第49話 タイマー

翌日またA子のカメラから通信が来た。

30分ほどの交渉を終えた人工知能の紫さんが歓喜の声を上げた。


紫さん「機長、やりましたよ。またA子と通信出来ました。」


俺「A子とは毎朝30分ほど、交渉をする約束だったな。」


紫さん「はい機長。今朝も同じくらいの時刻に通信できました。」


俺「それで内容は?」


紫さん「交渉結果は昨日と同じです。でも凄い事ですよ。」


俺「何が?」


紫さん「A子は24時間ほどで再びヘッドセットの映像を送ってきたのです。」


俺「ん?」


紫さん「つまり冷凍装置を彼女自身は使っていないということです。」


俺「たしか冷凍装置には解凍用のセルフタイマーがあったよな。」


紫さん「はい。その解凍用タイマーの最短時間が48時間なんです。」


俺「A子が48時間以内に通信を再開すれば冷凍装置を使っていない証明になるな。」


紫さん「ハルカワさんが装置の外でわざわざA子を解凍する理由もありません。」


俺「決まりだな。少なくとも数日はA子は冷凍装置に入っていない。」


紫さん「その通りです機長。A子自身が装置を使っていないと言う事は?」


俺「ハルカワが冷凍されている可能性!」


紫さん「そうです。ハルカワさんは装置内で生きている可能性があります。」


もしもA子が冷凍装置に入っていると朝の通信時刻だけ起きてくる場合もある。

その場合は水と食糧が無くても彼女は長期間耐えられることになる。

一日のほとんどの時間は冷凍状態なのだから。

そしてA子が冷凍装置に入ればハルカワは定員オーバーで入れなくなる。

つまりハルカワが食糧無しで長時間過ごすことになり危険だ。

今回A子が装置に入っていない事が証明されたことはかなりの進展だ。


ただハルカワが大怪我をしている可能性は否定できない。

怪我の直後に冷凍されていれば、彼は助かるだろう。

もともと冷凍睡眠装置は戦場での負傷兵の輸送のために開発された。

戦場では手術できない深刻な負傷兵を冷凍して大病院に運ぶ装置だ。

このまま装置を地球に持ち帰れば彼は助かるかもしれない。


俺は、たまっていた点検作業を片付けた。

夕方、俺はコックピットに入り人工知能の牧師モードを起動した。


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