エピソード4【シンデレラは恋をする】⑬



「近藤さん!」


俺は、彼女の肩を強く掴んだ。


「すぐに、シンデレラを飲むんだ! そして、元の若さを手に入れるんだ!」

「で、でも……」


彼女は、涙声で嗚咽混じりに口を開いた。


「そうなったら、また部長は、私のことを子供のようにしか……1人の女性として見てくれな……」

「バカなことを言うんじゃない」


俺は、彼女の言葉を静かに遮った。


「これからは……もう、何も不安になる必要はないよ」

「え……?」

「だって、今の俺はもう……」



一生、とけることのない


きみを恋する魔法にかかってしまっているから




俺は、彼女にそっと微笑んだ。

全てを包み込むように、彼女の今までの思いを受け入れるように、やさしく微笑みかけていた。

そして、5分ほど経ってから、調合を終えたマスターが、シンデレラを差し出してくれた。

相変わらず、ピンク色のとても鮮やかなカクテルだった。


「さっ、近藤さん……これを飲んで、元の姿に戻るんだ」

「はい……」


彼女は頷くと、一気にカクテルを飲み干した。

例の、喉が焼けるような痛みが彼女を襲う。

俺は激痛に耐える彼女を、ただただ、やさしく抱きしめていた。


すると、マスターが言ったように、シンデレラを飲んだ近藤恵子は、無事、元の若々しい姿に戻ることができた。

それは、俺が今までずっと見続けてきた彼女の姿。

俺が大好きな本当の彼女の姿だった。


もう、迷いはない。


俺は、自分の気持ちに正直になる。


彼女を一生守っていく。



「ありがとう……こんな俺を好きになってくれて……」

「部長……」

「本当にありがとう……」


俺は、彼女をさらに強く抱きしめた。

その瞬間、俺の目から涙が溢れ出してきた。

みっともないぐらい、いっぱいの涙を流しながら、ずっとずっと彼女を抱きしめていた。


俺はバカだからさ。

こんな時、何ていう言葉をかけてあげればいいのか分からなかったのさ。

だから、精一杯の気持ちを込めて抱きしめてあげるしかできなかったんだ。


でも、そんな俺でも、ちゃんと伝えたいことがある。

心から伝えたい言葉がある。

なぜなら、それは、恋をするための大事なスタートのようなものだから。


「近藤さん……」


俺は、彼女の黒く綺麗な髪を愛おしく撫でながら言った。


そして、ひとつの魔法をかけた──



「俺は……きみのことが好きだ」



それは、彼女を幸せにする魔法。

たった一言で、彼女の心を安心させることができる最高の魔法だった。


「俺は、きみを愛してる……ずっとずっと、愛し続けるから」

「ありがとうございます……」



ポロポロ──

ポロポロ──



「私……」



ポロポロ──



「すごく……嬉しいです」



ポロポロ──


ポロポロ──



その瞬間


泣き虫な彼女の涙が


初めて、嬉し涙に変わった



恋に年齢は関係ない。

大事なのは、恋をしたいと願う強い気持ち。

それが1番大事なんだ。


もう、魔法はとけない。

俺と彼女の間にある、互いを思う強い気持ちは、なくなることはないだろう。



シンデレラは、永遠にとけない魔法を手に入れた。


だから、俺は彼女と、もう一度、恋をする。



年をとった中年のシンデレラは、かけがえのない最高の恋をするだろう。



そう。

これから、ずっと永遠に。





シンデレラは、恋をする









【To be continued】




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る