239 グイン・サーガ外伝11 フェラーラの魔女

1997.11/ハヤカワ文庫

<電子書籍> 有


【評】うな(゚◎゚)


● 残念系美女と行く魔都の旅(なろう系かな?)


 ゾルーディアを脱出し、一路ホータンへと向かうグイン一行は、駆け落ちする妖魔と少女に出会う。二人から人と妖魔が混ざって暮らす都と、そこに祀られる土地神アウラ・シャーの話を聞いたグインは、魔女王リリト・デアに会うために魔都フェラーラへと向かう――


 この『黄昏の国の戦士』シリーズ、初読時は『幽霊島の戦士』以外の五冊をまとめて一気に読んでしまったため、五冊すべてが一緒くたになっており、この巻でなにをしていたのか、正直ほとんど覚えていなかった。しかし改めて読むと、これが意外なほどに面白い。

 冒頭で本篇のラスボス候補である竜王ヤンダル・ゾック(の声だけ)があらわれて初めて会話するという盛り上がるイベントからはじまるので、はじめからクライマックス。「ラスボス候補なのに意外と気さくだなこの人。面倒見よさそう」という印象をあたえるのは、すでにまかすこのたこ様で通ってきた道である。どんな大物敵キャラも出番が増えるごとにおしゃべりで親切な説明おじさんになってしまうのは、栗本薫がファザコンであるのと関係あるのかないのか。

 また、シルヴィアをさらった淫魔ユリウスも姿をあらわし、それに対してほかのキャラへ対するものとは違い、かなり感情をあらわにするグインの人間味も面白い。寝取られ厳しいからね、仕方ないね。


 そして訪れる魔都フェラーラの、様々な姿をした妖魔が闊歩して生活している描写も良い。東方キタイは明確に中国をモチーフとした国だが、その辺縁にあるフェラーラもまた中華文明を感じさせつつ、人々が自由に往来し、奇妙な建物が立ち並び、そして人の顔をした馬が行き交うこの魔都の描写は面白い。中期以降の栗本薫の描写には「いや、もういいから先に話進めてどうぞ」と云いたくなることの多い自分であるが、フェラーラの描写はページ数的に物足りなかったくらいだ。この一冊で駆け抜け、その後の出番がないのが惜しい土地である。

 惜しいといえば、フェラーラを治める魔女王リリト・デアも惜しい。六本の腕と膨らんだ腹をもつ人間蜘蛛のようなこの女王は、高慢でわがままで為政者の奸智もあり、なかなかに面白いキャラだ。まあストーリーの都合で説明ばかりしてくれる親切おばさんであることには変わりないのだが、このデカ乳首女王様をどうやってグインが籠絡していくのか、もう少し見ていたいところであったものの、この時点でページ数が残り半分を切っているせいか、説明が終わるなり「今回のボスモンスターが出てきて街がピンチだよ助けてグインえも~ん」といういつもの展開になってしまう。


 そして今回のボスモンスター、人蛇アーナーダの登場。口絵イラストにもなっているが、グインの身体よりも巨大な顔のついた、全身に繊毛の生えた真っ白なミミズ、という『ダークソウル』感の出まくった気持ち悪さであり、とても良い。この化け物をどう倒すのかと思いきや……という展開もなかなか意表を衝いてくる。展開に関しては、単発エピソードである外伝と続きものである本篇の面白みが、うまい具合に融合している。

 そして暁の女神アウラ・シャーとの会話で明かされる、グインの出自の秘密の一端――というところで次巻に続く。


 この『黄昏の国の戦士』シリーズはたしか当初の予定では全三巻であった。しかし前巻の『幽霊島の戦士』もそうだが、本篇のつもりでもあるのでいつもの悠然とした筆で会話などを書いてしまってい、気がついたら尺が足りなくなって、後半は慌ててイベントが起きている感がある。後の伊集院大介シリーズで、だらたらと日常生活を描写しいるうちに紙幅が尽きて終盤で事件が起き一瞬で解決するという事態がよく発生していたが、それと同じである。

 結局、次巻からのホータン編が大幅に長引いて四冊になっているので、そのうちの一冊分をこのフェラーラ編にくれてもよかったんじゃないか、という気がする。ていうかホータン編が長すぎてダレるのである。


 そんな感じで、意外なほどに中身の詰まっている巻である。

 前巻のラストから大鴉のザザが表紙のビキニ美女に変身して豹頭王様好き好き光線を出して「なろう系かな?」という気持ちにさせつつ、全然色気がないドロンジョ様のような残念さに、やはり「なろう系かな?」という気分になるのも楽しい。隣にいる狼王ウーラは冒頭から馬に変身しており、ほかにもいろいろ変身できるよということで、まさに「狼王(狼とは云っていない)」である。きみ、絶対に砂の嵐に隠されたバベルの塔に住んでいる三つのしもべだよね?

 多少読み心地が軽い感じはあるものの、まだ十分に面白いころのグイン・サーガでした。

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