次の日、アイリスたちはいつものようにクラークの前に対峙していた。

「クラーク。前から聞こうと思っていたんだが…」

ロイが切り出した。

「その趣味の悪い仮面は何だ?」

クラークは答えない。

少しだけ居づらさを感じたアイリスが口を開く。

「あの、どうして顔を隠しているんですか?」

明らかにクラークが動揺しているのが分かった。

「あ、ああ。私は町長だからね、命を狙われることもあるんだよ。だからこうやって仮面をつけておけば影武者も立てやすいだろ?」

苦し紛れに言ったことだとアイリスにも分かった。

ロイはクラークの仮面をじっと見つめている。

「なぁクラーク。もしかして君は…」

ロイが喋ろうとすると窓のほうから轟音が鳴った。

三人が窓に近づくと、ちょうど町の広場が見える。

そこには、大きな影が一つ。

「あれはこの前の巨人!?」

アイリスが急いで扉に向かうと、ロイは窓枠に手をかけ、飛び出した。

「ロイ!」

アイリスが窓の外を覗くとロイは逃げ惑う群衆に紛れてしまい、もう見えなかった。

アイリスはクラークと広場を見てから窓から飛び出す。


しばらく走って、フードを被ったロイの後姿を見つけた。

「何だ、アイリス。ついてきたのか」

ロイは前を向きながら言う。

アイリスは少し息を切らしていたが、何とかついて行った。

広場に着くと巨人が二人を見下した。

「そこのクソガキ!この前はよくもやってくれたな!」

巨人が放つ一言一言が空気をビリビリと揺らす。

ロイはフードの奥の眼を鋭くさせた。

「君はどうして僕が喋ろうとするたびに暴れるんだ?」

巨人はロイの眼光の鋭さに身を引いたがすぐに身構え、襲い掛かる。

「今ここでつぶれて死ね!」

ロイに向かって強力なパンチの雨が降り注ぐ。

アイリスはその場から動けずに、その様子を見ていた。

「はぁ…はぁ…。どうだ!」

巨人がラッシュを止めるころには広場に巨大なクレーターができていた。

しかし、そこにはロイの死体どころか、血の一滴もついていなかった。

「なに?」

巨人は首をかしげたが、アイリスのほうを向いた。

「まぁいい。次はお前だ!」

アイリスは逃げようとするが、間に合わない。

アイリスもラッシュを浴びてしまった。

「ふぅ…。これで俺を邪魔する奴はいなくなった!思う存分暴れてやるぞ…?」

巨人は自分の手を見た。

そこにあるはずの手首から先がない。

まるでもともと無かったかのように血が垂れてこない手。

「ああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

巨人はようやく自分の身に起きた異変を感じた。

「弱い者いじめはよくないな」

うずくまる巨人の前に立った人影。

巨人は脂汗をかきながら、顔を起こす。

そこにはさっき潰したはずのロイがアイリスを抱えて立っていた。

アイリスはロイから降りて巨人を見た。

「クソ…ガキがぁ…!」

巨人は何とか立ち上がろうと足に力を込めるが立てない。

巨人は恐る恐る足のほうを見る。

そこには当たり前のように無くなっている足。

「うがぁぁぁ!」

巨人ははいつくばってアイリスたちのほうへと向かってくる。

「アイリス。特別に僕の魔法を見せてあげるよ」

ロイはそういうと、巨人に歩み寄っていった。

巨人に手を当て、念じる。

ロイの手が当たっているあたりに謎の模様が浮かぶ。

「ロイ。まさか…!」

アイリスは巨人へ走るが遅かった。

「すべてを消し去れ、“イレイス”」

ロイが呪文を唱えると、巨人の体が消え去っていく。

巨人が完全に消え去るとロイはアイリスのほうを向いた。

「僕も、ノーツマスターだ」

ロイはいたずらっぽく笑った。

アイリスはその笑みがとても怖く感じた。

「僕のノーツは“不協の印”。全てを崩す魔法さ」

ロイはアイリスに歩み寄り、手を差し出した。

もしこの手を取ってしまったら私はどうなるのだろう。

アイリスはそう思ってしまいその手を取ることができなかった。

「なんだよ。別に消したりなんかしないよ」

ロイはゆっくりアイリスに近づいていく。

アイリスは恐る恐るその手を取る。

次の瞬間、ロイとアイリスは広場の上空にいた。

「驚いたろ。強化魔法で僕の脚力を大幅に上げてみたんだ。さて、庁舎に帰ろうか。クラークとの話もまだ終わってないし」

ロイはアイリスを担ぎながら屋根を伝って庁舎の窓に入っていく。

「ただいま、クラーク」

机に向かって何かしらの作業をしていたクラークは驚き、そのまま後ろに倒れる。

「びっくりしたなぁ。普通に入って来いよ」

腰をさすりながら立ち上がり、椅子を直した。

仕草は人間だがやはり仮面が気になってしまう。

アイリスは仮面を取ってやろうかと考えたが、機嫌を損ねてはだめだと思いやめておいた。

「すまない、ここがちょうど開いていたから」

ロイは反省する様子も見せずにクラークに謝る。

「ところで」

フードを外し、ロイは改まってクラークのほうを向いて、指を四本立てる。

「四つだけ質問してもいいかな、クラーク」

ロイの不思議な言葉に戸惑いつつもクラークは了承した。

「一つ目、さっき暴れていた巨人はもう倒した。なぜこの町に巨人がたった一人だけ居る?」

クラークはあごに手を当てて、答える。

「ああ、彼はこの近くの街で迫害を受けていてね、この町で引き取ったんだが人間不信は治っていなかったらしい。おかげでご覧のありさまだ」

ロイは頷き、指を一つおる。

「二つ目、クラークはどこだ?」

ロイはわざとらしくクラークの周辺を何かを探している素振りで見て回る。

クラークはロイを掴んだ。

「私はここだぞ、ロイ」

ロイはため息をついて首を振った。

「三つ目、こればかりは正直に答えてほしい」

ロイは一呼吸おいて言う。

「君は誰だ?」

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