの閉ざされた空間のもつ奇妙ないかがわしさも感じさせてくれる。なにも知らないのにわかった風で会話して情報を引き出す大介も食えない男であり、しっかりと探偵している。


 次の章では「願いを叶える」というゾディアック・カードの詳細が語られる。

 願いは叶うが、「猿の手」のように望まぬ嫌な形で叶うという噂と、人に知られると効力がなくなるという噂のせいで表立って話されず、集めている者同士がひそやかに話すばかりという妖しさには、やはりあの時代の空気が感じられる。

 また大量のカードを使って魔法陣を組むシステムが詳しく語られるのだが、着目すべきは「低レアリティのカードは無料で配られるが高レアリティのカードは滅多に手に入らないので高額で取引されている」という部分。無料だからと半信半疑ではじめた人間が、「ここまで集めたのだから」と高額の数枚を必死で探し求めるさまは、2017年現在に跋扈しているソーシャルゲーム・スマホアプリゲームのガチャシステムを思わせる。

 無論、その原型は当時から存在していたトレーディングカードゲームにあり、今作のシステムもそれをモデルとしたものだろうが、現在にも通じる人の心の弱さを鋭くえぐり、「猿の手」方式の願望実現と、それを知ってなおも集めている人々の姿と相まって、不気味で肌感覚の欠けた、現代的な恐怖をじわじわと描くことに成功している。


 そうして事件の謎がいよいよ深まってきたところで入る、殺人鬼・利根一太郎脱走の報。シリウスは生きているのか、利根を逃したのはシリウスなのか。ヴァンパイア事件はシリウスの仕業なのか、それとも別の新たな殺人鬼なのか。ゾディアック・カードと事件の関連性は。大介が言葉の端々で匂わせるのは、晶が第二のシリウスとなることへの危惧なのか――。

 乱歩・正史的な昭和前期的猟奇殺人の世界と、世紀末現代的な新たなシリアルキラーの事件。二つの空気が絡み合い、怪しげで新しい物語が語られようとしている予感に満ちている。 

 無論、この時代の栗本薫のことであるから、同じようなことが重複する文章が散見されるし、展開も遅い。だが、全六巻と公言されていたこともあり、その事に対する苛立ちはあまりない。それ以上に、現代に則した新しい物語が語られようとしている興奮がある。

『天狼星Ⅲ』で一つの完結を見、『仮面舞踏会』でリブートされた新たな伊集院大介の事件簿に相応しい大作と云えよう。

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