第62話 タンデム

俺のバッテリーパックとテザーを指さしたA子は左手を見せた。

彼女は左手の三本の指を広げている。

この指の形に意味があるのか?

中指。

人差し指。

親指。


フレミングか!

この形は昔学んだフレミング左手の法則を意味している。

俺も同じ形に指を出して理解したと手振りで伝えた。

A子はフレミングの左手の形を現在の状況に当てはめようとしていた。


中指が電流。

人差し指が磁界、惑星Tから受ける磁力だ。

親指がローレンツ力。


これは古くなった人工衛星などを落とすテザー推進だ。

地球でも軌道上のデブリ除去に使われている。

たしかアレはデブリからテザーを下にたらしていたな。

進行方向と逆向きのローレンツ力で減速し、早くデブリを除去できる。

今はその逆だ。


テザーを上に伸ばして電流を流す。

そうすれば加速する方向へローレンツ力が発生して高度が上がる。

バッテリーもテザーもある。

このテザーには導電性もある。

A子はコレが言いたかったのか。


テザー推進で加速上昇してゼラニウムまで戻ることが出来る。

ハンドサインでOKマークを出してさっそく作業に取り掛かった。

まずバッテリーのラインをテザーボックスにつないだ。

このバッテリーは船外で電動工具などを動かすために使われている。

そのため電源ラインを付け外しするのは簡単だ。

テザーの方も通電によって切断しているかテストをするコネクターがある。

簡単だ。

そして俺は惑星Tに対して背を向けて腹から上方向へテザーを伸ばした。

100mのローカルテザーを伸ばすのに邪魔になるのでA子は俺の背後についた。

ちょうど俺が彼女をオンブする形になった。

バイクでいうところの二人乗り、タンデムだ。


8時間ほどテザーに電流を流すと高度が上昇し始めた。

これでゼラニウムに帰還できると考えた俺は浮かれていた。

しばらくしてA子はタンデムのまま両足を俺の胴体にフックした。

この体勢はハルカワが首を絞められた時と同じだと気づかなかった。



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