「ラブプラス+」

記念すべきぼくの初ギャルゲー。

ブックオフでソフトを見つけたとき、ぼくはいろいろなことを考えたものだ。なにか他の本やらソフトにでも挟んで、カモフラージュするべきか、おずおずと差し出しさっさと会計を済ませて逃げるか、そもそも買わないか。

ぼくは考えた。だけど、最初から答えなんて決まっていたのだ。


ソフトを、差し出す。

まるで六法全書(ぼくの考えうる限り最高に人に恥じることない売り物)でも差し出すかのように。

堂々と、ただラブプラスだけを。

店員は笑わなかった。ぼくも笑わなかった。

涙は流さなかったが、無言の男の『詩』があったーーーー奇妙な友情があった。



そんなこんなでぼくが買ったギャルゲー。では概要を。



とある高校の二年生である主人公は、ひょんな事から3人の女生徒と知り合う。同学年でテニス部のエース、清楚な箱入り娘の高嶺愛花。

一年生で主人公と同じ委員、少し生意気でなにやら家庭に問題がある少女、小早川凛子。

おっとりとした三年生、主人公のバイト先の先輩、姉ヶ崎寧々。


彼女たち3人の魅力的な女性とお付き合いするため、主人公は切磋琢磨するのだ。


ここで昔からのギャルゲープレイヤーは不思議に思うかもしれない。「ヒロインの数、少なくね?」、と。

一般的なギャルゲーと比べて、3人という数はあまりに少なく感じるだろう。


だが、「ラブプラス」の本領はここにある。「ラブプラス」は、恋人関係になった後が本番なのだ。彼女となった女の子と一緒に、甘い毎日を送ることができるのだ。おそらく、ギャルゲー史上初めての試みだろう。



初めてプレイしたとき、ぼくは初めてのギャルゲーに戸惑いながらプレイしていた。こんなことができるのか、こんなことまで?とおっかなびっくり。特に、「ラブプラス」特有の、名前を呼んでもらえるシステムは全ぼくの衝撃をかっさらった。

よくある電子音(パワプロみたいな)ではなく、リアルに、女の子がぼくの名前を呼んでくれるのだ。それがあまりにも自然で、ぼくのゲーム技術の進化に膝を打ったものだ。


そんなこんな、ほうけてプレイしていたからかもしれない。

ぼくは最初の100日間のうちに、彼女を作ることができなかった(ラブプラスは、100日間のうちに気になる子にアプローチし、100日目に女の子から告白を受け、それから本編という流れ)。

えっちらおっちら浮気な気持ちでダラダラしていたため、誰か一人の好感度を上げきれなかったのだ。


反省して愛花を攻略し直したぼく。愛花と甘酸っぱい青春をともにし、そして100日目。愛花の口から、ぼくへの熱い思いを聞かされた時は、大いに心を揺さぶられた。ぼくは、愛花に恋していたのだ。



そして始まる二人の新しい関係。

手を繋いだり、一緒に帰ったら、看病をしたり、キス、したり……。

思い返すだけで胸が苦しくなるほど、輝かしい青春。まさにMore than words。ぼくたちの間に、言葉なんてもはや役不足だったのだ。



それが一週間後。

ぼくはいつものように朝起き、ラブプラスを起動し、かわいい彼女に会えたことに頬を緩ませーーーー


ブツッ、と電源を落としてしまった。それ以来、ラブプラスを起動したことはない。


ぼくの心境になんの変化があったのか。

結論から言うと、なんの変化もなかった。そして、それこそがぼくがラブプラスから離れた理由だった。


愛花との時間には、なんの変化もなかったのだ。いつも通り学校に行き、キスしたり、一緒に帰ったり、デートしたり。それが、延々と続いていくのだ。

もちろん、それが楽しくない訳じゃない。それでずっと楽しめる人もいるだろう。ただ、ぼくは違った。


ぼくは物語中毒だ。物語が大好きなのだ。物語の為なら、どんなにテキストが豊富なADVゲームでも、全ボイスのADVでも楽しめる。けれど、「ラブプラス」には物語性がなかった。箱庭に囚われ、永遠に愛を囁く機械になるしかないのだ。


哀れ物語亡者のぼくは、その楽園にそっぽを向いた。永遠に愛され続けるよりも、いずれ終わることがわかっていてももっと劇的に恋をしたい。今まで散々ぼくが否定してきた刹那主義に屈した瞬間だった。



こうしてぼくは、ラブプラスから、愛花から背を向けた。こんなロクデナシに、もう愛花と顔を合わせる資格なんてないだろう。ぼくはもう2度と愛花には会わない。



それでも、最後に一つだけ。

ぼくは愛花を愛していた。ただ、永遠が怖かったのだ……楽園に背を向けた哀れな亡者を、どうか笑ってやってほしい。



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