083 元禄無頼 上之巻
1985.09/光風社出版
1993.12/角川ルビー文庫
<電子書籍> 無
【評】うな
● 手癖爆発ホモ時代劇
元禄時代――それは太平の世が続き、江戸の文化華やかなりし時代。
たつきを失い意気をもてあます美貌の不良旗本・九鬼源三郎は、ひょんなことから謎の武士に襲われる寺小姓の進ノ丞を助け、それをきっかけに柳沢吉保を中心とした陰謀にまきこまれていくのであった――
昔読んだきり「みんなして愛だのなんだのわめいたあげく、みんな死ぬ話」程度にしか覚えていなかったが、読み直してみると実際そんな話だった。いやしかし、これ、頭から尻尾まで栗本薫だな。実に栗本薫だよ。
まず第一章。
うまい。
ひたすらにうまい。
単純によみやすく、しかし元禄のにおいを感じさせる文章もさることながら、十名にも及ぶメインキャラたちをわずか五〇ページに全員登場させ、しかも全員のキャラ立ちがわかるようになっている。
屈折した美貌の青年・九鬼源三郎。その親友にして源三郎に惚れている左馬ノ介。怪力巨体・豪放磊落な好漢の主膳。静かなインテリ武士・久ノ助。武芸一筋の堅物・兵馬。野望を抱く悪童役者・吉弥。吉弥に憧れる頭足らずの少年・進ノ丞。歪んだ性癖で源三郎に執着する義兄・伊織。その良人のために心を閉ざした姉・水江。愚かさゆえに生き生きと躍動する少女・お藤。生粋のサディストである悪役・長門。
これらが全員、少ない文量にもかかわらず見事に書き分けられているのだ。うまい。うまいとしかいいようがない。キャラ配置自体も、ありきたりではあるが絶妙であるし、みな自らの生を生きているのが感じられる。
そしてこの絶妙なキャラ配置が、物語が進むにつれて、作者の手癖へと変貌していくのか、実にまた栗本薫である。
どんどんと美青年補正がかかっていく源三郎。それにつられてどんどんと源三郎をマンセーしていく周囲の人物。物語の都合で小物になった挙句、外見も醜くなっていく吉弥。ただのアホの子になる進ノ丞。想いを秘めていたはずなのにカミングアウトしまくりの左馬ノ介。物語の中核であるのに、説得力がまったくない源三郎と進ノ丞の恋。脇筋なのに説得力のある水江と兵馬の恋。わりと簡単に肉欲に目覚めて溺れる水江や進ノ丞。いつの間にか「おまえなしでは生きていけぬ」になっている長門。
もうどこから突っ込めばいいのかいまいちわからないが、いちいちが栗本薫である。
面白いな、と思ったのは、主人公である源三郎と義兄・姉の関係だ。
源三郎に惚れた義兄は、姉と偽装結婚をして源三郎を力づくでてごめにしてもてあそび、姉はそれを表ざたに出来ず、心が壊れていくという、「うほっ、残酷な神が支配する」という感じだった。
まあ『残酷な~』自体、JUNEでありがちな設定をとことんリアルに描く、というようなコンセプトだったような気もするんだが、今作と『残酷な~』を比べると、栗本薫と萩尾望都の作家としてのちがいを見ることができる。そしてなんで栗本先生が劣化して、萩尾先生が全然劣化しないのか、しみじみと実感できる。
萩尾望都……犯した義父を憎み、ついには殺してしまう。
栗本薫……犯した義兄とのSMにハマりすぎて怖くなって逃げる。
本当にもういちいち「お前の味がする」という感じで、とりあえずセックスしてしまえばそれにハマってほかはどうでもよくなるに違いないという、中学生のようなセックスへの重度な幻想がたまらない。
そういう手癖とセックスファンタジーはさておき、ちょっと栗本薫し過ぎているけど、面白かったな、これは。
途中、登場キャラがみんな木原敏江の『摩利と新吾』に出てきた人たちのコスプレにしか見えなくなったり、お藤が「生命を粗末にする奴なんて大ッ嫌いだ!」とか本当に脈絡もなく云いだしてゲド戦記ふいたりもしたし、「お前まで死ぬことないだろ」というキャラがバタバタと死ぬくだりは、「殺せばもりあがんだろ」って感じで正直どうかと思ったが、全体的には王道と意表をつく展開がいい具合にミックスされていたし、普通に面白かった。ラストの締めはも、手垢のつきまくったベタベタな手法ではあるが、歴史の流れを感じて良い。
でもホモが多すぎた。
ホモが多すぎたんだ……
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