エピソード1『ゲームと私』⑫
★ ★ ★
――1週間後。
「おまたせ」
うちは、笑顔で軽く手を振った。
うちの名前は、緑山ユカ。
今日は、彼氏とゲームセンター、パロパロランドで待ち合わせをしとった。
「ごめんね、けっこう待ったん?」
「いや、今来たとこだよ」
彼氏はにっこり微笑んで、うちを出迎えてくれた。
うちは、この笑顔がほんま大好きやねん。
男臭い肉食系のタイプやのに、時折見せるそのくったくのない笑顔。
『俺について来い』っていうようなグイグイ引っ張るタイプやのに、笑顔はめっちゃ可愛らしい。
そのギャップが、ほんま、たまらなく好きやねん。
付き合い出したんは、まあ、ごく最近のこと。
実はな、うちはずっと彼が好きやったけど、彼には付き合っとる女性がいたんや。
でも、うちはどうしても諦められんかった。
ちなみに、彼氏の名前はタクヤ。
元々、友達のリツコと付き合っとった。
でも、うちは諦められんかった。
あの笑顔を、ひとりじめしたかったんや。
すると、そんな時、うちに思いがけない幸運が舞い込んできた。
それは、3週間ほど前の話。
うちは、飲み会の帰りに、ふらっと1人でこのゲーセンに遊びにきた。
その時に『トリニティー・フィーバー』っていうメダルマシンで、ジャックポットを当ててしもうた。
ゲットしたメダル枚数は、10万986枚。
その後、店員さんに案内されるがまま特別室に行き、クレーンゲームをやることに。
そして、そのゲームでゲットしたカプセルの液晶画面には、こんな文章が映し出されとった。
《友達の恋を奪い去るあなた》
《念願だった日々を過ごせるあなた》
2つのカプセルは、こんな内容。
せやから、うちはリツコの彼氏、タクヤと付き合えることになったんや。
ずっとずっと好きやったタクヤが、うちの側におる。
信じられんけど、念願やった日々を、うちは今、ほんまに過ごしてるんや。
「なあ、ユカ」
タクヤが、うちの髪の毛を撫でながら言った。
「リツコと別れる時……おまえに言われた通りの内容であいつにメールしたけど、あれで大丈夫だったのかな?」
「うん、なんも問題ないで」
「でも、おまえと寝ちゃった時は、まだ俺はリツコと付き合ってたわけで……」
しかも、とタクヤは言った。
「そのことが、リツコにばれてるんだよな?」
「まあ、そうやね」
うちは、軽く頷いた。
許してな、タクヤ。
うちとの浮気が、リツコにばれたんは嘘やねん。
《悪い。長い間、順調に付き合ってても、浮気がばれたらもう無理だよな。ごめんな、今日限りでリツコとは終わりにする》
そのお別れメールも、リツコに勘違いしてもらうためやったんや。
自分が本命やなかったと思えば、相当ダメージも大きいやろうし、タクヤのこともすぐに忘れると思ったんや。
せやから、こんな内容のメールを、タクヤからリツコに送ってもらったんや。
タクヤは、リツコに浮気がばれたと勘違いする。
リツコは、自分が本命の彼女じゃなかったと勘違いする。
ごめんな。
全部、うちが考えた通りにうまく遂行しちゃったんや。
「まあ、ばれちゃったもんはしょうがないで」
うちは、タクヤの耳元で小さく尋ねた。
「ところで……リツコ、怒っとった?」
「いや……」
タクヤは、首を傾げながら不思議そうに言った。
「それが……あいつ、全く怒ってなかったんだ」
「へえ~、そうなんや」
あっ、そういえば、とうちは言った。
「なんか、隣に引っ越してきたハーフのイケメンといい感じらしいねん。だからちゃうかな?」
「なるほど、そういうことか」
タクヤは、フーッと大きく息を吐き出した。
「それなら良かった~。ちょっと安心したよ」
「ね? うまくいったっしょ。せやから……」
うちは、タクヤの肩にそっと寄り添った。
「これからは……うちとずっと一緒にいられるで」
「あぁ」
タクヤは、うちの肩にやさしく手を回した。
「愛してるよ、ユカ」
「うちもやで、タクヤ」
うちとタクヤは、メダルマシンの席に座ったまま、体を寄せ合っていた。
今の幸せを噛みしめながら。
まるで、メダルゲームのきらびやかな電飾が、うちらを祝福してくれとるようにさえ感じた。
ごめんね。
ほんまごめんね、リツコ。
タクヤをゲットしてもうてごめんね。
うちらは、これからも今までのように友達でいられるんかな。
普通なら、いられへんかもね。
でもね、リツコ。
うちは、変わらず親友でいられる自信があるんやで。
実はな、さっき、あの特別室で例のクレーンゲームをやってきたねん。
今回で3回目。
ゲットしたカプセルは、こんな内容やったんや。
《友達に認めてもらえるあなた》
せやから、大丈夫。
リツコは、うちとタクヤの交際を認めてくれるやんね?
あんね、リツコ。
どうやら、うちとタクヤは、ほんまにめっちゃ相性がいいみたいやねん。
だって、前回のカプセルを返却しても、タクヤとは変わらず、愛し合えてるんやで。
きっと、うちの思いが強いから、カプセルの力を借りんくても、この恋は継続してると思うんや。
うちはね
恋のゲームに勝ったんや
せやから、うちとタクヤの恋を祝福してな。
大丈夫やって。
うちとリツコは、きっとこれからも仲良くやっていけるで。
《友達に認めてもらえるあなた》
このカプセルがあるんやから。
でも、もし今回のカプセルがうまくいかんくても大丈夫。
だってな、まだ2回もクレーンゲームのチャンスがあるんやから。
きっと、これからもリツコとは仲良しでいられるで。
安心してね。
大丈夫やで。
だって
うちは
ゲームに強いから
【To be continued】
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