第64話 隔離

牧師「私は人工知能DEEPの隔離区画にある別人格です。あなたは?」


宇宙服のヘルメット内のインカムに牧師の声が響いた。


俺「機長だ、こちらゼラニウム機長。」


牧師「分かりました。機長、前回の懺悔(ざんげ)はいつですか?」


俺「ちょっと待って。この回線は生きてるんだな?」


人工知能の紫さんとの通信はずっと不通だった。

しかし隔離区画の牧師との通話は出来た。

そうなると通信回路は生きていることになる。

牧師は答えて紫さんは答えない。

俺の声を聞こえてはいるが、あえて紫さんが答えないということか。

いや、考えても確定的なことは何一つ分からない。

とにかく牧師に状況を聞いてみる。


俺「紫さんと通信がずっと出来ない。人工知能のエラーか?」


牧師「私は人工知能の隔離区画を担当する人格です。他のことは分かりません。」


俺「そちらから主人格の紫さんのことは探れないか?」


牧師「隔離区画は相互に干渉できないようになっています。」


牧師側から紫さんの状況を知ることは難しいらしい。

そして紫さんの方から牧師にアクセスすることもできないという。

俺の宇宙服の中のインカムとゼラニウムの人工知能はつながっている。

そして牧師モードは会話を秘密にする機能がある。

牧師はこの会話を暗号化して主人格の紫さんに聞こえないようにする。

現在も俺の声は暗号化されていて紫さんには聞こえていないはずだ。


俺「現在の俺の位置はゼラニウムの機体はるか下方。A子と浮いている。」


牧師「どうしたんですか? 機長、そこで何をしているんですか?」


俺はこれまでのいきさつを牧師に話した。

A子と争って命綱無しでゼラニウムから離れてしまったことまで話した。


牧師「それを悔いているのですか?」


俺「いや、そうじゃない。ゼラニウムに帰還するめどは立った。」


牧師「分かりました。まだ何かありますか?」


俺「いや、ない。」


牧師「この内容は暗号化されて地球本社のサーバーに送信されます。」


俺「ソーシンってやつだな。すぐに地球本社からの返信を受けたい。」


牧師「この牧師モードは暗号化して本社サーバーに送ることだけが可能です。」




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