105 小説道場 Ⅱ

1986.12/新書館

<電子書籍> 無

【評】うなぎ∈(゚◎゚)∋


●最盛期の道場を収録した名著


 いわゆる旧版の小説道場の二巻目。Ⅰ同様、ここでは収録されている門弟作品についてのみ記す。

『闇の塔』 内村梨津子


 門弟作品の中でも、かなりの個性を感じる一品ではある。

 美少年が化け物のようなチンピラにさらわれ、ガッツンガっツンにやられまくり、それを助けにきた恋人がチンピラ軍団と血まみれの死闘をするという、少女漫画がベースの作品が多かった当時のJUNE界において、あからさまに永井豪の学園バイオレンス漫画の世界をやっているからだ。

 そういう意味で、永井豪ファンの自分としては、この作品は嫌いではない。リアリティなどまるでないが、やたらめったらドラマチックで大げさで血みどろで、飽きさせる間もなく読み終わらせるB級ホラーのようなパワーがある。

 しかし道場主が「小説に不自由な人」と評したとおりじつに文章がド下手で、説明はわかりづらく変なところが直接話法で、台詞回しもおかしく、これほど力を入れて書いているのに残念な文章もそうはあるまいというくらいに残念な文章だ。このあたりが最終的に二級で終わってしまった彼女の限界といったところだろうか。

 しかし致命的な文章力の欠如よりは、せっかくのエログロなイマジネーションがいまいち独創性に欠けていることの方が物足りなく感じる。永井豪の路線でいくのならそれでもいいが、永井豪のすごいところは既存の価値観や漫画の枠を壊しまくったそのやぶれかぶれな破壊性であったので、設定なりシチュエーションなりにそういったオリジナリティを出せていたら、初段クラスなどよりずっと力のある作品が書けていたのではないだろうか?



『テイクラブ』 野村史子


 道場主に激賞され、なみいる門弟たちをごぼう抜きして一気に初段を獲得した本作には、野村史子のすべては詰まっている。

 学生運動に没頭し、その果てに恋人と妹と友人とにとりかえしのつかぬ傷を負わせ、すべてを投げ捨てて逃げるようにエクアドルへと渡った主人公の山崎が、十五年の時を経てふたたび祖国の土を踏み恋人の足跡を訪ね歩く本作は、若さゆえの悲劇、勇み足、愚かさ、純情、性愛、そういったゆきばのない情熱を正面から描いた力作だ。

 学生運動にだれよりも純粋な山崎、男と寝ることとピアノしか知らないバカな春樹、兄への道ならぬ恋に身を焦がす山崎の妹・礼子、バンドとしての成功を夢見る「ベル」のメンバーたち。だれもがみな情熱に衝き動かされ、常に必死で、愛に翻弄され、そしてどうしてか悲劇的な方向へとつきすすんでしまう。

 強い山崎には恋人となった春樹の弱さが理解できず、己の孤独に震える春樹には音楽でプロになりたいメンバーたちの情熱は理解できず、妹の秘めた熱情は決して兄には届かず、すべてが悲劇の引き金となってしまう人の世の、そして愛のままならなさ。結局、二人を引き裂いたのは「若さ」という曖昧なものでしかなかった。

 そして長いときを経て再会した二人は、それでもなお別離していくが、しかしその姿は決して悲劇的ではない。

「愛は、長持ちしないんだ、きっと。作るはしから壊れてしまう。だから、作り続けなきゃいけないんだ」


 そうつぶやいて必死にセックスをしていた春樹が、待つ強さ、追いかける強さを手に入れて、本作は終わる。それは決して幸福とは呼べないが、救済の光景だ。

 あまりにも展開がはやくあまりにも説明は直接的に過ぎ、時間軸がむやみに交錯して読みづらい本作は、文章こそ整っているものの、あまり技量的に優れた作品であるとは思えない。学園闘争などの扱っているテーマの重さから読みにくいともされがちな本作だが、じつのところの読みづらさのほとんどは小説技術的な問題で解決できるものだろう。

 だが、そんな技術の研鑚を、作者自身が望んでいる様子はなかった。彼女はただ自分の情熱を叩きつけるように、失われていく若さを駆け抜けるように、ただ書いた。

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