第37話 素人

ハルカワ「一回、戻ってる。」


A子が一度エアロック内に戻ったので映像では彼女を確認できなくなった。

しかし外部の壁にはセーフティテザー(命綱)がフックされたのが見える。

なるほど、次はエアロック内のローカルテザーを外している最中だな。

テザーは命綱なのでどちらか一本は必ず固定するのが手順だ。

A子はテザーの入った装置に書いてある手順を着実に実行している。

それが正しいやり方だ。

長いセーフティテザーと短めのローカルテザーを交互に使って移動するのだろう。

それで良い。

彼女の目的地は反対側の第一体育館のエアロックだが、そこは封鎖したから。


ハルカワが冷えた水をゴクリと飲む音が聞こえた。

俺と彼はキッチンのモニターを無言で見ている。

すでに地球とは通信タイムラグが一日以上に広がっている。

本社からの方針は受けているがこの状況では現場の判断が優先される。


俺「あ、出てきた。」


ハルカワ「出てきた。」


再びエアロック外に出てきた白い宇宙服が見えた。

A子はゆっくりとハッチに体をかぶせるようにしてエアロックを閉じている。

作業スピードは遅いが素人にしては度胸が座っている。

彼女の人生で宇宙に出るのは初めてだろう。

無重力での訓練すらやっていないのに。

美しく細身の美女が静かにハッチと格闘している。


ハルカワ「あ、やった。」


俺「やった。」


エアロックのハッチを閉じたA子が暗い宇宙空間に放り出されたのが見えた。

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