第92話 巨大亀アダマンタイタスを討て

 サマルクという村を出て、わしらは北西を流れる川を目指した。

 若い村長からもらったダムネシア地方の地図によると、この地方は世界地図を四分割した左下に当たる地域らしく、いくつかの集落と北部の砂漠地帯にはカルガーラという町があるようだ。

 町のことは気になりはするが、今は目の前の魔物を退治することに集中しなければならんだろう。村人の命がかかっているのだから。

 草原を行く途中。

 村を出る前に村長から「北へ行くにつれ魔物も多く出るようになるから気をつけろ」との注意を受けた通り、ようやく魔物と出くわすことになった。

 斧を持ったゴツイ甲冑や、剣や槍を携えたガイコツ。尻尾が弓になっている変わったコウモリに、死ぬ間際に毒霧をまき散らすイモムシなどなど。

 さほど苦戦することはなかったが、油断していたせいかわしだけ毒をもらってしまい、クロエに二度ほど治療されたことは内緒だ。

 女子たちと魔物を蹴散らしながら突き進むことおよそ三十分。

 堤を上って、目的地であるボーム川を眼下に収めるところまでやってきた。

 川幅はだいたい百メートルくらいか。緩やかな流れで大河というほど広くない。大きな魔物がいればすぐに気づくだろうが、しかしそんなものは見当たらなかった。


「巨大亀とやらはどこにいるのだろうな?」

「村長は水路を塞いでるとか言ってたからな、たぶん水門だろ」

「勇者様、急ぎましょう」


 促され、わしらは堤防を駆けた。

 すると一キロほど溯ったところに、突如として島のように浮かぶ紺青色をした大きな甲羅が見えてきたのだ。それは見事に川と水路を繋ぐ水門を完全に塞いでしまっていた。

 甲羅は川の三分の一近くも占めているため、体長は三十メートルは超えていると思われる。


「まさか、あれなの? いくら亀でも大きすぎないかな……クゥちゃんより大きいよ」

「まさに化け物って感じ? 万年生きてそうな大きさだねー。お師匠に見せたら面白がるんだろうなー」


 二人が驚くのも頷ける。クゥーエルでも二十メートルほどしかない。亀のくせにそれよりも大きいのだ、これはもはや驚愕すべき事実だ信じられん。

 だがそれは目の前にあって、水門を塞いでいる。このままでは大雨が降った場合、流れを妨げて氾濫する原因にもなりかねんだろう。村人のためにもここで退治せねばなるまい。

 大きさに面食らいはしたが、しかし今回は意外と楽かもしれんなと思う自分もいる。


「村長の話ではカッチカチらしいが、いくら硬かろうと、わしらにかかればお茶の子というやつだろうな。それに鈍間そうだし」

「たしかに鈍いイメージしかねえけど、にしてもどの程度の硬さかにもよるだろ。刃が立たないとは思いたくはねえが」

「なに、もしかして自信がないの? そんな大振りな刀ぶら下げて?」

「なんだと、喧嘩売ってんのか?」


 ライアを挑発するソフィアの言葉に、わしは思わず股間を抑えた。男の子なのに情けないと言われている気分になったからだ。

 だがマイサンは奮い立つことをしない。もしかしたら、亀の大きさに負けたと傷ついているのかもしれんな。あれは魔物だというのに。

 しかしわしは勇者だ! いまこそ皆に先駆けて奮い立つ時!

 グッと拳を握って、口喧嘩する二人に近づいた。


「お前さんたち、わしの話を聞いてくれるか――」

「自信がないわけねえだろ、今じゃ鉄ゴーレムもバターみたいに両断できるぜ。そういうお前こそ拳労わって日和ってんじゃねえだろうな?」

「私が拳を労わって遠慮するほどの魔物が存在するとでも思ってるの? あんなの会心出して一撃で叩き割ってあげるわよ」

「そういうことなら、やってもらおうじゃねえか」

「言われなくても、魁は譲らないわ――ッ」

「あのぉ、まずはわしがだな……」


 決起したのにそんなわしを差し置いて、ソフィアが先に駆け出してしまった。堤防を斜めに駆け下り、雑草の生い茂る河川敷を猛スピードで走る。

 そして高く跳躍し、甲羅干ししている亀の背にググっと引き絞った拳を勢いよく叩きつけた。

 ガオォオン! と鈍く重い音が大きく響く。まるで攻城弾を分厚い城壁へ撃ち込んだような音色だ。

 拳を弾かれたソフィアの「なっ⁉」と驚く声が聞こえた。その始終を眺めていたが、亀の甲羅は叩き割れるどころか傷一つ付いていないのだから無理もない。

 ――と、ザバッと唐突に水面へ顔を出した亀の頭がぐりんとソフィアへ向くと、広げられた口から水球が一つ飛ばされた。

「くっ」咄嗟に腕を交差させて防御姿勢を取った彼女へそれが直撃。吹き飛ばされ、地面に強く背を打ち付けたソフィアが苦悶の表情で呻く。


「大丈夫か、ソフィア!」


 駆け寄りびしょびしょになったその体を起こすと、ソフィアは黒いグローブに覆われた右拳を労わるようにして抑えた。


「っつ……ヒビが入ってるわ」

「すぐに治すよ!」


 すぐさまクロエが回復魔法をソフィアへかける。

「ありがとう、クロエ」と礼を述べたソフィアは、グッグッと何度も拳を握って感覚を確かめた。


「うん、もう大丈夫みたいだわ」

「そっか、よかった。でもソフィアの拳にヒビを入れるほど硬いなんて、あの甲羅相当なんじゃないかな?」

「殴ってみて分かったんだけど、下手したらあの黒い鉄巨人よりも硬いわよ」


 その一言をきっかけに、スッと皆の前へ出たライア。「おもしれぇ……」呟いたその背は高揚感からかわずかに震えていた。


「さすがにライアでもあれは無理じゃないかなー? 童子切が折れかねないよ?」

「心配すんな、あたしはそこまで馬鹿じゃない。ちゃんと考えてるさ」

「暗に私が馬鹿だと言われてる気になるのは気のせいかしらね?」

「気のせいだから気にすんな――ッ」


 言葉を返すなり抜刀し、流れるように上段へ構える。「斬鉄剣・霞斬りッ!」

 ゴォ! という風音が聞こえるほどの斬撃を繰り出すと、寸秒遅れて離れた亀の甲羅に向かって太刀筋が閃いた。

 しかし、鉄ゴーレムもバターのように切り裂くという斬鉄剣ですら、ひっかき傷一つ付けられなかった。


「じゃっかん威力が落ちるとはいえ、鉄ゴーレムなら問題ないはずなんだけどな…………たしかに硬いぜ」

「ほら見なさいよ、言わんこっちゃない」


 呆然と立ち尽くすライアの背に、ソフィアが軽口を叩く。そして始まる口喧嘩。

 そんな二人を他所に、わしはあることを思い出していた。それはいつぞやに読んだ絵本の話だ。

 とてつもなく硬い金属の甲羅を持つ亀、アダマンタイタス。物理攻撃ではビクともしないという厄介な魔物だ。絵本の中のモンスターだと思っていたのに、まさか実在するとは。


「皆、よく聞いてくれ。残念ながらあやつは物理攻撃では歯が立たん」

「勇者さん、あの亀のこと知ってるの?」

「うむ、絵本で読んだからな」

「また絵本の話かよ。そんなんだから女王にメルヘンなブロッコリーとか言われるんだぜ」

「それは以前の話だっ、まったく」

「それでオジサン、あの亀に弱点はないわけ?」

「む? そうだな……」


 たしか絵本では、炎と氷、そして雷が弱点だった気がするが。はたしてこやつもそうであるかどうか。いや、試してみんことには分からんか。


「恐らくだが、属性攻撃が苦手なはずだ。たぶん」

「歯切れが悪いですね」

「まあ絵本の話だからな、仕方あるまい」

「なら今回は、わたしたちの出番ってことだね」

「そういうことなら、アタシも張り切っちゃおっかなー」


 二人並び立ち、慌てたように顔を水中へ沈めた亀と対峙する。

 まずはクロエが紺青の甲羅へ手を向けて、赤い魔法陣を広げた。「ダムドフレイム!」放たれた五つの火球が甲羅へ次々に着弾し爆発を繰り返す。

 すると甲羅の色が薄っすらと赤く色づいた。だが傍目に見てダメージがあるようには思えん。


「次はアタシね――、」そして素早く印を結ぶ楓。「火遁、爆炎陣!」

 楓の術は甲羅の上で発生した。円を描くように炎が走り、線で結ばれた瞬間に火柱が立ち上る。赤っぽくなっていた甲羅はより一層赤みを増した。

 その時再び亀が甲羅から顔を出し、目を真っ赤に充血させて怒り顔をこちらへ向ける。口を開けたので水球を警戒し皆で身構えるが――口中が赤く炎が揺らめいているのが見えて驚愕した。


「まさかっ?!」


 口にしたその瞬間、火球が放たれた。水球と同じく直径にして一メートルほどと、さほど大きくはないが。散開した直後地面を抉ったのを見て、大きさの割に威力があることを知る。


「炎を吐き出す亀なんて聞いたことねえぞ」

「今回は一筋縄じゃいかなそうね」

「あの甲羅になにか秘密があるのかも……次は雷で攻めてみるよ」

「んじゃあアタシは氷にしよっかなー。クロエちゃん、雷は頼んだよー」

「任せて――フラウサンダラー!」


 クロエが掲げた腕を振り下ろすと、まるで丸太のように太い轟雷が天から降ってきて甲羅に落ちた。だがやはりそれでも硬い甲羅を傷つけること叶わず。

 しかし直撃した雷が甲羅を這い回り、やがて今度は黄色っぽく変化する。

 そこへすかさず「――氷遁、白氷鋭槍!」楓の忍術が繰り出される。透き通る氷の槍が無数に出現し、甲羅を取り囲んでは一斉に降り注いだ。が、その全ては砕け散り、ロックアイスのように川を流れていった。

 と、いまさっき黄色に変化したばかりの甲羅が、今度は青っぽく変色したのだ。


「やっぱり、あの甲羅が怪しいね。間違いなく秘密があるんだよ」

「先ほどは炎を続けたことで火球を返されたな。では次に氷を使用したらどうなるのか……続けて試してみるか?」

「なんとなく想像できるけど、確信を得るためにもやってみるよ。グラシャルガンズ!」


 前方へ構えたクロエの手元から、弾丸のように無数の氷塊が射出される。しかし楓の氷遁同様、またしてもバガバガと甲羅に弾かれて砕けた氷が川に流されていく。

 同時に甲羅はさらに青みを増し、小さな突起のようなものが甲羅をびっしりと覆いつくした。それらは少しずつ成長して、やがて剣山のように隆起すると――瞬く間に一斉に放射されたのだ。


「のわっ!」


 まるで二人の魔法と術をお返しせんばかりの反撃に、わしらは必死で回避に専念する。が、氷の針の一つがわしの鎧の脇を掠め、見事にサックリと切り裂かれた。 150000Gもする一品がこうもあっさりと……。

 直撃していたらと思うと血の気が引き、わしのマイサンも一気に萎縮する。


「……し、しかしこれで判ったな。あの甲羅に仕掛けがあることが」

「同じ属性を二度続けると、その属性で反撃されるってわけか」

「そして炎から雷で赤から黄色に変化して、氷を撃ったらさらに青色に変わったってことは……」

「もしかしたら、黄色の時に炎を撃ってればダメージを与えられたんじゃないかな?」

「あーなるほど。三つの属性は三すくみになってるってことだね。ってことは、赤色の時は氷で、青の時が雷ってことになるのかー。そうと分かれば、クロエちゃん、やろっ」


 うんと頷くクロエ。

 今度は二人で違う属性を準備するようだ。クロエは雷、そして楓が炎。

 まずは今の弱点である雷をクロエが放つ。先ほどと同じ魔法だ。すると今まではまるでダメージが通らなかった甲羅にパキッと亀裂の入るような音がした。

 嫌がるように亀はまた頭を出し、クロエに向かって水球を飛ばす。

「――させるか!」と勢いよく飛び出し、クロエを守るようにして球を切り裂いたのはライアだった。


「飛んでくる水球はあたしらに任せろ!」

「頼りにしてるよー」


 三すくみ通り黄色に変化した甲羅へ火遁を見舞う楓。やはり分析した通りにダメージが入った。今度は甲羅の一部が剥がれ落ち、亀はまたしても水の球を吐き出す。楓に飛んできた球はソフィアが叩き壊した。

 皆なにかしら活躍しているのに、わしときたらまだなにもしておらん。せっかくの魔神剣ネヴュラスも宝の持ち腐れだ。

 この戦闘でまだ抜いてもいない剣に目を落とすと、鞘の口からなにやら白い紙のようなものが飛び出していた。

「なんだこれは?」少しだけ剣を抜いて挟まっていた紙を抜き出す。すると『おじさまへ』とわしへの宛名がされていた。わしをおじさまと呼ぶのは魔族の少女リリムだ。

 さっそく紙を開いて中に目を通す。

『伝えるのを忘れてたけど、この魔神剣ネヴュラスには固有技があるよ。「ネヴラスレイブ」説明書くのは面倒くさいから実戦で試してみてね』とのこと。


「ネヴラスレイブか……」


 呟いて亀を見やる。いつの間にそれほどのダメージを与えたのか、甲羅はすでに三分の二ほどが削れ、ずんぐりとした背中が丸見えになっていた。

「四巡目いくよー!」との楓の声から、どうやらすでに三すくみを三周したらしい。亀も怒り心頭をあらわにし、真っ赤な目をして反撃を繰り返している。

 逡巡する間にも甲羅は削れていき、このままではわしの出番がなくなってしまいそうだった。

 ぐっと剣の柄を握り締め、わしは一気に抜き放ちながらダダっと駆け出した。


「……わしもやるぞ!」

「おっさん、いまさらやる気出したところでもう終わりそうだぞ?」

「なに、わしはあの頭を狙うのだ。反撃ばかりで甲羅に隠れようともせんだろう? 叩くならいまだ。お前さんたちは反撃から二人を守ってやるのだぞ」

「勇者様に反撃が及んでも対処が遅れるかもしれませんよ?」

「その時はその時だ、自分で何とかしてみせよう!」


 互いに離れて戦うクロエと楓から距離を取り、わしは水門から一番近くの川べりに陣取った。

 亀は相変わらずクロエと楓に首を振るだけで、一番近場のわしに見向きもしない。

 少しだけ悔しくなり、わしはさっそく魔神剣の固有技を試すべく構えた。


「ゆくぞ亀さん! ネヴラスレイブッ!」


 勢いよく剣を袈裟に振り下ろす! すると闇色の剣閃が発生し亀の首筋に直撃。弾けるようにして無数の刃が宙にばら撒かれ、それらは複数の斬撃となって一斉に頭へと襲い掛かる。

「キュー……」と苦痛の悲鳴を上げる亀の頭は血だらけで、反撃の水球の大きさも半分以下となり威力の減衰が見て取れた。

 それを勝機とばかりに、オークの砦で柵を吹き飛ばしたクロエの火炎魔法「――ブラスイグニト」が炸裂し甲羅を完全に剥がして、続けて楓の氷遁「――烈氷刃」が暴風とともに露呈した亀の背中を氷の刃で攻め立てる。

 それが致命傷となり、亀は動きを止め、断末魔を上げることなく白目を剥いて倒れた。

 粒子となって消えた後には、紺青色をした大きな金属塊が残された。絵本ではこの金属をアダマンタイトと呼称していたから、そう呼ぶことにしよう。


「やっと終わったな。結局何周したんだ?」

「トータルで五巡ね。どれだけしぶといのよこの亀は」

「でも、これで村は救われるよね。水も流れていってるし」


 クロエの言う通り、川の水が水路へと流れているのが分かる。

 村人たちも、これでもう飢えに苦しむことはなくなるだろう。


「それにしてもオジサン、まだあんな技隠してたの?」

「いや、隠していたわけではなくてだな。たまたまリリムからの手紙を見つけて試してみたのだ」

「なるほどな。つまり魔神剣の固有技ってところか。魔族の武器だからリリムにしか詳しくは分からない。しっかし、あたしの咲花白桜刃みたいだな。その剣、魔王が使わなくてよかったぜ。使ってたら面倒だった」


 それを想像し辟易したように、うへえと口を歪めるライア。

 たしかにわしもそう思う。直撃したら弾けるということは、盾で防いでもダメだということだからな。

 なにはともあれ、亀を無事に倒せたことはよかった。


「勇者様、それよりもこの塊はどうします?」

「アダマンタイタスの甲羅と同じ硬度を誇る金属塊か。上手いこと加工できれば武具に使えそうだが……」


 うん? 待てよ。アダマンタイタスの超高度の金属アダマンタイト。アダマン、タイタス?

 いま思えば、アダマスに名前がよく似ているな。硬い金属というのも同じだ。


「……クロエよ、一つ聞きたいのだが。アダマスの盾はロクサリウムで作られたことに間違いはないか?」

「アダマス? わたしも詳しくは知らないけど、王家の宝物ってことはそうだと思うよ。お品書きにも書いてあったから」

「あのアダマスの盾は、もしかしてこのアダマンタイトを目指して作られた、というのは飛躍し過ぎた話だろうか?」

「可能性はなくはないと思うけど、こんな亀がいること自体初めて知ったし。あ、でも勇者さんが言ってた絵本を読んだ誰かが、この金属をモデルにして超硬魔金を生み出したってことなら、無きにしもあらずかな」


 やはり、というかおそらくはそうだろうと想像する。

 そうだと仮定すると、このアダマンタイトはその原型ということになるだろう。


「とすると、もしかしたらこのアダマンタイトでアダマス以上の盾が作れるかもしれんな。皆を守る最強の盾が」

「んで、金槌でも叩けねえこんな金属を誰が加工するんだよ?」

「それはまあ、探すしかあるまい」

「見つかればいいですけれど」


 呆れ口調のソフィアの言葉でシーンとなってしまった。

 殴りかかって拳にヒビが入った当人の言葉だからな、重みも違うというものだろう。

 そんな折、気を取り直すようにパンと一つ手を叩いた楓。

「なにはともあれ、村長に報告に行こうよ!」その明るい声に皆が救われた気分になったことだろうと思う。


 そうしてサマルク村に戻ったわしらは、田畑に水が戻ってきたことを喜ぶ村人たちに歓迎された。


「――まさか本当にあの亀を退治できるとは思ってなかったよ。あんたは本当の勇者だ間違いない、疑って悪かった。村を代表して感謝するよ、ありがとう」

「なに、そんなことはかまわんよ。気にするでない」

「今日はぜひ村に泊まっていってくれ。大した宴は開けないが、少しくらいなら酒も出せる」

「皆もいささか消耗しているからな、そうさせてもらおうか」


 女子たちを見やると、皆一様に頷いた。

 明日に響くようなことはないと思うが酒は遠慮する旨を伝え、そしてわしらは宿へと向かう。

 その途中、わしの足がふと止まった。思い出すことがあったからだ。


「ん? どしたのオジサン?」

「楓よ……、わし頑張ったよな?」

「なんのことかなー」

「惚けるでない、頑張ったらおパンツ見せてくれるという約束ではないかっ」

「あーあれね。でもオジサン最後しか攻撃してないし美味しいとこ持ってくし、さすがに頑張りとしては足りないかなー」

「そ、そんな馬鹿な!」

「まあちょいちょいアタシのパンツ見てること知ってるしさ、別にいいでしょ?」

「やはりバレていたのか……」


 にししと悪戯そうに笑う楓に根負けする。

 女子はそういう視線に敏感だと聞いたことがあるが。

 しかし残念だ。わしがこっそり見るのと、楓が見せてくれるのではいろいろ気分やら雰囲気やら興奮度やら如何わしさが違うと思うのだが。

 どうやら楓にはそんな男心が分からんらしい。

 だがわしは諦めんぞ! いつの日か、た、たくし上げてもらっちゃったりなんかしてッ! 目を閉じれば魅惑の三角ゾーンがすぐそこに!

 ふふふ、うははははははッ!

 わしのマイサンいまさら起っき。


「まーたエロい妄想してんのか。相変わらず変態オヤジだな」

「勇者様、そんな涎垂らした顔を晒していては、また疑われますよ?」

「えっちなのはいけないと思うよ、勇者さん」


 ジトっとした眼差しもまた愛いな!

 棒立ちするわしを置いて歩いていく女子たち。

 わしも遅れまいと小走りにその背を追いかける。いつの日か皆とハーレム城で暮らすその日を夢見、胸に抱いて!

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