文豪の決意1

先生は包み隠さずサギの過去を話した。



両親は互いに十四歳の時にサギを授かった。

正に子どもが子どもを産んだ状態である。

望まない妊娠ながらもサギを出産した母に対し、父は行方をくらました。



その後、心を病んだサギの母はサギを育てることができず、

親戚がサギを引き取る。



しかし、言動や行動が年齢に似合わなかった

ことを不気味に思われたのか、サギは虐待を繰り返された。



そして、捨てられたところをたまたま先生が拾い五歳で裏社会へと足を踏み入れたそうだ。



秀でた才能や個性は疎まれることがあるのはわかっていた。

自分も国語の教師を論争し勝ってから周囲や教師に

不気味がられるようになった経験があったから。



「私のところに来て数年は感情が無くってね。泣きも笑いもしなかったんだ。

でも、そんな時に貴生川君、君の本とあの子は出会った。

君があの子に感情を与えたんだ」




まあ、その本をサギに渡した子はもうこの世には居ないがねと先生は少し苦そうな顔をしながら言った。





俺は、涙が止まらなかった。




友人も信じる人も居なくて、縋った先が俺の本で。でもその本をくれた人はもうこの世には居なくて。




俺が初めてこの屋敷に来て、脱走して卒倒した時に読んでいた本。あれはかなり前に俺が書いた本だった。

あそこから数冊出しはしたが、それでも新作はもう随分と書いていない。

一体サギはどんな気持ちで俺の新作を待っていたのだろう。







書かなきゃいけない。





そんな気持ちがふつふつと沸いてくる。





「でも、俺は・・・俺は・・・」





書くことができない。





だって・・・俺は






「貴生川君、もしよかったらサギに君が書かない

             本当の理由を話したらどうだろうか」




林部先生は優しい口調で、でも冷静にこちらを見ながらそう言った。



「でもサギは」



「大丈夫。明日には目を覚ます。

      きっとサギも貴生川君と話したいと思っているよ」





先生はいつも優しい。組織のボスと言われても俺からしたら、先生は先生だ。





「わかりました」




俺は承知した。新作を待っているサギにちゃんと理由を告げて、そこからどうするかは決めたらいい。



俺はペコリと頭を下げて、応接室を出た。







次の日、サギはベッドの上に居たものの元気そうであった。




「貴生川さんから訪ねて来るなんて珍しいね」




心なしかサギは嬉しそうだ。

その姿を見て安心する。




「サギ、あのな、俺お前に言わなきゃならないことがあるんだ」





なあに?と柔らかな口調で聞くサギの方を向いた。





「俺が小説を書けな・・・いや、書かない理由」






すごい心臓がバクバクしている。




言ったら元には戻れない。でも今言わなければきっとまた飲み込んでしまう。












「俺、人を殺したんだ」

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