237 (改稿する?)新版・小説道場 4
1997.10/光風社出版
2016.12/ボイジャー・プレス
【評】うな∈(゚◎゚)∋
● 小説道場は永遠に不滅です……!
小説道場、ついに最終巻。
この巻の道場主は、はじめからテンションが低めだ。
いつものように添削をこなしてはいるが、いい作品が送られてきたときの反応も薄く、云ってみれば、道場主が一読者としての楽しみをまったく捨てた状態で批評してしまっているのだ。
小説道場の優れた点は、指導でありながら、なによりも道場主自体が最初の読者であるという点だった。つまらない作品には「ここをよくすれば」とアドバイスし、心根の良くない小説には眉をひそめ、素晴らしい作品にはまず嬌声をあげていた。あくまでもJUNE作品が好きで好きでたまらない、一読者代表としての道場主でもあったのだ。
それが、この巻ではまず門番(編集者)と自分の作品評のちがいに悩み、読者の受けと自分の評の違いに悩み、自分好みでない方向へ邁進する高弟たちに悩んでいる。一人の読者として投稿作品を楽しんでいる姿は、まったくといっていいほど見受けられない。
そして弱音を吐きはじめ、ついには道場をたたむことを決意する。
不思議なものというか、ある意味梓らしいというか、たたむことを決意した瞬間に、道場は別の輝きを見せだした。
気がつけば10年にも及んでいた連載を閉じると決めた瞬間に、梓は寂寞と悲壮感をたたえた、云ってみれば悲劇のヒロイン的雰囲気を道場に溢れださせた。去りゆく老兵としての梓の遠吠えは、実に昔年の輝きを取りもどしていた。梓に足りなかったのは、結局こういったロールプレイであったのかもしれない。
中島梓・栗本薫というのは結局、文章界の清水ミチコのようなものだ。どれだけ達者でも、与えられる役割、物真似する対象がなくては輝くことが出来ない。最終回前後、己の役割を定め、酔いしれた梓の文章には、たしかに昔年の輝きが戻っていた。
そして道場をやめてより二年、この最終巻を出版するにあたって足りない枚数を補うために書かれた書下ろし『新・やおいゲリラ宣言』。
これはもう、笑うしかないものになっている。
道場をやめてより二年の感慨と、その間にいよいよ発展をとげた(ホモだけにハッテン)やおい・BL市場の分析と、そこにある己の嗜好との差異を語っているのだが、この結論が実にすごいというか、ひどい(笑)
梓にとってヤオイとは子供と大人の権力闘争、パワーゲームであり、であるからにはSM強姦でなくてはならぬ、というのがその結論だ。このよくわからない思考回路をじっくりと知りたい方は、もう本書を読めとしかいいようがない。初読のときはけっこう真に受けて考えてしまっていたが、なに、なんてことはない、要するに梓はエロの嗜好が非常におっさん的であったというだけなのだ。
薫のエロにもっとも近いものをあげるのなら、それはんといってもクリムゾンだろう。
クリムゾンというのを知らない人のために説明すると、男性向けアダルト同人の雄で、とにかくミーハーで書くのが速い。DQ・FF・ジャンプ漫画をベースに多彩なジャンルを手がけ、ジャンプ漫画で人気の新キャラが出たら、その翌月にはもうそのキャラのエロ同人を出版しているくらいに、とにかく書くのが速い。
そ してその内容はというと、ほぼ同じストーリーほぼ同じコマ割ほぼ同じ構図で、ただキャラが違うだけというものだ。ちなみにそのストーリーというのは「敵に捕まる→拷問レイプされる→悔しい……→でも感じちゃう……→ビクンビクン」実にこれだけで構成されている。
そのワンパターン具合から男性向け同人ではクリムゾン(笑)という空気が漂っているが、しかし最大手の一つでありつづけているのは事実だ。ちなみに作者は女性らしい。
薫のエロスの目覚めとして何度も語られているので、横山光輝の『伊賀の影丸』で、少年忍者が敵に捕まって拷問されるシーンというのがある。必死に耐える少年の健気さもさることながら、助けにきた兄貴分たちが「いま飛び出しては奴らの思う壺だ。耐えるんだ」と震えているシーンが最高にエロイらしい。
いまとなってはもうクリムゾンにしか見えない。
じゃあなんでクリムゾンは受けて薫のSMゴーカンは受けないのかというと……さあなぜなんでしょうねw文章の劣化のせいというのはもちろんあるが、しかしクリムゾンは男性向けで薫は女性向ヤオイという、そこがいけないのかもしれない。
じゃあ薫の男女エロがエロいのかというと、そんなこともまったくない。
なんでかということをしばし考えてしまったが、なんのことはない、薫の書く女性キャラは絶対に拷問になんか耐えない。エロ拷問を受けたら二秒でセックスの虜になってしまう。耐える姿が最高に萌えると思っている当人が、女にはまったく耐えさせないのだ。それじゃあエロイはずもないし、需要があるはずも無い。
なにやら話がずいぶんずれてしまった。
ともあれ、この『新・やおいゲリラ宣言』を見てわかることは、梓が道場をやめてからの二年で、ずいぶんと文章的にもおかしくなってしまったということだ。。一文は無駄に長くなり、ひらがなの配分はバランスを欠き、読んでいるものといえばBL漫画とジャンプだけ。それまでにも見え隠れしていたダメな部分が、この二年でずいぶんと悪化したのがはっきりと察せられる。切ない。
しかしそう云った切なさも含めて、実に小説道場の最終巻にふさわしい内容ではあった。
小説指導本としてはもはやなんの役にも立たないが、薫を知るデータベースとしては外すことの出来ない一品。
それにしても、おれは94年の夏から薫にはまり、そこから一年は薫狂いと云ってもいいほど信奉し、道場に投稿することを夢見ていたものだったが、その頃にはすでに道場が終わってしまっていたとは、考えてもみれば面白い話だ。
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