第27話 グローブ

ハルカワ「スケダチ イタス。」


船外活動中に大きいミスをした。

輸送機ゼラニウムの外部通信アンテナの取り換え作業を俺は朝からしていた。

三節混のように折れ曲がるアンテナが宇宙服に巻き付いた。

その折れ曲がるアンテナを外そうとしてセーフティーテザーが、からまる。

宇宙ではロープ状の物がクルクルとツタのようにアンテナにからみついた。

もう少し丁寧にやれば良かったと後悔したがテザーをほどくのに集中する。


テザーという命綱をほどこうと輪の中をくぐらすと、より複雑にからんだ。

さらにグローブをしているので固くからまった結び目が外せない。

(室内なら歯でグイとやるが、今はヘルメットをしている。)

人工知能の紫さんを呼び出して支援を受けようとしたがカメラ位置が悪い。

ちょうど第一と第二体育館の間のスキマなので高性能カメラが使えない。

俺の姿はギリギリ見えているらしいがロープの詳細までは無理だ。


もう1時間ほどテザーをほどこうと奮闘しているが酸素が限界だ。

すでに予備タンクに切り替えて船内帰還にはギリギリ。

ギリギリというのは、テザーが今ほどければという意味。

実際はどうしても、ほどけないために体からテザーを外そうとしている。

宇宙服側の固定フックを外せばテザーは放棄出来る。

しかし、ローカルテザー1本を命綱にしてエアロックまで移動するハメになる。

命綱は2本あるから交互に付け替えられる。

1本では命綱を付け直している間は宙ぶらりんで危険だ。

少しでも体が船体から離れればそのまま飛んで行ってしまう。

どこまでも。

とはいえ、酸素が残り少ない状況では命綱無しでも移動しなければ。

俺にもう迷っている時間は無い。


紫さん「機長、ハルカワさんがエアロックから出るようです。」


俺「ハルカワ? 聞こえてる?」


ハルカワ「スケダチ イタス。」


俺「・・・・・・カタジケナイ。」


最近の俺たち(人間ふたり)の間では時代劇の言葉遊びが流行している。

なるべく抑揚をつけずにロボットのように言うのが正しい。

相手を笑わせたい時などに使うと場がなごむ。

紫さんの説明では彼は予備の酸素とテザーを持ってきている。

輸送機の外壁沿いに、ハルカワの白い宇宙服姿が見えてきた。


ハルカワ「オヌシ ココデ ゴザッタカ。」


俺「マッテ オッタゾ。」


ハルカワが右手を差し出してきたので俺も右手を出した。

栄養ドリンクのCMのようにグローブをガッチリ握りあった。


ハルカワ「・・・ゴザッタカ。」


俺「・・ゴザッタ。」


ガッチリと握ったグローブの上からでも温かい温度を感じた。

グローブの断熱性が失われたわけでは無い。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る