149 魔界水滸伝外伝 白銀の神話 信長の巻

1991.10/カドカワノベルス

1994.07/角川文庫

<電子書籍> 無

【評】 うな(゚◎゚)


● シチュパロ同人だこれ……


 退屈を紛らすため戦国時代へと赴いた北斗多一郎。そこで彼が目にしたのはクトゥルーの化け物に乗っ取られている織田信長や戦国大名の姿だった。多一郎は歴史を守るため、信長になりすまし彼の一生をまっとうする暗闘をはじめる――


 好きなアニメや漫画のキャラクターをキャステチィングして「学園もの」とか「時代もの」とかありがち設定をやるシチュエーションパロディ同人だこれ……。自分の作品でパロ同人を作ってしかも公式で発売するって強すぎだろ……。それも完全にパラレル設定のお遊びならまだしも本編とつながっていることになってるし……どうすればいいんだ……。

 本編の元ネタが『デビルマン』であるように、この外伝の元ネタは『新デビルマン』だろう。

『新デビルマン』というのは本編完結後に書かれた番外編を集めた短編集で、主人公コンビがタイムスリップして過去を改変しようとしている悪魔を退治していくシリーズだ。原作中盤あたりに挿入されるエピソードになっており、基本的に飛鳥了が不動明を見て頬を赤らめているばかりのホモ漫画である。思うに悪魔と人間の戦争が本格化する前に二人で海外旅行をしたいというサタンの意志を汲んだサイコジェニー辺りが気を利かせてタイムスリップさせたものと思われる。新デビルマン自体はそこそこおもしろいのだが(ヒットラーの話が好き)一部の単行本ではデビルマン本編の間にしれっと挿入されていることがあり、あの編集だと本編のスピード感が台無しになって大変にファックなので許してはいけない。

 ともあれデビルマンへのオマージュであるまかすこだから、そんなところもオマージュしようと思ったのか、単にシチュパロがしたくなったのか、こうして「お気に入りのホモカップルが信長と蘭丸だったら……」というホモ同人が始まってしまったのである。


 本作には基本的にツッコミどころが多すぎる。歴史考証とか気にしないでねとあとがきで書いているが、そういう意味ではなくツッコミどころが多い。まず「信長は18巻で雄介の転生の一つだったじゃん……」という設定を聞いた時点でのツッコミからはじまり、本編が開始すると、最初は安土桃山時代の頃の多一郎がふらふらと人間世界に散歩しにいってた設定のはずが、数十ページすると本編の合間にタイムスリップしてやってきたことになっている。

 おい、お前いつタイムスリップしたんだよちゃんと描写しろよ。つうかクトゥルーは時間移動して侵略してくるからヤバイって19巻くらいで云っていたのに先住者も時間移動できたのかよ。能力設定いい加減すぎたろ。

 そしてタイムスリップしてきたにしろ、本編のどこの時点からやってきたのかまったく不明である。ローゼンフェルト大統領がクトゥルーに乗っ取られていたことを知っているし、月面基地てヒットラーと会っているらしいことから14巻以降だと思われるが、ヒットラーに合った直後にクトゥルーに捕まって、そこから解放されてすぐにユゴスと合体しているため、こうしてタイムスリップをする余裕のある時期はないのだ。しかも本作冒頭は四巻で涼と初対面したときのシーンからはじまっており、完全に作者がなにも考えずに書きながらコロコロ設定を変えていることがまるわかりである。

 別に自分は整合性にはあまりこだわらないというか、面白いシーンやエピソードが思いついたのに過去に書いてしまったこととの整合性を気にして没にするよりは、矛盾してもその場の面白さをとるべきだと思っているが、栗本薫の場合、まったくストーリーに関係のないところでいらんことを書いて矛盾点を増やすため、意味がわからない。20世紀からタイムスリップしてきている設定にするにしろ、別に時期が特定できるようなことは書かず、なんなら本編開始前でも通用するように書けばいいだけなのに、なぜローゼンフェルトだヒットラーだと書く必要のないことを書いたのか。なぜ唐突に東海竜王が八岐の眷属だとか書いてしまったのか。薫の中で西海竜王竜二は一体何なのか。

 そんなわけで今作は完全に本編と独立したパラレル設定だと思った方が(精神衛生的に)良いだろう。


 が、これはこれで別物として読むと、この一巻目、実はけっこう面白い。

 あとがきで歴オタのツッコミにおびえて予防線をはっているが、青年期の信長の奇矯な行動をクトゥルーの化け物に乗っ取られていることにしたり、平手政秀の自刃の場に多一郎があらわれて信長の名誉を守ることを約束したり、斎藤道三がクトゥルー側で濃姫がその血を継いでいる自覚のないクトゥルー勢力であったり、秀吉が猿の妖怪を多一郎の力で人間にしてやったものだったりと、トンデモ伝奇解釈がなかなか楽しくなっている。特に明智光秀がインスマウス人を人間にしてやったもの、という設定は金柑頭や本能寺の設定をまかすこ的に活かした最高のお遊びである。

 一巻中盤で桶狭間、後半で比叡山焼き討ちとストーリーも(栗本薫にしては)サクサク進むし、文章もまかすこ後半よりもずっと良い。特に若いころの栗本薫は場面転換の際、ふっとカメラを移動させて月や花などの自然物を一行でさっと描写し、それでもって不穏な空気を暗喩する癖があったのだが、今作ではなかなかそれが冴えている。なぜこの癖はなくなってしまったのか。

 中でも天守閣に化物どもを集めて、濃姫とのハードセックスを見せつけながら屈服させるシーンは、大変ケレン味があって素晴らしい。秀吉をはじめとした化け物部下との交流はこの外伝シリーズで一番良いところである。本編では涼となんか気持ち悪いプレイをしていた多一郎さんも、女相手だとちょいワルセックスをしていて魅力的だ。


 そもそも『戦国自衛隊』辺りに端を発し、現在でも俺TUEEEE系作品の典型として存在しつづける「現代の知識や技術を持ったまま過去に行って大活躍する」という設定は、安易ではあるが娯楽として抗し難い爽快感があり、「セルフパロかよ」と思いつつも無敵の多一郎さんが無双する本作の魅力は否定しきれないのだ。

 もっとも、この楽しさも蘭丸がまだ出てきていないからなのだが……。

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