第79話 お仕事見物

 朝。

 宿の部屋で目覚めたわしは手早く身支度を整え、一階のエントランスへ下りた。

 どうやらわしが一番遅かったようで、三人娘は丸テーブルを囲みお茶なぞを飲んでいる。男一人いないだけで傍目にずいぶんと華やいで見えるのは、まだ目がシパシパしているからだろう。

「あっ?」とわしに気づいたライアが声を上げると、なぜか皆一斉に立ち上がりこちらへ振り返った。

 ふふふ、女子たちの好意をひしひしと感じるなー、なんてニヤつきながら歩いていくと――


「おい、こいつはどういうことだ?」

「まったく、勇者様には呆れ返りますわ」

「ちゃんと説明して欲しいかな」


 と皆一様に紙を差し出しながら、ムッとした表情をした。

 いったい何に対して怒られているのか分からず、小首を傾げながら紙を見やる。するとそれらはギルドの依頼書だった。

 それぞれ――ライアは『喫茶アンメアリ』、ソフィアは『コスプレ喫茶』、クロエは『カジノ』となっている。


「お前さんたち、いつの間に依頼など受けたのだ?」

「受けてねえよ。朝起きたら部屋のドアに挟まってたんだよ。つうか、あたしが却下だって言ったの聞いてただろ」

「よく署名を見てくださいません?」


 言われ、ソフィアが指で示す紙面の下部へ目を通す。

 そこには『勇者ワルド』とわしの名が書かれていた。筆跡から見てもわしのもので間違いない。


「なぜわしの名が……」

「こっちが聞きたいよ」


 肩を落としため息をつくクロエ。

 今すぐにでもその気落ちした肩を抱いてやりたい衝動に駆られたが。ふと、わしは昨晩の記憶が蘇った。


「――そういえば。行ったな、ギルド。寝ぼけていてよく覚えとらんが……」

「そりゃ行ったんだろうよ、サインがあるんだからな。それになんだよこの制服。前におっさんから渡されたやつと一緒じゃねえか、図ったのか?」


 またぞろ示された絵を見ると、たしかにライアの店で制服指定されている衣装は、以前わしがプレゼントした服そのものだった。


「いや、たぶん偶然だとは思うが……」

「しかもこの依頼、キャンセル不可じゃありませんか」

「こういうのを職権乱用って言うんだよ」


 方々からチクチク責められ、わしのプリンのように甘く柔いハートはもうボロボロだ。

 そこまで言わなくても……しょんぼりしながら眉を垂れ皆の顔を順繰り見つめる。

 すると「そんな顔でこっち見んな」とライアに怒られてしまった。

 なにか気づいたように受付の時計に目をやったソフィアが、一つため息をこぼす。


「ふぅ。ライア、そろそろ行かないと時間に間に合わないわよ」

「不本意だけど、キャンセル出来ないみたいだし」

「……はぁ。しょうがねえ、やる気はないけど行くしかねえか」


 皆渋々といった様子でわしに背を向け、ギルドの出入口へ向かう。

 そこでふと立ち止まると、


「おっさんは一人で魔物狩りにでも勤しむんだな」

「頑張ってくださいね」

「わたしたちの分までね」


 去り際に、そんな皮肉を込めた針を投げつけられた。なけなしのプリンハートに見事に刺さる。

 わしは皆の背を見送り、一人寂しく立ち尽くす。

 しばしぼうとしていたら、ようやっと覚めてきた頭に昨日の記憶が雪崩れ込んできた。

 すべて思い出し覚醒すると、わしは一人、知らずニマニマした表情を形作ったのだった――。



 道具袋の中に入れておいた昨晩メモった紙を手に、わしは皆が今日働く店へと向かっていた。

 一人で魔物狩りなんて退屈だし、下手して死んでしまったら事だからな。故に、早々に魔物狩りを諦め、仕事ぶりを見物しに行こうと決めたのである。

 ぼそぼそのプリンだったハートもいまやトキメキに満ちていて、先々の出来事が楽しみで仕方ない! 心がプルプル震えているようだ。


「まずはライアだな!」


 意気揚々と元気に足を踏み出しやってきたのは、商業区の一角。喫茶店が競うように軒を連ねるエリアだ。ライア、そしてソフィアの働く店があるところ。

 わしは華やかな花の装飾で飾られた、見るからに可愛らしい印象のパステルカラーの店の前で足を止めた。

『喫茶アンメアリ』

 外にいても甘い菓子の香りが漂ってくる。どうやら主にスイーツを扱っているようだ。

 場違いではないかという少しばかりの緊張をしながらも、わしは扉を開けた。

 瞬間、濃厚なスイーツの香りがまず鼻腔を甘くくすぐる。

 扉が閉まり小さなカウベルが控えめな音を立てると、中に居たウェイトレスが俯きながら振り返った。


「お、おか、おかかおかかえ――じゃない! ちょ、ちょっと待て、仕切りなおすから!」


 目の前には、真っ赤になった顔を恥ずかしそうに背ける黒いポニーテイルの娘が。

 どうやら客を迎えるためであろう文言を仕切りなおすだの言いながら、スカートの裾をギュッと握りもじもじとする姿はとても愛らしい。

 というか、ライアだった。


「見慣れたポニーテイルだと思えば、ライアではないか」

「――は? その声は……」


 えーとえと、とぶつぶつと呟きながら、挨拶の言葉を確認するように復唱していたライアの動きが止まる。

 振り返ったその表情は、「げっ」とでも言いたそうな不味そうなものだった。


「ってかなんでいるんだよ! 魔物狩りはどうした?!」

「なにを言っとる。わし一人で出かけて野垂れ死んだら大変だろうに」

「そんなことは知らねえよ、つうか見んな!」


 まるで裸を見られた乙女のように、胸元と腰元を手で隠す。

 わしがプレゼントしたウェイトレスの服は、白とオレンジ基調で、胸元が強調されるようにコルセットを巻くものだった。

 立派なオパーイを持つライアが着ればこそエロく映えるというもの。我ながらナイスミドルなチョイスだと思う! 谷間なんか指などでは物足りんくらい別なものを挟みたくなるしな! 乳袋万歳!

 ひらひらのスカートなども普段は絶対に着てくれないミニ丈で、膝上二十五センチほどだろうか。

 太ももが実にそそるな! 膝枕をしてもらった時を思い出し、マイサンがピクリと反応しそうになる。


「なに見てんだよ、見んなっつっただろ!」

「これは酷い店員さんだ。お客に対する態度がなっていないのではないか?」

「あんたは客じゃない、ただの仲間だ」

「おっ、それは嬉しいことを言ってくれる」


 ついつい絆されそうになったが、ここで引いてはもったいないし男が廃るというものだ。

 わしは追い出されぬよう畳みかけるように言葉を紡いだ。


「だがな、わしはいま客としてこの店に来ているのだ。ちゃんと接客をしてもらわねば困る」


 最もな言い分に、ライアは店員と客が揉めている現状に強く出れず、「うぅ~」と唸りながらも、諦めたように舌打ちした。


「チッ、分かったよ、もてなしてやるよ、やりゃいいんだろっ。おかえりなさいませご主人様! ただいまお席に案内しますので、勝手について来いッ」


 そうして踵を返し、機嫌の悪い猫のように毛を逆立てながら歩いていく。

 わしはフリフリのスカートから覗く太もも裏をガン見しながら、席へと通されたのだ。


「――ほら、とりあえず水と布巾だ」


 トレイに乗せていたそれらをテーブルに置くと、さっとメニュー表を差し出してきた。


「んで、何にするんだ? つうかおっさん金は持ってるのかよ?」

「いや、徴収されてからすっからかんのままだ」


 即答すると、呆れたようなあんぐり顔をされる。


「じゃあなんのために来たんだよ、用がねえならさっさと帰れよな」

「用ならあるぞ」

「ん?」

「お前さんの可愛らしい姿を目に焼き付けるためにな」

「んなっ!?」


 引いていた赤面は、再びゆでダコみたいに真っ赤になった。

 わしを叩こうとしていたのか。軽く振り上げられていた拳は所在無げに下ろされ――自身の姿を確認するようにライアは目線を下げる。

 すると、どこか諦めたような吐息をついた。


「あたしがこんな格好しても、似合わないだろ……ソフィアとまでは言わねえけど、クロエとか楓の方がさ……」


 まるで自分を卑下するように零した言葉に、わしは「そんなことはない」と真面目な顔をして否定した。


「お前さんはたしかにかっちょいいと思う。初めて会った時、わしを助けてくれた時にもそう思ったからな。だが、決して可愛くないわけじゃない。もしも世が世なら、お前さんもそのような服を着て、女の子を楽しんでいたかもしれんのだぞ」

「でもさ、」

「ライアはもっと自信を持っていいと思うぞ。男勝りだとか卑下する必要はない。ちゃんと可愛いぞ! わしが言うんだから間違いない。現に、その服、お前さんによく似合っているしな」


 わしの目に狂いはないのだ! そう快活に笑い飛ばしてやると――


「……そっか、……ありがとうな、おっさん」


 照れ笑いを浮かべながら、胸に手を当てライアがそう囁いたのだ。

 はにかんだ笑顔がとても印象的で、わしはこの笑顔を守ろうと、改めて心に誓ったのだった。



 喫茶アンメアリは女性にも大変人気な店のようで。

 さすがに手を拭き水だけで粘るにはいささか力が足りなかった。もっとライアの愛らしい姿を間近で見ていたかったが、他の客の迷惑になるからとやんわりと退出を促されたのだ。

 しかし、肩ばかり落としてもいられん!


「――次はソフィアの店にやってきたぞ!」


『コスプレ喫茶』の看板がデカデカと掲げられ、ガラス窓から窺えた店内の様子から、その衣装も多岐に渡っているようだ。

 ウェイトレスはもちろんのこと、メイドにカウガール、シスターにナースなどなど。

 もちろんソフィアが着ているのはブルマと呼ばれる体操服!

 店主に勧められるままにジパングで購入したが、見るまでもなく間違いなく成功だろう。

 わしは心を躍らせながら、店の扉を押し開けた。

 と――、


「うひぃいい、女王様、ぼくにお情けを!」


 男の声が突然店内に響いた。

 何事かと驚いていたら、「まったく情けないブタね。生憎、みっともなく鳴くことしか出来ないブタに情けを施すような慈悲は持ち合わせてないのよ」などといった辛辣な言葉が聞こえてきた。

 なんとなく聞き覚えのあるセリフ回し……。そう、ジャルノスの塔で聞いたような……?

 そろそろと声の聞こえた方へ歩いていき、わしは衝立で仕切られたテーブル席を覗き込んだ。

 すると、白い体操服に紺のブルマ姿をした金髪シニョンの女子が、一人の男性客を冷視を以て見下していたのだ。

 その尻を見て、「ぶふぉっ!!」と思わず吹き出してしまった。

 小さめなブルマを買ったつもりではいたが……。

 ピッチリとした布は尻を包み切れていないどころか半ば食い込み、むにっと尻肉が脇からはみ出しているその光景はまさしく絶景!

 あれは何と言うんだったか、たしかエッチな絵本にも名称が書いてあった気がするが。

 あれは……そう、そうだ!


「尻たぶだ!」

「ん?」


 大興奮し思わず声を上げると、ソフィアが冷めた目をして振り返った。

 しかしわしだと分かると、いつものクールな感じな目つきに変わり、表情も途端に穏やかになる。


「あら、勇者様ではありませんか。こんなところになんの用です? 魔物狩りの小休止ですか?」

「いや、一人だとなにかと心配なのでな。いまはお前さんたちの仕事ぶりを見物して回っているのだ」


 正直に答えると、「なるほど、勇者様らしいですね」と納得してくれた。


「ですが、いま所持金はないでしょう? ここへ来てもなにも食べられませんよ?」

「まあそれが目的ではないからな。ソフィアのその姿を見るためにやってきた、と言っても過言ではない」

「ご期待に添えられましたか?」

「そりゃあもちろん!」


 よかったですわ、とニコリと人好きのする笑みを浮かべるソフィア。

 しかし先ほどまでの雰囲気とはいささか乖離が過ぎる。

 わしはおずおずと遠慮がちに訊ねてみた。


「しかしお前さん、今しがたの女王様とブタというのは……」

「ああ、あれですか。私にもよく分からないのですが――」


 ソフィアの説明によると、来た時は普通に接客していたらしい。

 が。実に許すまじなことなのだが。ソフィアの魅力的な尻を触った輩がいたというのだ。(わしもまだ触ったことがないというのに! 許せん!)

 その輩を伸し、店の外に放り捨てた様子を見ていた客の一部が、ソフィアをなぜか女王様と呼び、仕方なく付き合ってブタと呼んでやることにしたのだという。


「そんなことが……」

「どうです? 勇者様も体験していきますか?」

「わしか? しかしそこまでドMではないからなぁ、」


 ソフィアがわしの上に跨ってくれるなら考えないでも――いやいや、昼間からナニを考えとるんだわしは。ここは健全な喫茶店だぞ、風俗ではない。

 いや、健全と断言できるほどではないかもしれんが……。

 しかしこの尻は魅惑的だ。触ってみたいなー。だが好感度を下げるのだけは不味い。

 わしは欲を押し殺し、「ふむ」と一つ頷いた。


「まあ、それはいつの日にか、ということにしておこう」

「そうですか、その時を楽しみにしていますわ」


 ニコリと微笑み、仕事に戻る旨を口にすると――ソフィアは再び表情を冷たいものに変貌させた。

 背後でブヒブヒと鼻息を荒くする男へ振り返ると、


「さっきからブタみたいに煩いのよ。前の客みたいに叩き出されたいのかしら」

「ヒィイイイ!」

「ヒィイイイッ」


 冷徹な声音に驚いた男の悲鳴に釣られて、わしまで声を上げてしまった。

 もはやキャラなのか素なのかよく分からんな。優しい女子ではあるのだが。



 金もないためいつまでも喫茶店に入り浸ること叶わず。

 ブタ扱いされて喜ぶ男もいるのだなと関心を抱きながらも、わしは次の場所へと足を向けた。

 やってきたのは昨日も訪れたカジノだ! 相変わらずデカい。

 

「さてさて、クロエはどのフロアにいるのだろうか」


 さっそく中へ入り、わしはスロットのエリアから銀髪バニーちゃんを探すことにした。

 すると、少しもしない内に見慣れた銀髪少女を見つけた。

 肩口までのセミロング、一見クールそうに見える涼やかな紫瞳、程よい大きさの胸は思わずタッチしたくなるような悪戯心をくすぐり、細すぎることのない腰から滑らかに曲線を描く美しい尻、そして網タイツに包まれた太過ぎず細すぎない太もも。

 初めて会った時の感動を思い出し、いまにも咽び泣きそうだった。

 と、わしに気づいたらしいクロエがこちらへ振り返る。ぴょこんと可愛らしく跳ねるウサ耳がまたよく似合うな。


「あ、勇者さん!」


 小走りで駆けてくると、なんとも無防備にオパーイが揺れた。思わずニマニマしてしまう。


「なんで笑ってるのかな?」


 ムッとしたクロエの顔が近い。近づいたことでふわりと香った、瑞々しい白桃のような匂いを深呼吸する。落ち着く匂いだ。


「というか、そういうクロエはなぜ怒っとるんだ?」

「そりゃあわたしだって怒るよ。なんでまたカジノで働かなくちゃいけないの?」

「それはあれだろう。わしがお前さんのバニー姿を見たいからだ。普段は着てくれないものだからな、こうでもしないと見られんだろう?」

「当たり前だよっ。なんでこんな防御力も魔法抵抗力もないやつ着なきゃいけないの。こんなのじゃ魔物と戦えないよ」


 素敵バニーをこんなのとは。分かっとらんな。


「それは言い過ぎだぞクロエ。確かに、他の女子が着たらばこんなの――とまでは言わんがな。お前さんが着るから、こんなバニースーツでも万倍魅力的に見えるのだ! お前さんだからわしは極端に興奮するし嬉しい! それを理解できんとは、バニースーツが泣いているぞッ」

「わたしが泣きたいよ……」


 呆れるようにため息をつき、肩を落とすクロエ。そのせいか谷間がばっちり覗けてしまった。これは力説した甲斐があったというもの。


「ところで、いま仕事中なのだろう? バニーというのはどういう仕事をするのだ?」

「グランフィードのカジノじゃ、遊び方を知らない人とかに教えてたんだけど。ここに来る人たちみんな経験者みたいだから、基本的に見回りしかしてないよ」

「そうなのか。それは暇を持て余すな……。どうだ? いまからわしとスロットでも――」

「お金持ってないでしょ?」


 言われ、思い出した。すっからかんだったことを。

 くぅ~。こんなことなら少しでも魔物を狩ってくればよかった!

 端からその選択肢を除外した自分を叱ってやりたい気分だ。


「そんなに暇なら、楓ちゃんが帰ってくるの待っててあげればいいのに」

「はっ!? そうだな、今日帰ってくると言っていたし。わしが待っていてやらねば入れ違いでどこかへ行ってしまうかもしれん」


 そうと決まれば。

 わしはジーッとクロエを見つめ、バニー姿をこの目に焼き付ける。上から下から舐るように見つめ続けていたら、目が充血して痛くなってきた。

 そんなわしを見て小さく息をつくと、「はい」と仕方なさそうにクロエが何かを差し出してきた。

 手に取ると小さなガラス瓶で中に液体が入っている。どうやら目薬のようだ。


「あんまり興奮しすぎないでね、恥ずかしいから」

「ク、クロエ! 愛しているぞー!!」

「だから恥ずかしいんだってっ――」


 周囲を気にして辺りをキョロキョロと見渡し、白い肌を羞恥に赤く染めるクロエ。怒り顔もやはり愛いな、そんなことを思いながら、「わはは!」と笑いながら手を振ってカジノを出た。

 もう一巡してもよかったが。今度こそ暇なら魔物でも狩ってこいと叩き出されそうな気がしたため止めることに。

 それに楓がいつ帰ってくるとも知れないため、そのことも考慮して大人しく宿へ戻ることにしたのだった――。



 楓が宿に戻ってきたのは、皆が仕事から帰ってきた午後五時だった。

 なにやらいろいろ詰め込んだ大きな風呂敷を、重そうに背負って現れた時には驚いたものだが。中を開けて出てきた沢山の宝石や、組木細工や切子などの工芸品の数々に、なにかと助けてくれる楓と玉藻に感謝の気持ちが込み上げた。

 不甲斐ないわしのために、すまん恩に着る。そう口にすると、「お師匠も仕方なさそうな顔してたけどさ、でも笑ってたよ。頼ってくれることが嬉しかったのかもねー」楓はそう言って微笑んでくれたのだ。


 それから例に倣い。

 ソフィアが風呂敷の中身を道具屋に売りに行くと、総額なんと650000Gにもなった。

 さっそくカジノへ行き、500000コインに替えて黄色のオーブと交換することが出来た。


「これで五つ目か」

「あといくつあるのかしら」

「というかこの玉、どこへ持ってくんだろう」

「とりあえず、ヴァネッサと合流すればなにか分かるかもしんないねー」


 女子たちの会話をよそに、わしは道具袋を開いた。

 青、緑、赤、紫、そして黄。

 あといくつ集めればいいのか分からないが、確実に女神のペットとやらの存在に近づいている。そうすれば、ネウロガンドの瘴気の向こうに行けるのだ。

 魔王と対峙する時も近いのかもしれん。

 不思議と緊張はない。それは偏に、頼もしい仲間がいてくれるからなのだろう。

 それに、あんなエリモだかエルモだか分からん弱そうな名前の魔王になど、わしが負けるはずがないからな!

 うははは! と一人気持ちよく笑っていると、「――おっさんはいらないのか?」とライアの声が飛んできた。


「それはなんの話だ?」

「Gですわ」

「みんなで分けようって話になって」

「いや、もらえるものなら欲しいが。わし今日なにもしてなかったしなぁ。お前さんたちで分けても良いぞ」

「アタシはオジサンにグリフォンの尾毛でお世話になってるし、オジサンにも分けてあげたいんだけど……」


 楓の気遣う言葉に、皆それには異論ないという話になり。

 結局、余った150000Gは仲良く30000Gずつ分けてくれ、皆の優しさをしみじみと感じたのだった。

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