虹が消えた日

雨想 奏

【Episode:00】 閉ざされた部屋で

待ち受ける絶望

 低い天井に埋め込まれた間接照明の頼りない灯りだけが点る薄暗い一室に、高辻藍たかつじあいはいた。

 まるで、牢獄のような部屋。

 冷たいコンクリート剥き出しの壁が、四方を囲んでいる。

 ワンルーム程の広さの中、家具と言えば、自分が座る椅子と、その前に置かれたデスクだけ。どちらも古めかしい木製。そのデスクの上には、一台のノートパソコンが置かれている。

 他、調度品類は一切なく、デスクの上に一つだけある小ぶりな嵌め殺し窓は、外から何かで塞がれているのか、ガラス越しに、灰色に塗られた金属板のようなものが覗いているだけ。

 扉は二枚。

 一枚は、入って左手の壁の奥まったところに設けられており、中は手洗い場のない簡易的なトイレになっていた。

 それとはもう一枚。背後にある重厚な鉄製の扉が、この一室を、厚く閉ざしている。その鍵は、外から施錠されていて、決して中からは開けられない。

 否応にも植え付けられる、例えようのない、息苦しさ、不安や閉塞感――。

 それらの感情に苛まれながら、藍は、机上に置かれたノートパソコンのディスプレイを見やった。

 ディスプレイは、真っ暗だ。

 おそらくはこの後、そこに友人達の――望まぬ形での再会を遂げた皆の姿が映し出されるんだろう。

 耐え難い不安と恐怖を抱えながらの、十二時間という制限時間が課せられた、〈犯人捜し〉のために。

 犯人を突き止められなかった場合に待つのは、全員の死。


 なんで、こんなことになったんだろう……。


 その狂気を孕んだ〈犯人捜し〉が始められるまでのしばらくの猶予を、藍は、その牢獄のような一室に閉じこめられるまでの数時間を思い起こし、この危機的状況を打開する策を講じるための手がかりとなる情報はないかと、思案を巡らせながらすごした。


 待ち受ける絶望を、なんとか避けようと――。

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