優雅な作家活動2
「ちょっと、君!」
「サギだよ。」
「じゃあ、サギ!俺は新作を書けないんじゃなくて書かないんだ。」
俺がそう言うと、サギがピタっと止まった。
「え?スランプって言ったじゃん。」
痛いところを突いてくる。揚げ足取りかコイツは。
「確かにスランプでもあるが、俺はもう小説家として作品を出す気はない!」
「ええ?どうして?」
明らかに困ったようにサギはこちらを覗き込む。理由を教えろと言わんばかりに。
「・・・それは言えん。」
そう、言えるわけがない。あのことに関して誰か他人に口外してしまったら、俺の人生は終わってしまう。
そう言い、サギの引っ張る手を振り払おう
とするとサギはより一層強く俺の腕を掴んだ。
「痛ッ!」
よく見ると、サギの顔はさっきのような無邪気な青年の顔ではなく無表情で、ただならぬ空気が漂っていた。
「・・・貴生川さんってさ、作品でも思ったけれど、秘密主義者だよね。」
そう言った瞬間、サギは俺を引っ張っている方とは逆の手から拳銃を取り出して、俺の額に突きつけていた。
ゴリっと額に突きつけられたソレは間違いなく本物の拳銃である。
重みがそれを語っている。
間違いない。俺は今、殺されそうになっている!
そう自覚した瞬間からサアアと血の気が引き、恐怖を覚える。
「貴生川さん、俺が「お願い」している間に引き受けた方がいい。
「脅し」には変えたくない。」
・・・本気だ!このままでは殺されると確信した俺はゆっくりと頷いた。
もちろん了承したのではなくこれは反射に近い状態であった。
カチャっと銃を下ろして、サギはニコっと笑った。異様な空気が止む。
「じゃあ、一緒に行きましょう。」
アパートの下に降りるとそこには、このご町内に似合わない黒のベンツが止まっていた。
絶対に何かしらの良くない噂を立てられている・・・!
傍から見たら、借金取りに連行される図にも見えなくもない。
「貴生川さん、本当に何も持って行かなくていいの?」
サギに心配そうに言われるが、首を横に振った。
そんなに心配するなら俺を解放してくれ。
まあ、ポケットにスマホを入れているので、それ以外は暫くして取りに帰ればいいかと思った。
「そっか。じゃあ、乗ってのって!」
ちょっとした旅行だねなどとふざけたことを抜かしながら、サギはドアを開けた。
部下らしき黒ずくめのスーツ集団は明らかに動揺している。恐らく普段は自分では絶対にドアを開けないのだろう。
大層なご身分だ。
「それじゃあ、出発!」
サギが後部座席の俺の隣に乗り、そう言うと車が進みだした。
乗り心地は間違いなく良く、本当に車が動いているのかと疑いたくなるほど揺れがなかった。
それとは裏腹に、俺の心は揺れっぱなしで。
これから先どうなってしまうのかという恐怖だけが渦巻いている。
「貴生川さん、お菓子いる?」
横でサジは嬉しそうにチョコ菓子の袋を開けていた。
いらないと首を振ると「あ、そう」とだけ返事が返ってきた。
横目でだが、こうして見ると、さっきの拳銃を突きつけてきたのが嘘のように
明るい歳相応の青年だ。
学生であったなら間違いなくクラスの人気者になりながら、モデルのバイトでもしていそうな位に充実した日々が約束されていることであろう。
一体何が彼を裏社会へと進ませたのか。
でも、わかることがある。
こいつも俺と同じく、絶対に秘密主義者であるということ。
そしてあの拳銃を突きつけてきた時に見せた姿を持ち合わせているということ。
一体これから先、俺はどうなるのだろうと窓から見える空を眺めた。
空は俺の最悪の気分とは真逆の快晴であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます