今世紀最大の危機2

「なあ、坂下くん」




「はい、なんですか」




「外に」




「ダメです」




「どうして」




「書き終わるまで出ないと決めたのは先生でしょ?」




「でも、風呂くらい」




「ダメです」




「どうして」





「脱走されたら困るので」




「脱走なんてもうしないから」




「無意識レベルで逃亡癖があるあなたの言うことは信用できません」




「・・・」





「わかったら、書いて下さい」




ちぇっと言いながらも俺はノートパソコンに向かった。




書くことは、登場人物の人生に責任を持って伝えることだ。



その登場人物はどこで誕生し、どのような生活環境で育ち、



何がきっかけで夢を持ち、恋をし、挫折をし、



それでも真っ直ぐに前を見るのか後ろに行くのか。



全ての選択肢が俺に委ねられる。



一人の人間の人生を背負うのだ。



だからこそ、中途半端な気持ちで打ち込んではいけないと俺は思ってやってきた。



例え最後がハッピーエンドでなくとも、それでも責任を持つ。







部屋に籠って一週間が経過した。



小説の内容は自分の頭の中に既に完成していたので、



あとは打ち込むだけだったがなかなかラストが上手く表現できずに



頭を抱えていた。



本当にこれでいいのか。そう思いながら自問自答を繰り返しているのである。




坂下は「思う存分悩めばいい」と俺が逃亡だけしないように見守ってくれている。



待っている側は結構辛いと思うが、何も言わずに立っている。




「坂下くん」




「はい、なんですか」




「坂下くんには感謝している」




そう言うと、坂下は少し驚いた顔をした。




「どうしたんですか、先生」




「坂下くんは俺が書きたくない時も、書きたいと言った時も尊重してくれて見守っ


てくれていたんだなって改めて思ってさ」





「先生のコンディションの悪い時に書けと言っても書けないタイプなのは

                 長年の付き合いで分かっていますから」






相変わらずの態度だが、その顔はほのかに微笑んでいた。






「よしっ!あと一息!」




その瞬間、坂下のスマホが鳴る。




「失礼します」




そう言って坂下は電話に出る。




サギの為にもきっと小説を書き上げてみせる。



そんな思いでパソコンに向かった時であった。





「貴生川先生!サギさんが!」





「!」






坂下の慌て様に最悪な予感がした。

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最強文豪-ただの作家に興味はない- 倉敷(クラシキ) @kurasiki551

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